元魔王様と三人目の魔法生命体 2

 隠し階段を降っていくと広い空間に出る。

ジルには何に使うのかは分からないが、何らかの施設の様だ。

魔の森の奥深くと言う危険地帯に作っている事から、人目に触れさせたくないのだろう。


「空間把握で分かっていたが、相当広いな。」


 辺りを見回すが広過ぎて奥が見えない。

空間把握によって全容は把握しているが、改めて目で見るとその広さに驚かされる。


「生体反応も幾つかあるが、目指すとすれば二つか。」


 空間把握を使用した際にドラゴンと思われる魔物を発見したが、そこから少し離れた場所に人も見つけていた。

この地下施設にいる唯一の人だったので、色々と情報を持っているだろう。


「暴れられるのも面倒だし先にドラゴンを排除するか。」


 ジルは一先ずドラゴンの方に向かう事にした。

魔物の中でもトップクラスに強いのがドラゴンと言う種だ。

前世の頃だと魔王ジークルード・フィーデンを除けば世界で最も強い者達に数えられていただろう。

それ程にドラゴンと言う種は強大な存在だ。


「原初の龍で無い事を祈るばかりだな。」


 それだけがジルの中での不安様子であった。

ドラゴンと一括りに呼んでも様々な個体が存在する。

扱える魔法の種類が違ったり、長く生きて知識や力を蓄えていたりと個体によって全然違う。


 そんなドラゴン種の中でも最古にして始まりのドラゴン達が原初の龍と呼ばれている。

原初の龍は世界に存在する魔法の種類と同じ数だけ存在していると言われている。


 理由は各魔法の適性を持って初めてこの世界に降り立ったのが長き時を生きる原初の龍だと言い伝えられているからだ。

なので世界に魔法を広めた存在として原初の龍は魔法の始祖とも言われている。


 そんな原初の龍達とは魔王時代に出会った事がある。

魔法の始祖と呼ばれているだけあって、どれもこれも相当な強者揃いであったが、そんな存在を凌駕する程に魔王ジークルード・フィーデンが別格の化け物ではあった。


 しかしそれは神々の恩恵によって神域に至る程の力を持っていたからだ。

転生して弱体化した今では、原初の龍と戦えるだけの力があるかは分からない。


「確かこの辺りだったな。」


 事前に空間把握で認識した近くまでやってきたので再び空間把握の魔法を使用する。

少し離れたところにある開けた空間でドラゴンが眠っている様だ。


 先程までは詳しく調べていなかったので、ドラゴンの事を観察していくと原初の龍で無い事は直ぐに分かった。

ドラゴンはドラゴンでもかなり若い個体と思われる。

それでもドラゴン種自体がSランク認定されているので、厄介な存在である事には変わらない。


「寝ているならチャンスだな。暴れられる前に仕留められる。」


 ジルは空間把握の魔法を使用しながら、時空間魔法の空間連結を同時使用して目の前の空間とドラゴンの首部分の空間を繋げる。


「しぶとい個体は心臓を破壊しても直ぐに死なないからな。首を落とすのが一番だ。」


 魔物のランクが高くなると個体の強さだけで無く、耐久力やしぶとさも上がる。

そう言った魔物は魔法やスキルの発動部分となる目や口のある首を落とすのが効果的だ。


「居合いで斬り落としたいが、相手はドラゴン種だからな。念の為にスキルも使っておくか。」


 ジルは紫電一閃と言うスキルを使用する。

このスキルは一度だけ剣を振る速度を極限まで高めて、目に見えない程の神速の剣技に昇華してくれるスキルだ。

これによってジルの居合いは誰の目にも止まらない神域の剣技と化す。


「魔技、ルースレススラッシュ!」


 居合いの構えから目の前の空間に魔装した銀月を抜く。

間近で見ていたホッコですら、ジルがいつ剣を抜いたか気付けていないだろう。

抵抗感無く目の前の空間を通過した銀月だが、空間連結の魔法を使用しているのでドラゴンにも効果を及ぼしている。


「どうやら本気を出し過ぎた様だ。」


 空間把握を使って確認するがドラゴンの首は胴体から離れて確かに絶命している。

それだけで無くドラゴンの後ろにある何らかの機械類も綺麗に真っ二つとなっていた。


 そして空間が繋がっているので片方がそうなっていると言う事はジルの目の前でも同じ事が起こっていると言う事で、真っ二つになった機械が音を上げて崩れていっている。

派手に壊してしまったので遠くにいるこの施設の関係者にも存在がバレてしまったかもしれない。


「取り敢えずドラゴンだけは回収しておかないとな。」


 魔物の最高ランクであるSランク、しかもドラゴン種となれば幾らになるのか想像も付かない。

確実に大金になる事が分かりきっているので回収しないと言う選択肢は無い。


「よし、回収したし出迎えるとするか。」


 空間把握によって施設の者がこちらに向かってきているのは認識している。

どう言った行動に出てくるかは分からないが脅威は事前に排除したので安心して対応出来る。

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