40章

元魔王様と三人目の魔法生命体 1

 既に何匹目かも分からない魔物を銀月で斬り裂き倒す。

既に周りはジル達の倒した魔物の死骸で溢れている。

魔の森の外に向かう魔物を倒し続けていたらこうなったのだ。


「そろそろ収納しないと足場も無いな。」


 スタンピードに関係がありそうな魔物が多過ぎる。

これだけの魔物が押し寄せると冒険者達も苦労するだろう。


「ホッコ、少しだけ魔物の相手を任せるぞ。遠距離攻撃でいいから牽制していてくれ。」


「クォン。」


 ジルの指示に従って氷の壁を作って進路を塞いだり、氷の矢を放って傷を負わせてくれる。


「かなりの数だな。落ち着いたらギルドに流して換金するとしよう。」


 倒した魔物を無限倉庫に収納して開けた空間を作る。

高ランクの魔物が多いので相当な金額になりそうだ。


「さて、この辺りは随分と減らしたがスタンピードに関わる魔物はまだまだ残っていそうだな。」


 魔の森を大所帯で移動していく魔物はまだまだ見える。


「やはり大元を潰さないと駄目か。」


 ジルが視線を向けたのは魔物達が移動してくる方向だ。

その方向からスタンピードに関係する魔物達がやってきているので元凶があるかもしれない。


「魔物のきた道を辿れば元凶に出会える可能性はある。街も前線も援軍が必要無いのであれば今が攻め時だな。」


 ジルとホッコは魔の森を突き進む。

すれ違い様に魔物の数を減らしていくが、進むに連れて数が増えていくので焼け石に水かもしれない。


「さすがは魔の森だな。おそらく深く潜っているからだろうが、魔物のランクも上がっていく。」


 外周部で戦っていた時とは違って全体的に強い魔物ばかりだ。

それが数で攻めてきたらかなり危険である。

高ランク冒険者ばかりなので簡単にやられる事は無いと思うが、間引いておけば負担は減る。


「まあ、魔法やスキルに制限が無いのであれば問題無いな。」


 ジルにとっては制限の無い戦いであればランクが上がろうとも大した問題は無い。

今も目の前でAランクの魔物が瞬殺されている。


「クォン。」


「ん?何か見つけたのか?ホッコは目が良いな。」


 ホッコが向いている方に目を凝らす。

すると危険な魔の森にあるには不自然な物を発見した。


「おっ、お手柄だぞ。明らかに人工物だな。」


 石造りの建物がそこにはあった。

スタンピードに関係があるかもしれないので調べる為に近付く。


「ガルルル。」


 建物の直ぐ側に巨大な虎の魔物がいてジルを威嚇してくる。


「番犬のつもりか?」


「グルアッ!」


 そうだと言わんばかりに大口を開けてジルに突進してくる。

噛まれれば全身の骨が砕かれそうな程に凶悪な歯を剥き出しにしている。


「高ランクでも実力差は理解出来無いか。フレイムエンチャント!」


 銀月を火魔法で強化し、全身魔装を行い一瞬で距離を詰める。

そして魔物目掛けて銀月を一閃すると簡単に首が焼き斬れて地面に落ちる。


「Aランクの魔物も大した事は無いな。だがこの先は少し違う様だ。」


「クォ…。」


「敵の気配で怯えてしまったか。ホッコは相手との実力差を理解出来て偉いな。」


 怯えているホッコを撫でて安心させる。

視界内にはいないが強力な気配を二人は感じ取っていた。


「残っていてもいいぞ?我が断絶結界を使用しておけば、危害を加えられる事も無いだろうしな。」


「クォン。」


 ジルの言葉にホッコは首を振る。

従魔としてしっかり付き従っていきたい様だ。


「そうか、それでこそ我の従魔だ。安心しろ、我の側が一番安全なのだからな。」


「クォン。」


 分かっていると言わんばかりに頷いている。

行動を共にして暫く経っているのでジルの強さは充分理解している。

主人が最強の生命体である事をホッコは疑っていない。


「さて、では探索開始といこう。と言っても空間把握で隠し階段も地下の広い空間も既に認識出来ているけどな。」


 時空間魔法によって既に全容を把握済みだ。

二人が感じた気配の正体も認識済みである。


「あの形態はワイバーンと思いたいがおそらく違うだろうな。そもそもワイバーンから感じられる気配では無い。」


 現実逃避したいがそうも言ってはいられない。

気配からも分かるが化け物と呼ばれる者達が振り分けられるランク帯なのは明らかだった。


「そうなるとドラゴンだろうな。厄介な魔物を飼っている。」


 ワイバーンと姿形は似ているが中身は全くの別物だ。

強さも全然違うので同じ様なものだと思って挑めば痛い目をみる。


「この気配に当てられて魔物達が暴れ出した可能性が高いな。ドラゴンか、厄介なのが出てこなければいいのだがな。」


 ジルは激しい戦闘になる事を覚悟しつつ、隠し階段降りて地下へと向かっていった。

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