元魔王様と三人目の魔法生命体 4

 白衣の男の切り札であるキマイラをジルは軽々と倒した。

この程度では足止めにもならない。


「くそっ、だが私にはまだあいつがいる。おい何をしている、早く来い!侵入者を殺せ!」


 男がジルの歩いてきた方向を見ながら叫んでいる。

しかしその声が地下施設に響くだけで何も起こらない。


「何故だ、私の指示には逆らえない筈なのに。」


「お前が呼んでいるのはこいつか?」


 ジルはそう言って回収しておいたドラゴンの首を取り出す。

胴体もあるが首だけ見せれば理解するだろう。


「…。」


「悪いが面倒な敵は最初に倒させてもらった。ドラゴンが頼りだったのなら降伏するんだな。」


 ドラゴンに暴れられると面倒なので先に倒しておいたが、どうやら正解だった様だ。

従魔では無くても何らかの方法でこの者の支配下にあったらしいので、放置しておけば敵対する事になっていた。


「一応スタンピードに関係している様だし連れ帰って情報でも吐かせるか。」


「くくくくっ、ふっはっはっは!」


「絶望的な状況におかしくなったか?」


 ジルが捕縛しようと近付くと男が急に高笑いをしだした。

Sランクの魔物であるドラゴンが倒されたと知り、感情が狂ったのかもしれない。


「認めようじゃないか、まさかドラゴンまで倒してくれるとはな。こんな存在がセダンの街にいたとは驚いた。闘姫と同じ化け物だな。…いやそうか、貴様がイレギュラーだな?」


 男は何か思い当たる節があったのかジルを見てイレギュラーと確信した様子だ。

そしてその呼び方をする連中とはつい先程出会い、激戦の末取り逃している。

何かと縁のある謎の集団だ。


「その呼び方、あの連中とも繋がりがあるのか。これは是非とも連れ帰りたいところだな。」


 あの者達についての情報は不足している。

関係者は是非とも捉えて無理矢理にでも情報を得たいところだ。


「私を捕まえるのは容易だろう。だがこれで終わりではない。」


「まだ何か召喚するのか?」


「その通りだ。ここではないがな!」


 男が懐から取り出した何かのスイッチを押した。

身構えるが特に何も起きない。


「ふっはっは、私を貶めてくれた礼だ。全てを破壊してやる!」


「ジル様、今大丈夫なのです?」


 男が何をしたのか分からずにいるとシキから真契約の恩恵の意思疎通がきた。


「どうかしたか?」


「緊急の報告なのです。セダンの街がたった今魔物の大群に囲まれているのです。」


「何?前線が崩壊したと言う事か?」


 スタンピードの魔物達を抑えていた魔の森の前線部隊。

あの場所にいる高ランク冒険者達がやられなければ、そんな状況には陥らない筈だ。


 しかしあの場所にはアレンがいるし、遊撃としてナキナやエルミネルもいるのでピンチなら駆け付けられる。

面子的にそう簡単にやられるとは思えない。


「そんな報告は入ってないから違うのです。街の外を警備していた人の話しだと、突然信じられない程の魔法陣が現れて魔物が出現したらしいのです。」


 どうやら前線とは別件の魔物らしい。

そしてその状況を聞いてジルは納得した。


「そう言う事か。犯人は知っているし対応済みだ。我もなるべく早く戻る。」


「お願いするのです。前線の人達を呼び戻すのにも時間が掛かるのです。ラブリートも数が多過ぎて一人だと無理って言ってるのです。」


「分かった。」


 対個人では無類の強さを誇るラブリートでも、魔物の大群が相手となると若干分が悪いだろう。

一人で殲滅出来無くもないと思うが、街の皆を守りながらでは時間も掛かるし犠牲も少なからず出てしまう。

早めに援軍に向かう必要がある。


「セダンに魔物を召喚したのはお前だな?」


「ほう、遠距離との連絡手段を持っていたか。その通りだ、作戦は必ず成功させる。最悪の事態を想定して二重三重に策を用意しておくのは当然の事。」


 男はニヤリと嫌らしい笑みを浮かべて言う。

作戦がどんなものかは分からないが、狙いはセダンの街の様である。


「面倒な事をしてくれる。」


「敵にそう思わせたのなら成功だな。故に更にそう思わせてやろう!」


 男の周囲に魔法陣が現れ魔物が出現する。

また魔法陣による召喚かとジルは思ったが先程までとは違う。

召喚される魔物のレベルが先程までとは雲泥の差だ。


「遊撃に使おうと思っていたSランクの個体達で派手に時間稼ぎをしてやる!ここで大盤振る舞いだ!」


 魔法陣から出現した魔物は全てSランクに分類される魔物達であった。

こんなにSランクの魔物が集まっているところを見る機会も中々無い。

普通の冒険者にとっては地獄の様な光景だろう。


「ちっ、本当に面倒な奴だな。」


 Sランクの魔物達と対面しているのは普通の冒険者では無い。

特に絶望する事は無く、ただただ面倒くさそうにそう呟いた。

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