元魔王様と災厄の対策 6

 ラブリートと共に入ってきた子供が、まさかそんなに偉い立場の者だとは誰も思わなかったのだろう。

セダンの街に元々住んでいた者達以外が驚愕や困惑の表情を浮かべている。


「…あ、あ。」


「安心していいよ、不敬罪とかにするつもりは無いからさ。」


 自分の事を子供扱いしてきたギルメンテが青い顔で言葉に詰まっていたのでトゥーリが笑顔で告げる。

同じ事をジルもした事があるのだがその時も特にお咎めは無かった。

見た目からトゥーリはこう言った事に慣れているのだろう。


「も、申し訳ありませんでした!以後気を付けます!」


「うんうん、分かってくれたらそれでいいよ。」


 ギルメンテが許された事で他の冒険者達も安心している。

貴族によっては不敬罪で酷い目に合わせられてもおかしくない。

貴族と話す時は発言に充分注意が必要なのである。


「ちっちゃいのに偉い、凄い子供。」


「そうだな、我も伯爵と言うのは初耳だ。そんなに爵位が高かったんだな。」


「いや、エルミネルは仕方ねえけど、ジルは自領の領主くらい知っておけよ。」


 アレンが呆れた様な視線を向けてくる。

そう言われても貴族なのは知っていたが爵位を聞くタイミングなんて無かった。

なんならこの前まで世話になっていたトレンフル家の爵位もジルは知らない。


 そしてそんな三人の会話を他の冒険者達が驚きながら聞いている。

貴族と分かって尚、失礼な会話を続行しているのだ。

正気の沙汰とは思えないだろう。


「はぁ~、君は本当に私に興味が無いんだね。出会った頃から薄々分かってはいたけどさ。」


 トゥーリがやれやれと首を振りながら言う。

当時セダンの街で暫く過ごしていながらもトゥーリの事をジルは全く知らなかった。


 人族歴の短いジルからすれば、それは仕方の無い事なのだが相手はそれを知らないので興味が無いと思われるのも当然だ。


「補足しておくけど領主とそこの冒険者は知り合いよ。だからこんなに気楽なやり取りが出来ているって事。ちなみにこれはコネでも何でも無いわ。」


「そう言う事、この関係は彼が実力で手に入れたものさ。貴族の私と対等に話せるくらいの立ち位置を実力でね。」


 その言葉に冒険者達が驚いている。

大抵の冒険者達は貴族との繋がりを持つ事を目標として冒険者業をしている者が多い。


 一攫千金を目指して冒険者になる者が多いので、権力者の貴族と繋がりを持てれば稼げるチャンスが舞い込んできやすくなるからだ。

しかしそれがどれだけ難しい事なのか高ランクの冒険者であれば誰もが知っているので、トゥーリの発言に驚いたのだ。


「…それだけの力をそこの冒険者が持っていると言う事ですか?」


「そう言う事だね。君達は低ランクの彼らがこの会議に相応しくないと思っているみたいだけど、私から言わせてもらうと彼らに抜けられると困ってしまうんだ。スタンピードで大活躍間違い無しなんだからね。」


 ジルは言うまでもなく、アレンの強さもトゥーリの下まで届いている。

そしてエルミネルの強さはエルロッドが太鼓判を押しているので心配していない。

スタンピードを乗り切るには三人共絶対に必要なのである。


「とてもそうは思えません。低ランクの冒険者が我々高ランクの冒険者と同じ活躍をするなどと。」


「ランクが全てじゃないって事さ。」


 実力者であってもジルの様な理由でランクを上げたがらない者が少なからずいる。

そう言った者達はランクは低いが冒険者の中ではトップ層と遜色無い実力者に違い無いのだ。


「領主様がそこまで仰られるのであれば、是非その証拠をお見せ願いたい。」


 言葉だけでは信じられないので明確な証拠の提示をギルメンテが求める。


「証拠、証拠ね。証拠を出してくれたりは?」


「結局こちらに判断を委ねるのか。お前達が何とかするところだろう?」


 これでは何の為にトゥーリとラブリートがタイミングを見計らって出てきたのか分からない。

こちらに振らずしっかりと皆を納得させてほしいところだ。


「こう言う手合いは実際に見ないと納得しないからさ。」


「実績を提示しても信じられないんでしょう?」


「そんな物は幾らでも捏造出来る。この目で確かめさせてもらいたい。」


 ギルメンテの言葉にジルは内心溜め息を吐く。

こんなやり取りはどこぞの戦闘狂貴族とも行なった気がする。

何を求めているのか何となく分かるが一応尋ねる事にする。


「つまりどうしろと?」


「模擬戦と言う事になっちゃうわね。それで負けたらさすがに納得するんじゃないかしら?」


「そうだな、模擬戦なら実力も測れる。万が一にも負ける事などあり得ないがな。」


 予想通りの返答に再び内心溜め息が出る。

特に意味の無い戦闘は面倒なのでしたくないのだ。


「面白え、ぶっ飛ばしてやろうぜ。」


「戦い、私やりたい。」


 どうやら戦いたくないと思っているのはジルだけの様だ。

模擬戦と言う言葉が出た途端に両サイドの二人はやる気を漲らせている。


「ちっ、元々こう言う予定だったな?これは高くつくから覚悟しておけよ。」


 ジルが誰にも聞こえない程小さな声で元凶のトゥーリに向けて言う。

本人に聞こえてはいないと思うが、嫌な予感でもしたのか少しだけトゥーリは身震いしていた。

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