元魔王様と災厄の対策 7

 ジル達のランクが低くても実力者である事を証明する為に会議室にいた者達は演習場へと移動する。

高ランクの冒険者達だけで無く、領主やギルドマスターも一緒に移動しているので、ギルド関係者も冒険者も何か始まるのかと演習場を空けてくれた。


「はあ、よくも面倒事に巻き込んでくれたな?」


 ジルが近くにいるラブリートに文句を言う。

本当はトゥーリにも言いたいところだが、これから模擬戦が始まるので安全な位置に退避済みだ。


「仕方無いじゃない。こうでもしないと納得しないんだから。」


 そう言ってギルメンテ達の方を見ている。

しっかりと実力を示しておかないとジル達がスタンピードで自由に動けなくなる。

優秀な人材を遊ばせておく余裕は無い。


「我が戦わなくても戦闘狂が二人もいるだろう?」


「後々何か言われない為にも三人の実力をしっかりと見せておくべきだわ。トゥーリちゃんもスタンピードの時は三人の事を重要な場所に配置したいでしょうからね。」


 アレンとエルミネルの実力を示しても、ジルのランク的に文句を言ってくる者が現れないとも限らない。

なので三人がそれぞれ実力を示す為に戦う必要があるのだ。


「他の冒険者から文句を言われない為にって事か。」


「そう言う事ね。私と一緒ならカバーしてあげられるけど、私達が同じ場所にいても過剰戦力だからきっと分けられちゃうわ。」


 Sランククラスの実力を持つジルとラブリートがスタンピード中に一緒に行動する事は無いだろう。

トップクラスの戦力は同じ場所に集中させるよりも、分けて扱った方が対処出来る場所が広がる。


「仕方無い、さっさと終わらせてトゥーリに文句でも言うとしよう。」


「今回のはトゥーリちゃんの発案だから、私には文句を言わないでちょうだいね。」


 どうやら会議での出来事は事前にトゥーリが決めていた筋書き通りだったらしい。


「成る程、後で迷惑料でも巻き上げるとするか。」


 タダ働きは嫌なので文句ついでに報酬も貰う事に勝手に決めた。


「おい、私達のパーティーは五人だ。お前達が戦いたい相手を選ぶといい。」


 ギルメンテが自分のパーティーを見ながら言う。

人数差があるので同じ数になる様に選出しろと言ってきている。


「三対三って事?」


「まさか今更怖気付いたか?」


「面白い冗談、三対五で充分。」


「ほ、ほう。」


 酒場で食事していた時にギルメンテのパーティー、剣の誓いは見ているので五人なのは既に知っていた。

その人数差でも余裕だとエルミネルは思っていた。

エルミネルの余裕そうな態度の発言にギルメンテが青筋を浮かべている。


「だな、こっちは即席だが団体戦といこうぜ。」


 アレンもそれで問題無い様だ。

即席でもこの面子ならどうにか出来る自信があるのだろう。


「随分と余裕だな。その態度を直ぐに改めさせてやる。」


 三人の事を睨み付けながら言い放ち、自分のパーティーの下へ戻っていった。


「相手を挑発してどうする?しかも人数を増やすとは面倒な事を。」


 模擬戦自体乗り気では無いのに相手が増えて更に面倒になってしまった。


「いいじゃねえか、相手が増える程やりがいがある。」


「三人だと直ぐに終わる。」


 ジルと違って乗り気な二人は相手が増えて嬉しそうだ。

実力者パーティーと戦える機会は珍しいので楽しんでいる様子だ。


「全く、我の周りには戦闘狂しかいないのか?」


 ジルは内心で溜め息を吐きながら言う。


「まあいい、お前達が戦いたいのであれば存分に遊んでやれ。だが先手は我に譲ってもらうぞ。」


「なんだかんだ言って自分もやりてえんじゃねえか。」


「一人だけずるい。」


 先手を担うと言うジルの発言に二人が文句を言ってくる。


「お前達と一緒にするな。多少は実力を示さなければ模擬戦をする意味が無いのだろう?最初に少し攻撃して実力を示すだけだ。」


 要は見ている者達に実力を認めさせればいいだけなので、ずっと戦っている必要は無い。

少なくともAランクパーティー並みに強い事を示せれば、その後は二人に模擬戦を任せても問題無いだろう。


「全部一人でもってくんじゃねえぞ?」


「さすがにAランクパーティーだからな、一撃で全滅する事は無いだろう。残った者達は好きにするといい。」


 初撃で全滅させれば二人からの文句が凄そうなので、それなりに手加減するつもりではある。


「そろそろ始めてもいいかしら?」


 ラブリートが両方のパーティーに確認を取ってくる。

どちらも準備は出来ているので戦いやすい位置に移動してそれぞれ武器を構える。


「模擬戦開始よ!」


 ラブリートの合図と同時にジルは腰を落として銀月の柄に手を添える。


「抜刀術・断界!」


 ジルが魔装した銀月で居合い抜きをすると空間が揺れた様に感じられる。

居合いにより生じた魔力の斬撃が剣の誓いに襲い掛かる。


 ジルの攻撃に剣の誓いの者達の内、二人は反応してギリギリ斜線上から退避するが三人は反応が遅れる。

反応が遅れた者の中でも二人は防御が間に合って、武器や防具を損壊させながらも耐えられたが、一人はジルの攻撃によって完全に意識が刈り取られて地面に力無く倒れた。

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