元魔王様と災厄の対策 5

 会議室に次々と冒険者が揃ってきて、いよいよ会議が始まる。


「やっと始まるか。それにしても人数が多いな。」


「見慣れない奴も多いし、他の街から来た冒険者が大半だろうな。元々セダンで活動してる奴は殆どが治療施設だ。」


 スタンピードの予兆はかなり長期間続いていた。

その間元々セダンで活動していた冒険者はずっと魔物の対応に当たっており、無事な冒険者の方が少ないくらいだ。

なので入れ替わる形で他の街の冒険者の方が多い。


「ん?始まる?」


 テーブルに突っ伏していたエルミネルが顔を上げて呟く。


「静かだと思ってたらガチ寝かよ。」


「こんな喧しい場所でよく眠れるな。」


 ジルとアレンが呆れた様な視線を送って言う。


「睡眠は大事。暇な時は寝るに限る。」


 会議室はかなりの数の冒険者で埋まっていて話し声も様々な場所でしている。

こんな場所で眠れるとは本当に寝る事が好きなのだろう。


「静粛に。これよりスタンピード対策会議を始める。」


 会議室に入ってきたエルロッドがそう言うと冒険者達も話すのを止めて静かになる。


「先ずは高ランク冒険者諸君、わしの呼び掛けに応えてこの場に集まってくれた事に感謝する。セダンの街を守るには皆の協力が必要不可欠じゃからな。」


 会議室にいる者達を見回してエルロッドが言う。

周辺の街から沢山の冒険者を呼び寄せたが多くて困る事は無い。

スタンピードとはそれ程警戒しなければならない災厄なのだ。


「今回は規模の分からぬ災厄のスタンピードに、どう対応するのかを話し合う場を設けさせてもらった。普段のパーティーとは明らかに規模の違う協力体制が必要じゃからのう。」


「異議あり!」


 エルロッドの言葉に思うところがあったのか、一人の冒険者が勢い良く手を上げてそう宣言している。

その者は先程酒場で絡んできたランク至上主義の男、ギルメンテであった。


「確かギルメンテじゃったな?何か気になる部分でもあったかのう?」


「大アリだ。確かにギルマスの言う通り冒険者が一丸となって挑むのは分かる。その為にセダンに滞在する高ランク冒険者で話し合いをすると言うのもな。だが相応しくない連中が紛れ込んでるだろう?」


 そう言ってギルメンテが睨む様に視線を送るのは当然ジル達である。

先程の事で目の敵にされてしまっている様だ。


「確かに見ない顔だな。」


「ギルメンテが愚痴ってたがCランクやDランクらしいぜ?」


「何でそんな奴らがこの会議に?」


 周りの冒険者達もジル達について話し合って疑問を浮かべている。

この会議はスタンピードの主力となる高ランク冒険者が集まって行われるものなので、ジル達のランク帯が参加しているのはおかしいのである。


「スタンピードは災厄だ!高ランク冒険者が主体となって挑むべきであり、足手纏いの低ランクを出しゃばらせるべきでは無い!会議に相応しくない者は退場させるべきだ!」


 低ランクの冒険者達もスタンピードに参加しない訳では無いのだが、基本的には街の防衛に当たってもらう事になる。

危険な場所は高ランク冒険者のみで対処する予定なので会議に参加する意味はあまり無い。

会議の結果は後日発表されるのでそれを待てば知れる。


「あんな事言われてるぜ?」


「弱いのによく吠える。」


「我は別に会議に参加しなくても構わんのだが、エルロッドやミラがどう対処するか見ものだな。」


 三人は特に怒るでも無く、この後のギルド側の出方を楽しんでいると言った様子である。

主戦力級の三人が激戦区に参加しない訳は無いので、この話し合いでどうにか他の者達を納得させなければいけない為、ギルドマスターの腕の見せ所である。


「そう言った意見が出るのも想定済みじゃ。その説明もしないといかんのう。」


 そうエルロッドが呟くと同時に会議室の扉が開く。


「失礼するよ。」


 そう言って中に入ってきたのはトゥーリとラブリートである。

セダンの街をスタンピードから守る会議なので、領主とSランク冒険者も当然参加する。


「闘姫だ。」


「俺初めて見た。」


「迫力あるな。」


 実際にラブリートを目の前にした冒険者達がひそひそと話し合っている。

さすがに高ランク冒険者しかいないので、ラブリートを怒らせる様な発言をする者もいない。


「何だこの子供は?」


 ギルメンテがトゥーリを見て言う。

ラブリートの知名度は冒険者の中では相当なものだが、他の街の領主までは把握していない様だ。

その発言を聞いてトゥーリが貴族だと知っている冒険者達は息を呑んでいる。


「私は心が広いし君は来たばかりだからね。無知なのは寛大な心で許すとするよ。」


「はあ?」


 トゥーリが可愛らしくにっこりと笑ってそう言うが、ギルメンテは何を言われているのか分からないと言った様子である。

他の貴族であればいきなり不敬罪と言ってもおかしく無いので、一部の冒険者は一安心と言った様子だ。


「私の事は冒険者だから知ってくれているみたいだし、私から紹介してあげるわ。この方はセダンの街の領主様、トゥーリ・セダン伯爵様その人よ。」


 ラブリートの紹介を耳にしてトゥーリの事を知らなかった冒険者達の表情が固まった。

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