元魔王様と武闘派エルフ 2
スタンピードに対処するとなると高ランクの冒険者は幾らでもほしいので、エルロッドの知り合いには自然と期待が高まる。
「その冒険者はいつくるんだ?」
「ジルさん、興味があるんですか?」
それなりにジルの担当受付嬢となって長いミラは、他の冒険者に興味を持つ事に驚く。
あまり他者との関わりを持たないイメージがあったのだろう。
「せっかくギルドにいるから見ておこうかと思ってな。」
「成る程、スタンピードから街を守る為に共闘するのですから今の内に顔合わせはいいかもしれませんね。確かギルドマスターが街の案内をしつつギルドに連れてくる予定になっていた気がするので間も無くくると思いますよ。」
スタンピードはいつ起こるか分からず、他の街から来たのだから暫くはセダンの街で過ごす事になる。
知り合いと言う事でギルドマスターであるエルロッドが案内役を買って出たのだろう。
「それなら少し待つとするか。」
「戦いばかりだと疲れてしまいますからね。明日以降も高ランクの魔物の対処に当たってもらいたいので、空き時間でゆっくり休息して下さいね。」
受付嬢としては高ランク冒険者達に頼り切りになる現状で体調面が心配であった。
毎日激戦続きともなれば、冒険者達は満足に休む暇も無く、心身がボロボロになっているかもしれない。
戦えない者達からすれば街を守ってくれるのは有り難いが自分の身も守ってほしいと思っている。
手遅れになる様な事態にはなってほしくは無いのである。
「まあ、今日のは大した事は無かったから休憩する程でも無いな。」
「そうじゃな。妾も余裕じゃったぞ。」
どちらも特に怪我をした様子は無く、疲労さえも感じていない。
元々の自力が高いのでそう簡単に苦戦する事は無い。
「Bランクの魔物なので、本来ならDランクの方々が言える台詞じゃないんですけどね。」
ランク的には明らかに格上だったのだが、そもそも二人がDランクの枠組みにいる事自体がおかしいので、圧倒しても不思議は無い。
ナキナならAランク、ジルならその上のSランクにいても実力的にはおかしくないのである。
「あ、来たみたいですよ。」
ミラの声にギルドの入り口を振り向くとエルロッドが入ってきた。
「助っ人とはエルフの事だったか。」
エルロッドが連れている人物は同族のエルフだった。
長い金髪のスレンダーな女性エルフであり、種族特有のかなりの美形である。
「ギルドマスターの様に人族の街で暮らすエルフも少ないですがいますからね。それだけでも自分の身は自分で守れる事を体現しているので、実力者には違い無いですね。」
エルフ族は昔からその美貌故に人族に狙われてきた。
今はそう言った行為は表向きは禁止されているが、エルリアの時の様に違法奴隷を扱う者はまだまだ存在する。
そう言った者達から自分の身を守れる者だけが、人族の国で生活出来るのだ。
「強そうなのです。でも杖や弓矢が見えないのです。」
「ジル殿の様に収納系のスキル持ちかのう?」
エルフ族と言えば魔法や弓に長けた種族なのだが、特に武器らしい物を持ち合わせてはいない様だ。
ナキナの言う様に収納系のスキル所持者かもしれないし、杖を持ち歩かない魔法使いの可能性もある。
ジルも杖を使ったりはしないが、魔法を主体として戦う者は杖を扱う者が多い。
魔法の威力向上、詠唱の手助け、魔力消費量の減少、効果範囲の拡張と杖によって様々な恩恵を受けられるからだ。
それでも大きな杖を持ち歩いて嵩張ったり、出会って直ぐに魔法使いだと悟られたくないので持ち歩かなかったりと杖を持たない魔法使いもいるので、そう言うタイプのエルフなのかもしれない。
「おお、丁度良いところにおったな。」
エルロッドがこちらに気付いて近寄ってくる。
「わしの知り合いのエルフがスタンピードの増援として来てくれたから紹介しておこう。」
「エルミネル、宜しく。好きなのは戦いと睡眠。」
エルミネルと名乗ったエルフが簡潔に自己紹介をしてくれたので、ジル達も軽く自己紹介をしていく。
それが終わると何故かエルミネルがジーっとジルの事を見てくる。
「どうした?」
「強そう。」
「ジルであればエルミネルに認められるのも当然だな。」
エルロッドが納得した様に頷いて言う。
「認められる?」
「こやつは天性の直感で相手の強さが何となく分かるんじゃ。」
「この街で見た中で一番。この人も強そう。」
そう言ってジルの隣にいるナキナを指差す。
「それは光栄じゃな。」
「模擬戦してみたい。」
エルミネルがキラキラとした目を向けて言う。
あまり表情に変化の無い人物だと思ったが、自己紹介した様に好きな事となると分かりやすいのかもしれない。
「妾は大歓迎じゃぞ。ジル殿は受けぬかもしれんが。」
「何で?」
「戦う理由が特に無いからな。」
目的の無い戦いはあまりしたいとは思わない。
毎日魔物と戦っているので充分である。
「強者との戦い、心踊る。」
「価値観の違いだな。」
「残念、一番強い人と戦いたかった。」
エルミネルは少しだけしょんぼりとした表情で言う。
戦う事が好きなので強者のジルとは戦ってみたかったのだろう。
「と言うか一番強いと言っているが、ラブリートには会っていないのか?」
「誰?」
エルミネルが首を傾げているのでエルロッドに視線を向ける。
「すれ違いでのう。時間が合えば会わせる予定じゃ。」
「この街で一番強いのはラブリートと言うおと…者だから、模擬戦ならそっちに挑んでくれ。」
「分かった、楽しみ。」
エルミネルの興味がラブリートに移ってくれた。
模擬戦をラブリートが受けてくれるかは分からないが、面倒事を任せられるのであればそれでよかった。
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