元魔王様と武闘派エルフ 3
「ジル達はこの後暇なのかのう?」
「何故だ?」
特にする事も無いが暇と答えてエルミネルの相手をさせられるのは面倒だ。
「エルミネルが模擬戦をするんじゃよ。良かったら見ていかんか?」
「我以外との模擬戦なら構わないぞ。」
「別の者じゃから安心せい。今は様々なギルドから高ランク冒険者を派遣してもらっておる。中にはランクに胡座をかいて好き勝手に行動する者も多いからのう。ちょっとした仕置きも兼ねての模擬戦じゃ。」
冒険者は荒くれ者も多く、問題を起こす者も一定数いる。
ランクが高ければ何をしてもいいと思っている者もいるので、ギルド側からしっかりと教育する必要がある。
「ふむ、ならば少し見学していくとするか。」
「面白そうなのです。」
「お手並み拝見じゃな。」
皆エルミネルの実力が気になる様だ。
エルフの戦闘を見る機会は中々ないので楽しみである。
「頑張る。」
皆に期待されたエルミネルは意気込んで演習場へと向かう。
「いたいた、あの男じゃ。」
「最近何度か見掛けるな。」
エルロッドが指差した男は他の街から援軍として駆け付けた高ランク冒険者だ。
依頼を受けているところを何度か目にした事がある。
「実力だけならAに近いBランクの冒険者じゃな。素行が少し悪くてランクが上がっておらんらしい。」
ギルド側のランクアップの判断基準には依頼の達成率や内容、冒険者としての人と成り等がある。
それらを総合的に判断して決められるので、ランクが上がっていないと言う事はそれなりに問題があると言う事だ。
「あれを倒す?」
「うむ、演習場は死ぬ事が無いから存分にやってくるといい。」
「分かった。」
エルミネルが男の方に向かっていく。
男はそれなりに実力があるらしいが、エルミネルの足取りは軽く散歩にでもいくかの様だ。
「そう言えば聞いていなかったがエルミネルのランクはどこなんだ?」
「Cランクじゃな。」
「Cか、ランク的に見れば差があるな。」
ランクが一つ変わるだけで実力は大きく違ってくる。
普通であればランク差が二つもある者達が戦っても勝つ可能性は無い。
「安心せい、お前さんの様なランク詐欺タイプじゃ。」
エルロッドが人聞きの悪い事を言ってくるが、その言葉で大丈夫そうだと納得してしまった。
「つまりエルミネル殿の本来の実力はもっと高いと言う事じゃな?」
「うむ、期待して見ておれ。」
エルロッドは戦っても勝つ事を確信している様子だ。
それ程までにエルミネルの実力は高いのだろう。
「何やら怒っている様だな。」
「低ランクのくせに生意気だって聞こえるのです。」
「格下に挑まれたと思っておるからじゃろうな。」
何と声を掛けたのかは分からないが随分とお怒りの様子である。
しかしそれも少し会話する内に静かになっていき、最終的に男はニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべていた。
「おっ、話しが付いたみたいじゃな。」
エルミネルがジル達の下に戻ってくる。
それを見て相変わらず男はニヤついている。
「戦ってくれる。条件付きで。」
「条件?」
「見てくれがいいから、負けたら一晩抱かせろって。」
エルミネルがとんでもない条件を口にする。
男が気味の悪い笑みを浮かべていたのはエルミネルを抱く妄想でもしていたのだろう。
「それで許可したのか?」
「うん。」
「エルミネル殿、同じ女としてそう言った事はもう少し慎重にじゃな。」
「問題無い、勝つから。」
ナキナが心配しているがエルミネルは特に気にした様子は無い。
あの程度の輩に負けるとは微塵も思っていない様だ。
「本当に大丈夫なのです?」
「戦い方は特殊じゃが、わしのエルフの知人の中でも一二を争う実力者じゃからな。」
条件に多少驚いていたがエルロッドも同じく負けるとは思っていない。
「エルフの女、俺様が勝ったら約束は守れよ?」
男が舌舐めずりをしながら確認してくる。
絶対にエルミネルを抱くと言う雰囲気が男から伝わってくる。
「うん、勝敗は気絶。」
「問題無いぜ!先手は譲ってやるよ!」
「分かった。」
男は上機嫌になりながら言う。
既に勝った後の事しか頭に無い様子だ。
エルミネルは言われた通りに先手を貰い、足を開いて少しだけ腰を落とし、右手を強く握りながら引き絞って構える。
直後右手が膨大な魔力によって魔装される。
圧倒的な魔力量故に周りの空間が揺らいで見えており、これ程の魔装はジルやラブリートクラスでなければ出来無いだろう。
「
エルミネルが勢い良く拳を突き出すと右手に集約された膨大な魔力が解き放たれて、男に向かって真っ直ぐに放出される。
魔力の奔流が男に着弾すると同時に大爆発が起こる。
あまりにも激しい一撃に演習場中の注目が集まる。
爆発による土煙で様子が分からなかったので、誰かが風魔法で土煙を吹き飛ばしてくれた。
そこには上から下まで装備が破壊された無惨な男が白目を剥いて気絶していた。
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