36章
元魔王様と武闘派エルフ 1
トレンフルに帰ってきてから数日、ジル達はそれなりに忙しく動いていた。
聞いていた通り高ランクの魔物が各地に出現するので、その対処に早速駆り出されていた。
「そっちも今戻ったのか。」
「一緒にゴールなのです。」
「お互い無事の様じゃな。」
ギルド前で偶然合流したジル達は報告の為に中に入る。
今日出現した複数の魔物がAランクだったので、ジル達が同じ場所にいても過剰戦力となる為、二手に別れて対処していた。
「皆さん、お疲れ様です。」
受付に向かうとミラが労いの言葉と共に出迎えてくれた。
「毎日本当に多いな。」
「ええ、確実にスタンピードに近付いている様に感じられます。」
日に日に高ランクの魔物の報告が多くなっている様に感じられる。
冒険者達も毎日現場に駆り出されて大忙しだ。
しかしその分見入りはいいのでそこまで不満は無い。
「Aランクの魔物がこんなに出現するなんて普通はあり得ないのです。」
魔物のランクは強さを表しているが、同時に珍しさや希少性も表している。
ランクが高くなるに連れて出会える確率も減っていくのだ。
なのでこれ程簡単に高ランクの魔物に出会える現状は、明らかに異常事態なのである。
「しかし本番はもっと多いんじゃろう?」
スタンピードの経験は無いので話しを聞いただけだが、予兆と思われる現状でこの有様なのだ。
本番は更にとんでもない事になりそうだと予想は付く。
「そう思っていた方がいいだろうな。戦力は足りていない様だが。」
「毎日こんな戦いを繰り返しているんですから無理もありません。」
連日の高ランクの魔物との戦いによって負傷者は後を経たない。
高ランクの冒険者であっても何度も厳しい戦闘を行なっていれば精神的にもキツく、小さなミスから大きな怪我に発展してしまうのだ。
「あら、皆お揃いね。」
話し合っているとラブリートが声を掛けてきた。
相変わらず体格に似合わない可愛らしい服装をしているが、勿論口に出したりはしない。
「討伐の帰りか?」
「そうよ、魔物が多い場所を終わらせてきたわ。ミラちゃん、他にはあるかしら?」
高ランクの魔物の討伐帰りなのに、直ぐに次の依頼を聞いている。
「はい、もう一箇所高ランクの魔物が集中している場所があります。既に冒険者は向かっているのですが、一応お願い出来ますか?」
ランクに見合う冒険者を送ってはいるが、魔物のランクも高いので用心するに越した事は無い。
Sランクのラブリートが現場に駆け付けてくれれば安心だ。
「任せておいてちょうだい。それじゃあ行ってくるわね。ジルちゃん達もまた今度ゆっくり話しましょ。」
そう言い残してラブリートは直ぐにギルドを出ていった。
「忙しく動いているな。」
「正直ラブリートさんがいてくれて本当に助かっています。もしいなければジルさん達が帰ってくる前にセダンの街は落ちていたかもしれません。」
高ランクの魔物の対処はずっと続いており、たまに現れるSランク相当の魔物も対等に渡り合えるのはラブリートだけだった。
アレンでさえも辛勝と言った感じだったので、まともに戦えるラブリートがいなければ誰も対処出来無かっただろう。
「それにしても何故あんなに積極的に取り組んでいるんだ?」
「ジルさんも知っての通り、今回は早期討伐が求められていますから、ギルドの報酬も糸目を付けていません。」
ミラの言う通り高ランクの魔物の討伐報酬はかなり多い。
普段と比べても数割上乗せされているので、冒険者のやる気は高い。
「そしてラブリートさんは可愛らしい物に目が無く、集めるのにもそれなりにお金が掛かるのです。」
つまり身入りの良い依頼なので積極的に受けていると言う事だ。
趣味の為にはSランク冒険者も金が必要なので、この機会に稼いでおきたいのだろう。
「ラブリートらしい理由だな。」
「こちらとしては国の最高戦力が積極的に動いてくれるので大助かりですけどね。まあ、それでもギリギリなんですけど。」
Sランク冒険者を導入しても人手不足は拭えない。
本来の依頼も行なっている余裕が無いくらいだ。
「近隣のギルドからの助っ人はきているのか?」
話しでは高ランクの冒険者が各街のギルドから派遣されているらしいが、状況は全く楽にならない。
本当に冒険者が増えているのか実感出来無いのである。
「日に日に増えていってはいますよ。負傷者が多いので冒険者が次々に入れ替わる形となり、実感出来ていないだけです。」
冒険者が新しくセダンの街に訪れてくれても、既存の冒険者がアレンの様に怪我を負って戦線離脱しているので、現場の人数はあまり増えていない。
逆に治療施設は怪我人で溢れかえっている程だ。
「ですが今日辺りまた新たに助っ人が来る予定です。ギルドマスターの知り合いらしく、かなり強いらしいですよ。」
ギルドマスターであるエルロッドのお墨付きをもらえるとなると期待出来る。
願わくばラブリートの様な一騎当千の実力者であってほしいものだとジルは思った。
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