元魔王様と帰還を待っていた者達 10
トゥーリとの話し合いが終わった後、ジルは治療施設を訪れていた。
スタンピードの予兆として現れた高ランクの魔物と戦って傷付いた者達が纏められている施設だ。
ここに戦って重体となったアレンもいるらしい。
「怪我の治療ですか?面会希望ですか?」
施設の入り口にいた人がジルに尋ねてくる。
怪我の度合いや面会者の状態で色々と判断する為だろう。
「面会の方だ。アレンと言う冒険者なんだが、今話せる状況か?」
「アレンさんのお知り合いの方ですか。はい、大丈夫ですよ。」
かなり重傷だと聞いていたが、既に話せるくらいには回復している様だ。
「そして可能であれば少し注意してもらえると助かります。ご自分の身体が重体なのに早く退院させろと無茶な事を言ってくるので。」
どうやら完治からは程遠い様だ。
それでも早く現場に復帰したいからそんな事を言って困らせているのだろう。
アレンの稼ぎの一部は孤児院に入れているので、あまり休むと孤児院にお金を入れられない。
「分かった伝えておこう。」
ジルは中に通されてアレンに当てがわれている部屋に案内される。
「入るぞ。」
「ん?ジルじゃねえか、久々だな。」
部屋に入るとベッドでアレンが身体を起こしてそう言ってきた。
トレンフルに行っていたので随分と久しぶりに会うが、相変わらずフランクで絡みやすい冒険者である。
「ああ、酷くやられたって聞いて見舞いにきてやったぞ。」
「情け無い姿を笑いにきたのかと思ったぜ。」
「ほう、我をそんな風に見ていたか。もっと重度の怪我を負いたい様だな。」
アレンの軽口に乗っかってジルがパキポキと手の関節を鳴らしながら言う。
「勘弁しろよ、これでもかなり辛いんだぜ?」
平然を装って話しているがアレンの怪我はまだ治っていない。
動く度にそれなりに身体中に痛みが走り、辛い状態ではありそうだ。
「だろうな。前に比べて随分とやつれている。」
初めて出会った時と比べても一目瞭然だ。
無理なダイエットをした様な不健康そうな見た目である。
「魔力と血をこいつに吸われまくったからな。」
アレンが側に置かれている武具を見て言う。
Aランクの特殊個体を倒し、アレンをこんな状態にした呪いの武具だ。
「自分を殺しそうになった武器をまだ手元に置いていたとはな。魅了でもされているのか?」
こんな状態になるならもう二度と使いたくないと思っても不思議では無い。
それなのに手放さないのは武具に魅せられているのではないかとつい疑ってしまう。
「そんなんじゃねえよ。だがこいつが無ければ俺は魔物を倒せなかった。倒せたのはこいつのおかげだ。」
アレンの実力は充分にAランククラスの者達に通用するだろう。
だが相手がSランクとなるとそれでは力不足だ。
その不足分を埋めてくれるのが呪いの武具であるのは確かだろう。
「まあ、それもあるだろうな。被害も最小限に抑えたんだろう?」
「ああ、そのせいか連日助けられた冒険者やら孤児院の連中が見舞いにきて騒がしいったらねえぜ。」
助けられた者達としては命の感謝としてお見舞いくらい訪れたいだろう。
そして孤児院の者達も普段から世話になっているアレンの容体が心配なのだ。
「それだけ感謝されているって事だろ。」
そう言ってジルが無限倉庫から取り出した籠をテーブルの上に置く。
籠の中には沢山の果物が入っている。
「見舞いの品か、悪いな。」
早速アレンが美味しそうな真っ赤な果物を一つ手に取って齧り付く。
果物の自然な甘さが口に広がり、身体から少しだけ疲労感が無くなっていく様だ。
「早く退院したいなら今は食って寝てろ。血を増やさないと動くのも難しいだろう?」
「分かってんだがこうも寝たきりだと身体が鈍ってな。」
普段から冒険者として魔物との戦闘を頻繁に行なっているので、長期間何もしないで寝て過ごすのが苦痛なのだろう。
そしてこうして休んでいる間に戦いの感覚が鈍っていかないか心配なのだ。
「退院してから思う存分動けばいい。本命のスタンピードが残ってるんだからな。アレンには是非とも参加してもらいたいところだ。」
アレンの実力の高さはジルも認めている。
スタンピードの時にいるのといないのとでは、戦況が大きく変わってくる。
「それまでには回復してえところだな。」
アレンとしてもスタンピードには参加したい。
怪我で動けず黙って見守る様な事にはなりたくない。
「なら今は大人しく食って寝ていろ。体力や傷の回復に努めるんだな。」
「っしゃあ、なら食って食って食いまくってやるぜ!」
アレンはジルのお見舞いの果物を次々と口に運んでいく。
食欲はある様なので、沢山食べて沢山寝れば直ぐに良くなるだろう。
果物が直ぐに無くなりそうだったので追加分を置いて、ジルは施設を後にした。
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