元魔王様と帰還を待っていた者達 9
ジルとの話し合いが上手くいったのでトゥーリはとても満足気である。
「内容が内容だからどうなるかと思ってたけど、想定していた範囲内で話しが纏って良かったよ。」
一先ずトゥーリの話したかった内容は全て話せた様だ。
「だが直近で重要な一件がまだ残っているだろう?」
二つの件にはジルも関わるので他人事では無いが、更にもう一つ大きな出来事が待っている。
「はぁ~、そうなんだよね。さすがにそれが終わらないと殿下の生誕祭にも行けないよ。」
トゥーリが大きな溜め息を吐きながら言う。
既に起こる事が殆ど確定しており、自分の治める街に甚大な被害を及ぼす可能性があるので頭を悩ませている。
「起こるにしても正確な時期が分からないからね。本当に厄介だよスタンピードってのはさ。」
災厄の前兆は既に魔の森を中心として広範囲で起こっている。
これを放って生誕祭に行くのはさすがに領主としては無い。
それにセダンの街でトップクラスの実力者であるジルを連れていけば、市民からの批判は相当なものとなるだろう。
「領主としてはどうするんだ?」
「どうすると言われても現状は後手後手に対処していくしか方法は無いんだよね。つまり現状維持が精一杯かな。」
魔物がどこに現れるかも分からないのでは対処のしようがない。
発見された魔物を速やかに冒険者を送り出して討伐するのがギルドの出来る精一杯である。
「本命のスタンピードに向けて戦力は温存しておかなければならない。あまり使い過ぎると後が大変だぞ?」
高ランクの魔物が出現しているのはスタンピードの予兆に過ぎない。
本番は今よりも更に過酷な戦いになる可能性が高い。
今から被害が出ていては本番が更に辛くなる。
「それは分かっているんだけどね。見過ごす訳にはいかない高ランクの魔物も多いから、領民を守る為に早期解決が求められる。そうなれば戦力の温存なんて考えている余裕は無いんだよ。」
トゥーリとしても戦力の温存は必要だと考えている。
しかし現状がそうさせてはくれないのだ。
戦力を出し渋れば領民に少なくない被害を出してしまうので出し惜しみしている余裕は無い。
「でも私だって何もせずにいた訳では無いよ。援軍の要請は随分前に行なっているからね。」
「近隣の街のギルドに頼んだとミラも言っていたな。」
セダンの街の冒険者だけではスタンピードの予兆を乗り切れる者も限られてくる。
戦力の増強は急務であり、他のギルドから援軍を派遣してもらっているのだ。
「それだね、急な要請だから本命のスタンピードに参加出来るかは分からないけど、どこのギルドも高ランク冒険者を向かわせてくれる筈だよ。」
高ランク冒険者ともなると既に予定のある者や長期間滞在出来無い者もいる。
それでも一定数来てくれるだけで他の冒険者の負担は大幅に軽減されるだろう。
「ふむ、ラブリートクラスが数人いれば正面からでもねじ伏せられそうなんだがな。」
Sランクの冒険者は国家戦力と言える程強大な力を持つ。
それが数人いれば災厄とて対処が難しくなさそうだ。
「無理を言わないでよ、Sランクだよ?国に数人しかいないのにセダンに全て集まってくれる訳無いよ。」
「街の危機なのにか?」
国の一部に脅威が降り掛かろうとしているのであれば、最高戦利であるSランクを集中させてでも対処するべきだとジルは思った。
「Sランクは扱いが難しいからね。ラブちゃんはその中でも随分接しやすい方なんだよ。」
ジルが思っている以上にSランクの扱いは大変そうだ。
そしてラブリートの呼び方には突っ込まないでおく。
「そうか、ならば派遣されてくるのはAランクが殆どか。」
「それでも充分防衛の戦力になってくれるから助かるよ。当然の事ながらジル君はラブちゃん並に期待しているからね?」
領主をしていればジルの活躍は当然耳にする。
どれも驚かされる様な事ばかりであり、実力はラブリート並だとトゥーリは確信していた。
「Aランクの助っ人よりDランクの我に期待するのか?」
「ランク詐欺は分かってるから隠さなくていいよ。君の実力は間違い無くSランク相当だからね。」
「期待に添える様に努力はする。」
冒険者になる者は一攫千金を狙っている者が多く、その殆どは基本的にランクを上げたがる。
なのでジルの様に面倒事を避けてランクを止める冒険者は珍しい部類なのだが一定数は存在する。
そう言った者達は故意にランクを止めている事からも実力者が多い。
その中でもジルの実力は特別だとトゥーリは思っており、スタンピードの鍵を握っているとさえ思っていた。
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