元魔王様と帰還を待っていた者達 5

 Aランクの特殊個体と言うと思い出されるのは、アレンと共闘して倒したタイタンベノムスネークだ。

その時もジルの手助けが無ければ一人での勝利は厳しかった。


 なので実力的にはSランクの魔物を相手に出来るレベルでは無い。

それでも勝機を見出すとすればアレンの持つ特殊な武具に頼る他無いだろう。


「使ったんだな?呪いの武具を。」


「はい…。」


 アレンが持つ武具は強大な力を秘めている代わりに使用者にデメリットをもたらす呪いの武具である。

そう言った武具は物によって効果やデメリットが変わるが、基本的にデメリットが大きい程に強大な力を発揮してくれる。


 だが名前の通りに危険な武具なのは間違い無い。

物によっては使用者を死に至らしめる効果を持っている事すらもあるのだ。


「アレンはどうなったんだ?」


「直ぐに動ける状態ではありませんが生きてはいます。特殊個体を単独で討伐、被害もアレンさん以外には出していません。」


 生きている事が分かって安心した。

アレンとは気を使わない冒険者の仲間と言う関係を築けているので、死なれては寝覚めが悪くなる。


「結果だけ聞くと大活躍だな。」


 Cランクの冒険者が成し遂げたとは誰も思わないだろう。

武具の力によるところも大きいと思われるが実質Sランクの魔物を単独撃破するとは、アレンの実力が高いのも事実だ。


「その代わりアレンさんは酷い怪我を負ってしまいました。主に魔物では無く武具による代償ですけれど。」


「どんな状態なんだ?」


 呪いの武具による重態となると相当な代償を受けた筈だ。


「その場に居合わせた冒険者から聞いた話しによると、武具の効果を使った後は終始アレンさんの無双状態で魔物は防御で精一杯だったらしいです。そしてそのままの流れで討伐までもっていったのですが、アレンさんも同じく倒れてしまい、魔力とかなりの血が失われていたらしいです。」


 Aランクの特殊個体を前に防戦一方にさせるとは凄まじい攻撃力である。

だがその分代償も大きかった様だ。

魔力切れになるだけで無く、身体にある血が相当な量失われていたと言う。


 幸い近くには光魔法の使い手がいたので、魔法で回復させ続けて命を繋ぎ、セダンの街まで連れ帰る事が出来た。

それからもポーションや光魔法で少しずつ回復させていて、今もそれが続いているらしい。


「確かあの呪いの武具は魔力に関係があったな。」


 タイタンベノムスネークの時を思い返すと、斬り落とした首から流れ出る血を吸わせていた気がする。

詳しい条件までは分からないが力を発揮させる原動力が魔力や血と思われる。

血は魔力を多分に含むので代わりに吸われたのだろう。


「とにかく無事なら何よりだ。後で見舞いにでも顔を出すとするか。」


「街を危機から救って下さったんですからね。ギルドからもかなりの報酬を出す予定です。」


 命を張ってくれた事にギルドはしっかり報いる。

退院した後にアレンはちょっとしたお金持ちになっている事だろう。


「一先ずアレンの件は分かった。だがそもそも高ランクの魔物が出現している原因は何だ?」


「憶測に過ぎませんがギルドではスタンピードが原因ではないかと考えています。」


 ミラの言葉にジルとシキは成る程と頷いている。

ナキナだけは聞き覚えが無い様で首を傾げている。


「スタンピードとは何なのじゃ?」


「簡単に説明すると魔物の大暴走です。何らかの原因によって多くの魔物が一斉に暴れ出す災厄の一つですね。」


 スタンピードが起これば近隣の街や村に大きな被害が出る事になる。

規模にもよるが過去には小国がスタンピードによる魔物の群に蹂躙された記録も残っている。


「そ、それがセダンの街近辺で起こりうると?」


「今日までに確認されている高ランクの魔物の出現場所から考察するに、魔の森が一番怪しいと睨んでいます。」


 高ランクの魔物は魔の森を中心として広い範囲に出現している様な状況であり、特にランクの高いSランク相当の魔物達は魔の森付近で確認されていた。

普段から魔物が蔓延る広大な森なので、スタンピードの原因となってもおかしくない。


「そんな状態で悠長に話しておってよいのか?」


「常に気を張っていても疲れてしまいますからね。皆さんにも是非協力してほしいところですが、今は対応がなんとか間に合っていますから今日は長旅の疲れを取って休んで下さい。」


 普段と違ってギルドに冒険者が多かったのは高ランクの魔物の出現の為に待機させているかららしい。

殆ど出払った状態だとジル達にも協力を頼みたいところだが、今は人が足りているので問題無い。


「それならミラの言葉に甘えて休ませてもらうか。」


 馬車での旅は快適だったが疲労は少なからず感じているのでゆっくり宿で休みたい。


「あ、ですがジルさんだけは少しお時間を頂かないといけません。」


「…何故我だけなんだ?」


「そんな不満そうな表情を向けてこないで下さいよ。用があるのは私では無くトゥーリ様です。この後報告の為にトゥーリ様の下を尋ねますよね?」


 先にシュミットが向かったがジルも依頼の報告をしにいく必要がある。

後日でもいいかもしれないがトゥーリとしては早めにきてほしいのかもしれない。


「早く依頼の報告にこいと言う催促だろう?」


「いえ、それもありますがおそらく別件の方が重要みたいですね。ジルさんが何をやらかしたのかは分かりませんが、セダンに戻ってきたら直ぐに屋敷にくる様にと言伝を預かっています。」


 何やら面倒事の気配がするが依頼の報告の為に屋敷を訪れる必要があるので、その件に関しては諦めて向かう事にした。

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