元魔王様と帰還を待っていた者達 4

 新しい仲間について紹介も済んだので本題へ戻る。


「さて、皆さんが気になっているのは高ランク冒険者の件ですよね?」


 ミラは門番に既に聞いているのだろうと思って尋ねる。


「それもあるな。」


「それもと言いますと他にも何か?」


「ああ、セダンの街に戻る途中にアイアンゴーレムと接敵してな。街道沿いに出るのは珍しいと思って、何か知っていたら聞こうと思っていたんだ。」


 あんな高ランクの魔物が街道沿いに出てくるのは非常に珍しい事だ。

そんな事が頻繁に起こっていては、戦う力を持たない者達は街から街への移動なんて出来無くなってしまう。


「成る程、トレンフルとの途中にもですか。一応高ランク冒険者の件はそれと関わりがあります。」


 あまり驚いた反応を見せずにミラが言う。

普通であれば大変な事なのだが、口ぶりから察するに他でも同じ様な事が起きているのだろう。


「ギルドが高ランク冒険者を招集しているのは、その高ランクの魔物の対応の為です。ここ1、2週間でそう言った報告が多数寄せられておりまして、ギルドとしても対応に追われているんです。」


 そう言うミラの表情からは疲労が見える。

受付嬢とて報告の管理、依頼書の作成、冒険者への依頼発注、事後処理とやる事は多いので疲れるのは当然だ。


「ふむ、そんな事になっていたのか。ちなみにアイアンゴーレムは倒しておいたから気にしなくていいぞ。」


「本来Dランクの冒険者が敵う相手では無いのですがジルさんですから当然ですよね。対応する件が一つ減るので本当に助かります。」


 ミラが頭を下げて礼を言う。

それだけギルドでは苦労しているのだろう。


「成る程なのです。だからジル様達が帰ってきて喜んでいたですね?」


「妾達はランク以上に実力は高いからのう。」


 シキとナキナは納得した様に言う。

高ランクの魔物の対応が可能であるジル達が戻ってきたので、人が変わった様にミラが喜んでいたと言う訳だ。


「そうなります。現状セダンのギルドの冒険者だけでは対応が間に合わず、近隣のギルドにも応援要請をしている程ですから、戦力は幾らでも歓迎です。」


 特にジル達のパーティーは実力者が多い。

ジルに至っては戦況を一人でひっくり返すSランク相当との評価がギルドからされている程だ。

ミラとしてはジルがいるだけで安心感が段違いであった。


「それ程か。この街にも実力者はそれなりにいたと思うが対応が間に合わないとはな。」


 実質SランクであるAランクの特殊個体と渡り合うアレンやその攻撃を耐え凌ぐAランクパーティーの鋼鉄、正真正銘Sランクの化け物であるラブリートと強者が揃っている。

それ以外にも名前を知らないだけで高ランク冒険者はそれなりにいる筈だ。


「ジルさんが知っている冒険者だとアレンさんや鋼鉄のお二人、それとラブリートさんですよね?当然皆さんにも参戦してもらっています。」


「ほう、他の者は置いておくとしてラブリートが参戦して収束していないのか。」


 共に依頼を受けた事がありラブリートの戦闘は間近で観察出来た。

だからこそラブリートが人外の化け物と呼ばれるSランクである理由がよく分かった。


 近接攻撃の手段しか持っていないのにあの強さは異常である。

殴り合いのみの対決であればジルでも勝てるか分からない程だ。


「それだけ強い魔物の数が多くて厄介だと言う事です。昨日の一度だけですが、あのラブリートさんが全身切り傷まみれでギルドにきた時はさすがに肝が冷えました。」


 ミラの言葉を聞いてジルは素直に驚く。

あのラブリートにそんな怪我を負わせれるとなると、同格かそれに近い存在となる。


「Sランク相当の魔物が出たと言う事か?」


「はい、いずれも魔の森付近ですが、Sランクの魔物が一体、Aランクの特殊個体が二体確認されています。」


 つまり実質Sランクの魔物が三体も見つかったと言う事になる。

これは異常過ぎる事態だ。

Sランクの魔物はそう簡単に見つかる事は無く、こんなに一度に発見されるのはあり得ない事だ。


 そんな頻度でSランクの魔物が現れていては、人類の生存圏なんて維持出来る筈が無い。

国なんて簡単に滅んでしまうだろう。


「それは凄まじいな。」


「はい、全て討伐済みですが当然無傷とはいかず。Sランクを相手にしたラブリートさんは先程言った通りに全身切り傷まみれとなり、特殊個体の一体を相手にしたAランクの冒険者集団も死者は出さなかったものの直ぐに戦線に復帰出来無い程の大怪我を負わされた者もいます。」


 それでもSランクを倒したのだから大したものだ。

そして改めてラブリートの異常さが分かる説明でもある。

同格の魔物を相手にして怪我をしたとは言え、逆に言えばそれだけで済んでいるのだ。

もはや人族かも怪しいラインである。


「そして最後の特殊個体ですが、対応したのはアレンさんでした。偶然近場にいた様で他の冒険者を逃がす為に武具の力まで利用して戦ってくれたのです。」


 ミラは悲しそうな表情を浮かべてそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る