元魔王様と帰還を待っていた者達 3
シュミットの馬車がセダンの街の中を進み、冒険者ギルドの前で止まる。
ミラの伝言を聞いたからと言うのもあるがエルリアの件もあるので最初にギルドに向かう事にした。
「ほなジルさん、また後でな。」
ジル達をギルドに下ろしてシュミットはセダンの街の領主であるトゥーリの下へと向かった。
無事に戻ったので依頼の報告と納品の作業をする為だ。
買ってきた塩の量がとんでもないので、一旦馬車の中に無限倉庫から少し出しておいたので先に納品してもらい、残りは後でと言う話しになった。
ジルも依頼主であるトゥーリに報告する必要があるので、残りの塩はその時だ。
そしてレイアとテスラとも一旦別れた。
ギルドで冒険者登録をするのにも色々と時間が掛かるので、一先ず拠点となる場所を探すのを優先させるらしい。
「久しぶりだな。」
「もはや懐かしいのです。」
「帰ってきたのう。」
感慨深い気持ちになりながら三人がギルドの中に入る。
午前中だが朝方の忙しい時間帯は過ぎており、冒険者が少なくなってくる時間だ。
しかし珍しい事にギルドの中は普段と違ってそれなりに人がいる。
「何かあったのか?」
「高ランク冒険者を集めていた件と関係しておるんじゃろうか。」
一先ずジル達は馴染みの受付に向かう。
2ヶ月ぶりのミラがそこに座っており、忙しそうに書類仕事をしていた。
「ミラ、今帰ったぞ。」
ジルが声を掛けると忙しく動いていた手がピタリと止まる。
そしてガバッと視線を上げてジル達の方を見てきた。
「ただいまなのです。」
「久しぶりじゃのう、ミラ殿。」
シキとナキナも順番に挨拶をする。
するとミラは椅子を倒しながら勢い良く立ち上がり、受付を乗り越えんばかりに身を乗り出してくる。
「ジルさん!シキちゃん!ナキナさん!待ってましたよー!うわーん、ずっと貴方達の帰りを待ってましたー!」
ミラはジルの両肩に手を置いて前後に揺さぶりながら涙声で言う。
激しく揺さぶられると頭がクラクラしてくる。
「揺さぶるな。」
「イタッ!?ううう、でも今は痛みよりも帰還の嬉しさが勝ります!」
ジルに軽く叩かれた頭を抑えながら、ミラは涙声で嬉しそうに言う。
側から見たら叩かれて喜んでいる危ない人に見えるかもしれない。
「突然どうした?と言うかこちらの話しが先か。」
そう言ってジルは後ろを振り向く。
そこには黙って付いてきていたエルリアがいる。
エルフだと気付かれない様に目深にフードを被っているので周りの冒険者達は今のところ気付いていなさそうだ。
「あ、そうでした。彼女が例の女性ですよね?お話しは聞いています。」
「ギルドマスターに取り次いでほしい。」
エルリアが周りを警戒する様に言う。
自分がこうなった原因である人族に囲まれている状況は落ち着かないのだろう。
「分かりました、直ぐに確認してきますね。」
ミラがギルドマスターの私室に向かい直ぐに戻ってくる。
許可が取れたらしく、エルリアはエルロッドの下へと向かった。
今後についての話し合いが行われるのだろう。
「では皆さんはこちらに。諸々気になっている事を説明します。」
そう言ってジル達は応接室へと通される。
そう頻繁に通される場所では無い筈なのだが、ギルドを訪れるとよく通されているイメージがある。
それだけ色々な事に関わっていると言う事になり、今回もそうなるのだろうとジルは予感する。
「先ずはお帰りなさい。皆さんが無事に戻られた事を嬉しく思います。」
先程まで泣いていた女性と同一人物とは思えない程に受付嬢モードのミラがそこにいた。
「ああ、しっかり長期の護衛依頼を果たしてきたぞ。」
「トレンフルを満喫してきたのです。」
「また訪れたいのう。」
三人それぞれが思い出しながら言う。
とても充実した濃い2ヶ月だったと言える。
「それは良かったです。新しい仲間も増えたみたいですし、益々ジルさん達のパーティーは強くなっていきますね。」
ジルの肩に乗っているホッコを見ながらミラが言う。
「ディバースフォクスのホッコだ。トレンフルにて我の従魔となった。」
「尾の数は二つ、まだ成長途中なのでしょうけれど、こんな高ランクの魔物を捕まえてくるとは。」
魔物は高ランクになる程に捕獲の難易度が上がり、出会える機会も少なくなるのが普通だ。
だがそんな条件は関係無いとばかりに、ジルが高ランクの魔物をテイムして帰ってきたので、なんともジルらしいなとミラは思った。
「成り行きなんだけどな。だがホッコがいれば様々な魔法を使えるし助かってはいる。」
「クォン。」
ジルの言葉にホッコは嬉しそうに鳴いた。
今後の成長が実に楽しみな相棒である。
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