元魔王様とルルネットの可能性 11
トレンフルでの残りの滞在期間はゆっくりと過ごし、ついにセダンの街に帰る日となった。
シュミットに頼まれた塩の収納作業もしっかりと終えているので、トゥーリに頼まれた依頼も完璧だ。
想像を軽く超える量の塩をシュミットが購入しており、その量には驚かされた。
需要があるのは分かっているので自分の店の分も大量に仕入れたらしい。
トレンフルでは塩が有り余っているので、それを大量に売り捌く事が出来て皆喜んでいた。
ジル達が訪れた事でかなりトレンフルは潤っただろう。
「貴族の暮らしも終わりか。長い様で短い滞在だったな。」
「同感なのです。でもトレンフルでの滞在は満喫したのです。」
「また機会があれば是非訪れたいものじゃな。」
三人がトレンフルで過ごした期間を思い出しながらしみじみと呟く。
貴族の様な待遇で毎日を過ごしていたので、実に快適な生活であった。
こんな生活なら是非また体験させてもらいたいものだ。
「その時は歓迎致しますよ~。」
「いつでも気軽にいらして下さい。また私の屋敷で客人としてお迎えしますから。」
ミュリットとブリジットが笑顔で言う。
もてなした側からすると満足そうな反応を見せてくれて嬉しいのだろう。
「あーあ、もっと一緒にいたかったわ。」
ルルネットだけは寂しそうな表情で言う。
街から離れる経験が少ないルルネットにとっては実に刺激的な1ヶ月だっただろう。
文字通りあっという間に過ぎてしまい、まだまだ満足出来ていないと言った様子である。
「そんなに離れた距離でも無いし、会おうと思えば会えるだろう?」
「分かってるわよ、今度は私の方から遊びにいくからね。その時はセダンの街を案内してよね?」
「ああ、弟子の成長を楽しみにしているぞ。」
ジルがそう言葉を掛かるとルルネットは満足そうに頷いていた。
寂しい気持ちはあるが今生の別れと言う訳でも無い。
ジルが示してくれた未来を目指しつつ、越えられる様に日々頑張っていくつもりなので寂しがっている時間は無い。
「ジルさん、それではエルリアさんの事はお願いしますね。」
「ああ、無事に送り届けるから心配するな。」
「よろしく。」
エルリアがぺこりと頭を下げて言う。
ブリジットに言われていなくても、エルロッドの下へとしっかり送り届けるつもりだ。
「一応エルリアさんの件は公にしていないのでエルフの護送の話しは広まっていません~。それでもどこかから情報を仕入れて襲われないとも限りませんから注意して下さい~。」
エルフは容姿が非常に優れた種族なので、違法な手段を使ってでも手に入れて、愛玩奴隷として手元に置いておきたいと考える者は多い。
なので少しでもそう言った話しを耳にすれば、刺客を送り込まれるかもしれない。
「ミュリットは心配性なのです。ジル様がいれば問題無しなのです。」
「お強いのは知っていますよ~。それでも万が一と言う言葉がありますから~。」
シキは全幅の信頼を置いているが、ミュリットとしてはそれでも警戒するべきと言う意見だ。
貴族故に重要な事は万が一を考えて行動する様になっているのかもしれない。
「実際にジルさんの戦闘を見てきた身から言わせてもらうと、ジルさんに限っては万が一も起きそうにはありませんけどね。」
「万どころか億も無さそうだわ。」
姉妹揃ってミュリットに心配はいらないと言っている。
ジルの規格外な強さを知っていれば、そこら辺の魔物や盗賊では擦り傷も負わせられないだろうと言う事がよく分かる。
「我を化け物か何かと勘違いしていないか?」
「実際そうじゃないの。」
「Sランク冒険者と比べても遜色無いと感じますね。」
二人のジルの認識としては、化け物や規格外と思われる者達しか辿り着けない領域であるSランクだと確信していた。
それ程までに今まで衝撃的過ぎる事が多かった。
「あらあら~、二人がそこまで言うなんて~。それなら安心出来ますね~。」
信頼している娘達の言葉にミュリットも安心した様だ。
「また人外扱いか。」
「ジル様の強さなら仕方無いのです。」
「底が見えんからのう。」
シキやナキナの言葉に従魔達もうんうんと頷いている。
「ほらほら、いつまでも話しとらんとさっさと出発するで。遅れたらトゥーリ様に怒られてまう。」
つい話しが長くなってしまい、馬車で待っているシュミットから急かされる。
「そうだな、そろそろ出発するとしよう。」
「またねなのです!」
「世話になったのじゃ。」
馬車に向かいながらトレンフル家の者達に別れを告げる。
「こちらこそ色々とありがとうございました。」
「お元気で~。」
「ぜ~ったい遊びにいくからね!」
ジル達は三人に見送られて長く滞在したトレンフルを後にした。
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