35章
元魔王様と帰還を待っていた者達 1
トレンフルからセダンへの旅は10日程経つが順調そのものである。
盗賊に襲われる事は無く、魔物も影丸が簡単に倒してくれるので足止めされる事も無い。
「この調子やったら明日には着きそうやな。」
「かなり順調だしな。」
本来掛かる時間よりも数日短縮される程に順調だ。
「思っていたよりも早いのですね。」
「シュミットさんに拾ってもらって助かっちゃったね。」
ジル達の会話に混ざってきたのは二人の美少女。
人族の姿に変化しているヴァンパイアのレイアとサキュバスのテスラだ。
シュミットがセダンに向けて馬車を走らせている最中に二人が徒歩でセダンを目指していたのを見掛けたので、良かったら一緒にと言う話しになったのだ。
当然これはジル達の出発を計算して狙ってやった事である。
「同じ方向なんやから気にせんでええよ。こっちも可愛い子と旅出来て儲けもんや。」
「ありがとうございます。」
「これからセダンの街で美人コンビで売り出していくから、シュミットさんも宜しくね。」
トレンフルでも冒険者の登録は出来たのだが、せっかくならジルが活動の拠点としているセダンの街で登録したいと言う話しになったらしい。
二人は美人なだけで無く実力も高いので、冒険者の間で名が売れるのも一瞬だろう。
「冒険者になるんやったな?ジルさん達と同じやな。」
「先輩冒険者のジルさんやナキナさんの背中を見て学ばせて頂きます。」
「宜しくね、ジル先輩、ナキナ先輩。」
旅の冒険者志望と偶然出会った設定なので初対面から様付けは不自然な為、二人には予め別の呼び方をする様に言ってある。
「腕も立つみたいやし専属で雇いたかったわ。」
シュミットは残念そうに呟く。
旅の最中のちょっとした魔物の狩りで実力の高さを買われ、二人は商会の用心棒としてシュミットにスカウトされていたのだ。
だが二人は既にその誘いを断っている。
「申し訳ありません。まだ冒険者登録もしていませんから。」
「登録をセダンでしにいくところだったしね。それに最初は色々やってみたいから、ごめんね。」
適当な理由を付けて断っているが、二人はジルの近くで仕える為に冒険者と言う職業を選んだ。
なので他の者に時間を取られてジルとの交流時間を減らしたくはないのである。
「ほなら依頼で護衛を受けれそうな時があったら頼むわ。」
「分かりました。」
「その時は先輩に色々と教えてほしいな。」
そう言ってテスラが視線を向けてくる。
一緒に依頼を受けてほしいと言う事だ。
「気が向いたらな。」
「妾は教えられる事は少ないかもしれんが、微力ながら協力させてもらうぞ。」
「ナキナ先輩、ありがとー。」
テスラがナキナに抱き付きながら言う。
レイアと違ってスキンシップが過剰な方なので、相手をしているナキナも大変そうだ。
「シキもその時は付き合ってあげるのです。」
「ありがとうございますね。」
レイアに優しく撫でられながらお礼を言われてシキは満足そうだ。
シキは戦う力が無いので、自分の持つ知識を頼られる事が嬉しいのである。
「ウォンウォン!」
「む?影丸が鳴いておるのう。」
その直後、馬車が急に大きく揺れ出す。
「な、なんや!?」
「急に馬車が揺れ出したな。」
「申し訳ありませんシュミット様、馬が急に言う事をきかなくなってしまいまして!」
馬車の外から御者の声が聞こえてくる。
暴れる馬を何とか御して馬車を止めてくれた。
「影丸が吠えていたのと関係あるかもな。」
「降りて確かめてみるのじゃ。」
馬車に乗っていた戦闘要員達が中から出る。
馬は特に怪我等をした訳では無さそうだが、少し怯えている様に見える。
「グルル。」
そして影丸は進行方向を睨みながら威嚇する様に唸っている。
何か警戒する様な対象がいるのかもしれない。
「何か見えるかのう?」
「むむむ、あっ!見つけたのです!魔物なのです!」
他の者達では視力的に見えない距離であったが、精霊眼を持つシキの遠視によって姿を捉えた。
「影丸は魔物に反応していたのか。」
「どんな魔物なんじゃ?」
「とっても硬い魔物、アイアンゴーレムなのです。」
全身が鉄の塊で出来ている頑丈な魔物である。
生半可な剣では刃が通らず、逆に折れてしまうだろう。
「高ランクですね。確かBランクでしたか。」
「近接戦闘だと痛そうだから遠慮したいね。」
レイアとテスラは基本的に近距離主体で戦うのと、得意な魔法が血や感情操作なのでアイアンゴーレムとは相性が悪い。
「迂回するのも面倒だし、我が対処するとしよう。」
二人が苦手とするのであれば、どんな相手にでも適応出来るジルの出番である。
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