元魔王様と討伐競争 5

 ジルを背中に乗せた影丸はダンジョンの通路を疾走する。

他のチームと違って速度重視で集めていく方針だ。


「影丸、我は銀月しか使えないから近距離以外は任せるぞ。」


「ウォン!」


 ハンデとして魔法やスキルは使えないので戦力的にはダウンしている。

それでも近距離戦闘であればこの階層付近では敵無しだろう。


「当たり前の事だがリビングアーマー以外も出て邪魔だな。」


 今回はリビングアーマーのドロップアイテムである鎧狙いだ。

他の魔物を倒してもドロップするのは別の素材や魔石なので依頼には必要無い。


「それでも倒さない選択肢は無いけどな。頼んだぞ。」


「ウォォォン!」


 影丸が操影のスキルを使用して自身の影を物質化して伸ばしていく。

遠くにいた魔物達を一斉に串刺しにして倒していく。

さすがはAランクの魔物、一撃で倒してドロップアイテムに変えていく。


「回収もしてくれるとは有り難い。」


 影丸は歩みを止める事無くダンジョンをそのまま走る。

倒した魔物のドロップアイテムに関しては操影のスキルで伸ばした影が掴んで引き寄せてくれるので、ジルは一々降りて取りにいかなくてもいい。


 影丸も報酬を貰えると聞いて張り切っているのだろう、常に走り続けて最高効率での魔物狩りが出来ている。

後はリビングアーマーがどれだけ現れてくれるかだ。


「影丸、この先の通路を右だ。」


「ウォン。」


 ジルの言う通りに影丸は通路を進んで右に曲がる。

すると少し先に魔物の集団を見つける。

リビングアーマーも一体その中にいた。


「よし、影丸突っ込め!」


「ウォン!」


 影丸がトップスピードで魔物の集団の中に飛び込んでいく。

SランククラスのジルとAランクの影丸と言うコンビに魔物達はなす術無く一瞬で斬り刻まれる。

あっという間にドロップアイテムが地面に量産された。


「鎧も一つ出たな。次だ。」


 ドロップアイテムを回収して次に向かう。

その後もジルが指示を出して影丸がその場に向かい、魔物を倒していく。

そうやってドロップアイテムを集めていった。


 的確に魔物の位置を把握しているジルだが魔法もスキルも特に使用してはいない。

ただ周りの気配を探っているだけである。


 前世から戦闘を数え切れない程行ってきたジルだからこそ、転生してもその感覚は研ぎ澄まされている。

魔法やスキルに頼らなくても集中すれば周りの状況把握はそれなりに出来るのだ。


「鎧の報酬を抜きにしてもかなり良い稼ぎになりそうだな。」


 他の魔物も残さず倒しているのでドロップアイテムを売ったら相当な額の金に変わりそうだ。

以前と違って手分けしての積極的な魔物狩りなので素材集めの効率も段違いである。


 こうなると魔物が蔓延るダンジョンは絶好の金策場所とも言える。

普通は危険な場所なので慎重に進む必要があるのだが、ジル達クラスになるとこの辺りの階層は余裕なので心配は無い。


「ちなみに影丸は何が欲しいんだ?」


「ウォン!」


 影丸は一鳴きしてジルの前に自身の影を持ってくる。

そして影の形を器用に変えて欲しい物をアピールする。


「成る程、肉か。」


「ウォン!」


 影丸は大きな骨付き肉を影で再現した。

意思疎通もこうして影で行ってくれるので影丸とのやり取りは言葉がなくても意外とどうにかなるので便利である。


「勝ったら異世界の美味い肉を用意してやろう。影丸が今まで食べた中で最上級の物をな。」


「ウォンウォン!」


 その言葉で一層やる気が出たらしく、尻尾と足の動きが速くなった様に感じる。

勢いそのままに魔物達を狩りまくっていく。


 影丸の走る速度が速いのでダンジョンの移動もスムーズであり、直ぐに近くに新たな魔物を捕捉出来る。

なので獲物に困る事無く狩り続ける事が出来る。


「またか。集中しているから遠くても分かったが、先程から聞こえてくる轟音はタイプBか?」


 影丸がダンジョンをかなりの速度で移動し続けているのに、どこにいても定期的に聞こえてくる。

近くにシキ達やナキナ達の気配は感じられない。

なのでそれなりに離れた場所にいる筈なのだが、何かを力強く叩く音がダンジョン内に響いているのだ。


 ナキナの武器は小太刀による双剣なので叩く事には向いていない。

なので魔物でないとすればタイプBのハンマーくらいしか考えられないが、そんなに力強く叩かなければならない程厄介な魔物がいるとも思えない。


「一体何をしているんだ?」


 何かあればシキが真契約の恩恵による意思疎通で連絡をしてくる筈だ。

なので緊急事態とかでは無いと思われるが、何をしているのかは全く分からなかった。

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