元魔王様と討伐競争 2

 ジル達は早速ギルドに向かう。

メンバーはジル、シキ、ナキナ、ライム、影丸、ホッコと久しぶりにジル達一行が勢揃いと言った感じだ。

ブリジットは用事、ルルネットは昨日の模擬戦の筋肉痛と言う事で同行する者は他にいなかった。


「ギルドマスターからの呼び出しできたんだが対応可能か?」


 受付嬢にそう尋ねて冒険者カードを渡す。


「ジル様ですね、お待ちしておりました。直ぐに呼んできますからこちらでお待ち下さい。」


 既に話しは通っている様で受付嬢はジル達を応接室に案内して、ギルドマスターの部屋に向かった。

さすがに建物内で大きな身体を持つ影丸は連れ歩けないのでナキナの影に入ってもらった。


「失礼しますね。」


 少しするとサザナギが大きな袋を背負って部屋に入ってくる。

そしてジル達の向かい側のソファーに腰掛けた。


「急な呼び出しに応えてもらってありがとうございました。」


 サザナギが丁寧に頭を下げて言う。

依頼したのがジルだったので断られる可能性もあった為、きてくれただけでもサザナギとしては有り難かった。


「全くだ、高い報酬と聞いていなければ断っていたぞ。」


「それは良かったですね。しっかりと勉強させて頂きますよ。」


 ジルに依頼を出せるのであれば報酬は弾むつもりだ。

それだけの働きをしてくれると分かっているのである。


「それよりも依頼はなんだ?」


 ダンジョン関連と言う事しかブリジットから教えられていない。

詳しい依頼内容は全く知らない。


「以前ダンジョン産の素材や魔石を売って頂きましたよね?」


「ああ、持っていても使わない物は換金したな。」


 暇潰しで潜ったダンジョン探索だったが成果は文句無しであった。

大量に持ち帰った素材や魔石はギルドでは全て買い取れない程の量があり、シュミットにも引き取ってもらった。

おかげで懐事情はホクホクであった。


「あれ以外にもギルドでは他の冒険者がダンジョンから持ち帰った物を引き取っています。ですが素材のランクが明らかに違い過ぎます。」


 トレンフルのダンジョンの最高到達階層は18階層となっている。

ブリジットを含めた腕利きのパーティーでそれだったので、他の冒険者であれば階層はもっと浅くなるだろう。


 深く潜る程に魔物の強さが上がり、素材や魔石の価値も比例して上がっていく。

最高到達階層よりも深い位置を潜っていたジル達の物の方が価値が高くなるのは当たり前だ。


「ふむ、続けてくれ。」


「一体どれだけ深い階層に潜ったのですか?高ランクの魔石や素材も沢山ありましたよ?」


 一応18階層までの間に入手可能な物も一定数はある。

15階層のボス部屋であればゴブリン種のランダム湧きもあるので高ランクの魔石も入手出来るし、その階層ではあまり見掛けない珍しい魔物の出現等も起こる事があるので浅い階層でも珍しい素材を入手出来る可能性はある。


 しかしそう言った事が重なったとしても得られる量はそんなに多くは無い。

それなのにジルの持ち帰った価値の高い素材や魔石は相当な数があった。


「それを話すのは義務なのか?」


「いえ、個人的に興味があったので尋ねただけです。」


「それならば黙秘としておこう。騒がれるのは面倒だ。」


 最高到達階層である18階層を10階層以上も上回った場所で探索していたなんて知られれば面倒な事になるのは分かりきっている。

わざわざ自分から話して目立つ事も無いだろう。


「その言葉が深層に潜ったと言っている様なものなのですが。まあ、この際それは置いておきます。」


 サザナギとしては価値の高い物を沢山売ってもらえただけで充分なので出所までは気にしていなかった。


「依頼の内容ですが売っていただいたこちらの在庫を確保したいので、可能であればもっと取ってきてほしいのです。」


 そう言ってサザナギが机の上に担いできた袋を乗せた。

開いて中を見せると中々頑丈そうな鎧があった。


「確かリビングアーマーからドロップした鎧だな?」


「そうです。」


 どうやらサザナギはこの鎧を一定数確保したいらしい。


「何故これなんだ?」


 持ち帰った物の中で言えば価値的には中くらいである。

他にも高価で有用な素材があったと記憶している。


「他にも魅力的な物は多かったのですが高価な物はそんなに多く引き取れません。その中で値段的にも良さそうだと選んだのがこの鎧なのです。そしてこの鎧なのですがドロップした段階で魔法道具となっています。自己修復機能が備わっており、傷付いても一定時間で元に戻ります。」


 そう説明されたがジルは鎧なんて重たい物は身に付けたいと思わないので手放しても特に問題は無い。


「使い手によっては助かるだろうな。」


「そうですね。ブリジット様も騎士団の盾役や重装備の騎士に持たせたいと考えておられましたから。」


「ん?ブリジットが?」


 いつの間にかギルド側とそんな話し合いが行われていたらしい。


「はい、こちらの鎧を気に入られたブリジット様がギルドに依頼を出されたのです。しかし深い階層で倒して重たい鎧を持ち帰るのは重労働なので、受ける人が限られます。」


「そこで我と言う訳か。」


 無限倉庫のスキルを持つジルであればその問題は解決だ。

重量を気にせず幾らでも持ち帰ってこられる。


「数を揃えるとなると受ける人は限られますからね。」


「殆ど我に向けた依頼みたいだしな。」


 ジルの滞在期間も少なくなってきている。

今の内に受けてもらいたいと考えているのだろう。


「だからこそ依頼料も多いのでしょう。ギルドとしても幾つか在庫を確保しておきたいので上乗せで依頼しますよ?」


 報酬が高いのは貴族であるブリジットが用意したからであった。

それだけでも期待出来るのにサザナギも上乗せしてくれるとなれば高額報酬の為に受けるしかない。

ジル達は喜んで依頼を引き受ける事にした。

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