33章
元魔王様と討伐競争 1
レイアとテスラとの件が一段落した後は、二人と別れて結界を出てナキナ達と合流した。
それなりに時間が掛かったのだが影丸と一緒に大量の貝を拾って暇潰しして待ってくれていた。
一応ナキナには仲間の様な関係の者が増えるかもしれないと言う事だけは説明しておいた。
それだけで納得してくれて深くは聞いてこなかったのでこの件はまた追々とする。
屋敷に戻ると今回の事について特に何も探ってこなかったブリジットが迎えてくれた。
無事に戻ってきたので何も追求される事は無かった。
しかしルルネットは違う。
ミュリットから解放されたルルネットは何をしていたのかと付き纏ってしつこく聞いてきた。
魔王時代の元部下と会っていたなんて言える訳も無く、ジルとシキははぐらかしていたのだが、あまりにもしつこいのでジル自らが模擬戦をしてやり、そんな元気が無くなるくらいとことん相手をしてやった。
その結果ルルネットは疲労によって自力で立てなくなるくらいに疲れ果て、専属メイドのサリーにベットに運ばれていき、気絶する様に爆睡だったらしい。
その翌日、特に予定が無いジルは自室で惰眠を貪ろうとしていたところ、珍しく朝からブリジットが部屋を尋ねてきた。
「サザナギから依頼をしたいのでギルドを訪ねてほしいと伝言を預かっていますがどうしますか?」
サザナギとはトレンフルのギルドマスターである。
ギルドマスター自らの直接の指名依頼とは面倒な予感しかしない。
だがジルはDランクなので指名依頼に強制力は無い。
ブリジットがどうしますかと聞いているのも断れるから判断を委ねてきているのだ。
「面倒な予感がするから断ってもいいか?」
昨日の一件でジルはまだ本調子では無い。
ホッコの神聖魔法や美味い食事によって体調はだいぶ戻ったが、少し身体が重い気がするのだ。
本音を言えば外出せずに本でも読んでゆっくりしていたい。
「ジルさんが乗り気で無いのであれば仕方ありません。報酬は悪く無いとは思いますけど。」
「報酬?」
思わずブリジットの言葉に反応してしまう。
「ええ、ダンジョン関連の依頼らしいのですが、金銭を大量に支払うつもりらしいですよ。」
「どのくらいなのです?」
それを聞いて今度はシキが反応する。
お金は異世界通販のスキルで湯水の如く使うので幾らでも欲しい。
大量に支払うなんて言われると金額が気になってしまう。
「詳しくは分かりませんが成果によっては、高ランク冒険者に支払われる額と同等以上ではないでしょうか?」
ブリジットが少し悩みながら答える。
それを聞いてそんなに貰えるのかとシキの表情は明るくなり、面倒事の予感しかしないとジルの表情は暗くなる。
報酬が吊り上がる程に依頼の難易度が比例して厄介になる事が多い。
今回もそのパターンに当て嵌まる可能性が高い。
「余計に受けたくなくなるな。」
「ですがダンジョンは既に潜っていますよね?そんなに難しい依頼をされるでしょうか?」
前に暇潰しでダンジョン探索をして最高到達階層を大幅に更新する結果を残した。
真剣に探索した訳でも無く、暇潰しでその成果なのだ。
ダンジョンの更なる開拓とかで無ければ比較的簡単に終わるかもしれない。
「ジル様、受けるべきなのです。大量のお金は欲しいのです。もし受けたくなければナキナと一緒にシキが行ってくるのです。」
「え?妾か?」
突然話しを振られてナキナがキョトンとした表情で言う。
集落での暮らしが長かったナキナはダンジョンと言うものを体験した事が無い。
話し程度には聞いた事はあるが未知の領域であった。
「ナキナはシキの護衛なのです。付いてくるのは当然なのです。」
「それはそうじゃが、危険ではないかのう?ダンジョンは魔物が大量にいるのじゃろう?」
ナキナとしては護衛対象であるシキをそんな場所に連れていくのは不安である。
自分や影丸がいればシキを守りながら戦う事も当然出来るが、ダンジョンと言う普段とは違う環境では万が一が起こると怖い。
「私としてもシキはいかないほうがいいと思いますね。ジルさんが一緒であれば問題無いと思いますが。」
高い実力を持ち様々な魔法を扱える事はブリジットには知られている。
それ程の力を持つジルが側にいれば、シキに万が一も起こらないと思っているのだろう。
実際に結界魔法を使っておけばシキの安全は保証される。
「むー、シキだってダンジョンを見てみたいのです。」
戦闘能力が全く無いシキだからこそ、そう言った場所には中々いけない。
知識はあっても実際に見た事は無いので直接見てみたいのだろう。
「仕方が無い、シキが見たいと言うのなら付き合うとするか。報酬も気にならない訳では無いからな。」
ジルは重たい身体を起こしながら言う。
普段から何かと役立ってくれているシキの我儘は聞いてやりたい。
お望み通りダンジョンに付き合う事にした。
「ジル様、ありがとうなのです!」
シキは嬉しそうに手を広げて喜んでいた。
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