元魔王様と前世の配下 9

 レイアのその言葉を聞いてテスラも表情を明るくさせ、期待の籠った視線を向けてくる。


「一応我はもう魔族では無いんだぞ?」


 二人が仕えていたのはジルの前世である魔王ジークルード・フィーデンであって、人族のジルでは無い。

あの頃と立場が全く違う自分にわざわざこの二人が仕える必要は無いのだ。


「種族云々は関係ありません。私達は貴方にお仕えしたいのですから。」


「私もです。」


 レイアの言葉に同意する様にテスラが言う。

自分達の主人は昔からただ一人だけだと表情が物語っている。


「良く分かるのです。」


 シキがそれを聞いてうんうんと頷いている。

そう言えばシキを転生後に召喚して契約した時も自分の主人は一人だけだから真契約は結ぶ気が無いと言っていた気がする。

ジルの姿形が変わろうとも皆のその気持ちは変わらない。


「ちなみに拒否すればどうなるんだ?」


 ただでさえ人族と魔族は敵対関係にあるのに、その魔族と共に行動するなんて厄介事の気配しかしない。

確実に何かしらの問題に巻き込まれる事になるだろう。


「このまま死を迎える事になるでしょうね。生きていても意味はありませんから。」


 レイアは本当に死ぬつもりで言ってそうだ。

元魔王が人族に転生している事が分かったが、配下として生きていけないのであれば、その関係は他人と変わらない。

ジルと関わって生きていけないのであれば死を選ぶだろう。


「せっかく最愛の主人との再会を果たしたのに悲しいです。」


 テスラはよよよと泣き真似をしつつ指の間からこちらの様子を伺っている。

レイアとは違う方法で罪悪感を抱かせるつもりの様だ。


「ふぅ、我に選択肢がある訳も無いか。当然お前達の要求は受け入れるつもりだ。苦労を掛けてしまったからな。」


 ジルの言葉に二人の表情が明るくなる。

一度失ったと思っていた最愛の主人の下でまた生活出来るとは、世界に色が戻った様な気持ちであった。


「勿体無いお言葉です。」


「ジークルード様、ありがとうございます!」


 二人は深く頭を下げて言う。


「だが我からも幾つか条件を出させてもらうぞ?それは了承してもらわなければ困る。」


 二人を身近に置く事になれば色々とやる事が増える。

その中で二人にも気を付けてもらう事は多くなるだろう。


「何なりとお申し付け下さい。」


「条件次第では交渉するかもしれません。」


 レイアは素直に頷いたがテスラは内容次第と言った様子である。

魔王時代にもテスラが二つ返事をせずに、この様な事を言ったりしていたので懐かしい気持ちにさせられた。


「テスラ、ジークルード様に対して失礼ですよ。」


「これはレイアにとっても重要な事なんだから私に任せておいて。」


 注意するレイアを宥める様にテスラが言う。


「我と何を交渉するんだ?」


「追々と色々ですよ。まあ、先ずはこの見た目ですね。ジークルード様もいつまでもこんなお婆ちゃんの見た目では嫌でしょう?」


 テスラが自身の顔や身体を指差して言う。

魔王時代に見ていたテスラやレイアとはまるで別人である。

絶世の美女と言った二人の顔は、すっかりシワが多くなってしまい、身体付きも出るところは出ていながらもしっかりと引き締まっていたのに今では見る影も無い。


 あの頃は街を歩くだけでどんな魔族も振り返っていたが今の二人ではそれも無いだろう。

ジルとしては目の保養的な意味でも昔の姿の方が綺麗であったし見慣れているのでそちらの方が良いとは思った。


「二人の意見を尊重はするが、昔の方が綺麗だったと思うぞ。」


「き、綺麗…。」


「人族になってあの頃より感性も豊かになっているみたいですね。これはワンチャンスありますね。」


 ジルの言葉にレイアは顔を赤らめさせ、テスラは誰にも聞こえない程小さな声でぶつぶつと呟いている。


「とにかくジル様がそう思ってくれているのであれば、私達も昔の姿に戻りたく思います。レイアもそうですよね?」


「は、はい。さすがにジークルード様にお仕えするのにこの見た目では。」


 レイアも今の姿のままなのは嫌だと言う。

最愛の主人に仕えるのならば昔の美しい姿で仕えたい。


「と言う訳でジークルード様、血と精の提供をお願いします。」


「まあ、そうなるな。」


 話しの流れからそうなるだろうとは思っていた。

魔王時代にも二人が側近と言う事もあって提供していた。

だからこそ戦闘や人族の卑劣な行いで簡単に頭に血が登らなかったり、日々の性欲が抑えられたりしていたのかもしれない。


「どこからでも吸うといい。」


 ジルが好きにしろとばかりに身体を無防備に晒す。

久しぶりではあるが魔王時代には何度も行っていたので慣れたものだ。


「この見た目ですから指先をお借りします。」


「私も指先にしておきますね。」


 二人はジルの手を取って言う。

昔であればレイアは首元、テスラは唇からそれぞれ血と精を吸収していた。

テスラはレイアに言われて妥協して唇にしていたが、それぞれの場所が効率的に吸収出来る場所なのだ。


 しかし今の見た目では二人にその勇気は無かった。

醜い老婆の見た目で最愛の主人の顔に近付くのは、多少なりとも嫌悪感を与えるのではないかと心配になってしまったのだ。

なので効率は悪いがそれぞれ指先からする事にした。


「失礼します。」


「頂きますね。」


 レイアが指に歯を突き立て、テスラが指を口に咥える。

それにより軽い痛みと脱力感を覚える。

人族だからか魔王時代には特に何も感じなかったのに、えらく身体から力が抜ける様な感じがする。


 少しすると二人の身体が少しずつ若返っていくのが分かった。

顔のシワが少なくなっていきハリのある肌へと変わっていき、身体付きもだんだんと様々な部分が大きくなっていくのが分かる。


 美しさを取り戻していく二人を見ていると、まるで時間を巻き戻している様に感じられる。

そしてそんな事を考えていると急にジルの視界が暗転した。

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