元魔王様と前世の配下 10
ジルが目を覚ますと知らない天井が目に入ってくる。
そして見覚えのあるソファーの上に寝かされていた。
これは移動先でも不自由しない様にと無限倉庫の中に仕舞っていた異世界の高級ソファーである。
寝心地が良さそうだなと思って前に購入していたのだ。
目を覚ましたが何をしていたのかイマイチ記憶が朧げだ。
いつの間にか寝ていたらしい。
身体を動かそうとすると重力魔法でも掛けられているかの様に重く動かしにくい。
「なんだこれは?」
「「「ジル様!」」」
ジルの呟きを聞いてシキ、レイア、テスラの三人が一斉に反応を示す。
シキがジルのお腹の上に飛んできて、レイアとテスラが隣りに座った。
「ジル様、大丈夫なのです?」
「大丈夫とは何がだ?」
「血と精を分け与えて気絶されてたのです。」
シキにそう言われて段々と思い出してきた。
ここは貝の森で魔族の二人が暮らしていた建物の中だ。
そこで二人の養分となる血と精を分け与えていた。
その途中で意識が遠くなり、視界が暗転したのだ。
「も、申し訳ありませんでした!久々の甘美なジル様の血に思わず吸い過ぎてしまいました!」
そう言って隣りに座るレイアが勢い良く頭を下げる。
「と~っても美味しかったですよジル様!」
対照的に悪気を感じていないかの様にテスラが言う。
味を思い出しているのか舌舐めずりをしていて少し妖艶である。
二人はすっかり老婆の姿から昔に見慣れた姿へと戻っていた。
異世界勇者達の言っていた言葉だとレイアはクールビューティー、テスラはチアフルキューティーだった。
意味はレイアは凛々しく美しい女性で、テスラは明るく可愛い女性と言う事らしい。
二人にお似合いの言葉だと魔王時代に思った記憶がある。
「つまりこの気怠さは血と精が失われ過ぎたからと言う事か。」
「そうなるのです。暫く安静にしてほしいのです。」
「クォン。」
寝ているジルの横にホッコが近付いてくる。
ジルの普通では無い状態に気付いて心配してくれているのだ。
「心配するな。直ぐに良くなる。」
「クォン!」
ホッコは尻尾をジルの身体の上に乗せて一鳴きする。
すると暖かな光りが尻尾からジルへと流れていき、身体が少しだけ軽くなった様に感じる。
「これは神聖魔法か?」
「クォン。」
ホッコが頷いている。
動けないジルを回復させようと魔法を使用してくれたのだ。
「ありがとうな。」
「クォン。」
ジルが撫でてやると嬉しそうにホッコが鳴いている。
普段通り動くのは難しいが気怠さは少し和らいだ。
「ジル様が気絶してからホッコは何度か使っていたのです。それが無かったらもっとつらかったかもしれないのです。」
「そうだったか、今でも動くのが辛いから助かったな。」
ジルは気怠さを感じながら身体を起こしてソファーに座り直す。
身体を優しく受け止めてくれるソファーに値段の有り難みを感じる。
「貝の森から帰るのはもう少し調子が回復してからだな。その前にお前達に守ってもらう事でも話しておくか。」
「何でも仰って下さい。先程の罰も受け入れます。」
レイアが深々と頭を下げて言う。
敬愛する主人を気絶させてしまった事を隣りのサキュバスと違って深く反省している様子だ。
「悪気があった訳では無いのは分かっている。そもそもこれは我が弱体化しているのも原因だからな。」
倒れてしまったのは一概に二人だけのせいとは言えない。
魔王時代にもこの行いは何度かしていたのだが、気絶した事なんて無かった。
神々の恩恵を受けた規格外の魔王の身体だったからなのかもしれないが、どれだけ吸収されようとも体調が悪くなる事は無かった。
おそらく悪くなる側から回復していたのだろう。
「お心遣い感謝致します。」
「ジル様、さすが優しいですね。」
レイアと違ってテスラがにっこりと微笑んで言う。
仮にも主人を気絶させたのだからこちらはもう少し反省してほしいものだ。
「ところでジル様と呼んでいるがシキが言ってくれたのか?」
「はいなのです。」
気絶している間にシキが話してくれたらしい。
それも言おうとしていたので助かる。
「今世は人族として生きる故、魔王であった頃のジル様については隠すと聞きました。」
「私達もジル様って呼びますね。」
そうしてもらえると助かる。
元魔王と同じ呼び名であるジークルードなんて呼ばれた日にはどうなるか分からない。
「面倒な騒ぎにならない様にそこは徹底してくれ。特にテスラ、気を付けろよ。」
「どうして私だけ名指しなんですか!?」
ジルに一人だけ名指しされた事に不満があるのか、テスラは頬っぺたを膨らませて抗議していた。
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