32章
元魔王様と前世の配下 1
寿司や刺身は大好評であり、皆お腹いっぱい食べて大満足と言った様子であった。
食べ過ぎて動くのも辛く、全員がメイドの世話になりながらソファーで一休みする。
「そう言えば遅くなりましたが~、シキちゃんのお仕事は終わりました~。ジルさんにお返ししますね~。」
そう言ってミュリットに感謝された。
やり残していた仕事とやらは終えた様だ。
トレンフルに付いてから毎日頑張っていたが、一体どれだけ多くの事に関わっていたのか想像も付かない。
「やっと解放されたのです。」
シキはソファーに身体を埋もれさせながらやり切った表情で言う。
「解放なんて人聞き悪いですね~。お給料はたっぷり払いましたよ~?」
「その点は感謝しているのです!」
寧ろシキはそれをメインで頑張った。
これで異世界通販での買い物が捗るだろう。
「じゃあシキ、明日遊びましょうよ!」
シキが仕事を終えたのでようやくルルネットも一緒にいられる。
以前から仲が良かったらしいので、目一杯遊べるのを楽しみにしていた。
「ルルネット、御免なのです。明日は少しジル様に頼み事があるのです。」
「えー、まだ遊べないの?」
ルルネットは不満そうな表情で元凶のジルを見てくる。
そんな視線を向けられてもジルも初耳なのでどうする事も出来無い。
「それは前々から言っていたトレンフルでの頼み事か?」
「そうなのです。」
仕事に一区切り付いたのでやっとシキも取り掛かれる様だ。
ジル達がトレンフルを訪れるきっかけとなった事でもある。
「聞いても秘密だと言って教えてくれないんですよね~。」
「お母様もですか?私も教えてもらえませんでした。」
「これは秘密でシークレットな案件なのです。」
シキが口にバッテンマークを作って言う。
トレンフルの領主や前契約者にも話せない内容らしい。
「えー、何それ面白そう!私なら付いていってもいい?」
ルルネットの問い掛けにシキを見る。
ジルも内容を詳しく聞いていないので、判断はシキ次第である。
「ルルネットでも駄目なのです。ジル様だけなのです。」
「トレンフルで何かするのに誰も付いていっちゃ駄目なの?怪しい。」
ルルネットがジト目をシキに向けている。
確かに自分の領地で何かをするのに誰も見てはいけないとは怪しさしかない。
「ミュリットには許可を貰っているのです。」
「シキちゃんなら変な事はしないわよ~。」
「そうですね。このお二人なら安心出来ます。」
ミュリットに続いてブリジットも同意する。
今までの功績から随分と信頼されている様だ。
「えー、でも気になるじゃん。」
「そう言えばルルネットちゃん~。最近ジルさんにずっと相手をしてもらっているけれど~、お勉強やお稽古はしているのかしら~?」
「えっ?し、してるわよ?」
ルルネットは目を泳がせながら答える。
ミュリットの言う様に最近は一緒に行動する事が多かったが、そう言ったところを一度も目撃した事は無い。
「サリーちゃん~、どうなのかしら~?」
「る、ルルネットお嬢様が今度やるからと言われて、最近は一切やられていません。」
「ちょっ!」
サリーの裏切りにルルネットは慌てている。
ルルネットの専属メイドとして仕えるサリーだが、領主であるミュリットには逆らえないみたいだ。
申し訳無さそうにしながらも真実を伝える。
「ルルネットちゃん~?どう言う事かしら~?」
「そ、それはええっと。」
必死に言い訳を考えているがミュリットの圧にタジタジである。
「丁度お仕事も一段落したし食後の運動ついでに私自ら指導してあげるわね~。サリーちゃん~、連れてきてちょうだい~。」
「畏まりました。」
ルルネットはサリーに捕まってミュリットに連行される。
助けを求める様な視線を向けてくるが、全員黙って手を振って見送った。
「裏切り者~!」
ルルネットの悲しそうな声だけが響いて部屋を出ていった。
「ふう、ルルネットだと無理矢理にでも付いてきそうで心配だったのです。」
「お母様が気を利かせてくれたみたいですね。ルルネットには可哀想でしたが。」
あの性格からして勉強はともかく稽古は苦手かもしれない。
貴族の令嬢としての稽古であればルルネットにはあまり似合わないし、本人もやりたいとは思っていないだろう。
「それでシキ、どこへ行くかも教えてくれないのですか?」
「…付いてきたら駄目なのですよ?」
「約束致します。付いていきませんし、誰も向かわせたりもしません。」
そう口にしたブリジットの表情は真剣であり嘘偽りは感じられない。
「分かったのです。ブリジットには教えてあげるのです。向かうのは貝の森なのです。」
「貝の森ですか?思ったよりも普通の場所ですね。」
貝の森とはトレンフルの海辺にある森の事だ。
地面は浅瀬の海水で満ちており、そこには様々な貝が沢山あるらしい。
森と言うくらいなので木々も多いが、木と貝くらいしか無い場所だ。
「目的は聞いちゃ駄目なのです。」
「分かっていますよ。何をするかは分かりませんが、気を付けて行ってきて下さいね。」
それ以上はブリジットも尋ねてくる事は無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます