元魔王様と船上の戦い 12

 暫く店内で時間を潰していると店主がテンタクルーとマググロの寿司や刺身を作り終えた。


「渾身の出来だ!」


 店主が自信満々に作り終えた物を渡してくる。

それなりの量を渡したのだが一人で全て作ってくれた。

無限倉庫に出来上がった寿司や刺身を次々に収納していく。


「ねえねえ、せっかくだし少し食べてみたいわ。」


 ルルネットが仕舞われていく料理を見ながら言ってくる。

寿司や刺身の美味しさはダンジョンで食べた時に知っているので気になるのだろう。


「お貴族様にそう言ってもらえるなんて光栄ですぜ。一応試食用に取り寄せてあります。」


 店主はそう言って直ぐ食べられる様に用意してくれていたものを渡してくれる。

それぞれの寿司と刺身が二人の前に置かれた。

マググロだけで無く、テンタクルーもこう見ると美味しそうだ。


「では頂くとしよう。」


「頂きます!」


 二人はそれぞれマググロの寿司を口に運ぶ。

その瞬間二人の目が見開かれる。


「美味い!」


「美味しい!」


 想像以上の美味しさに直ぐに次に手が伸びる。

店主もその様子を見て満足そうに頷いている。

その後に食べた刺身も絶品であり、店主に任せて正解だったとジルも大満足である。


「こう言うマググロの料理は初めて食べたけど一番美味しかったかも。」


「お貴族様のお墨付きなんて嬉しいですぜ。」


 ルルネットの言葉に店主は嬉しそうに笑っている。

貴族に料理を認められるなんて料理人にとってこれ以上の賛辞は無い。


「さあさあ、テンタクルーの方もどうぞ。」


「…ジル、先に食べてみたら?」


 そう言ってルルネットが促してくる。


「食べるのが怖いのか?」


「別に怖くは無いけど、あの見た目だからちょっとあれなだけよ。」


 要するに美味しくなさそうだと思っているのだろう。

確かにうねうねと蠢く触手を大量に操っていたテンタクルーを思い出すと好んで食べたいとは思えないかもしれない。

ジルは取り敢えずテンタクルーの刺身を一枚取って口に入れる。


「どう?」


「不思議な感触だ。コリコリしていて面白い。」


 味も悪く無いと言うか美味しいと思う。

続いて寿司も食べてみるがこちらも美味い。

ルルネットも意を決して食べてみると二口目は直ぐであった。

あっという間に二人の前の皿は空っぽになる。


「満足してくれた様だな。」


「ああ、幾らでも食べられそうだ。」


「すっごく美味しかったわ!」


 二人の言葉を受けて店主は嬉しそうに頷く。


「また時間を見てマググロやテンタクルーの調理を頼みにくる。在庫は沢山あるからな。」


「分かった。」


 寿司と刺身はここで無ければ手に入らない。

トレンフルにいる間に在庫は沢山確保しておきたい。


「調理代はいくらだ?」


「そう言えば決めてなかったな。もし可能ならマググロでもいいか?」


「マググロ?」


 てっきりお金を要求されると思っていたのに意外な物があげられる。


「俺も食べてみたいから市場に行こうと思っててな。」


 マググロを獲りにいった者はそれなりにいたが、戻ってきた者はまだ少ない。

手っ取り早く手に入れるならジルから貰うのがいいと思ったのだろう。


「それなら構わないぞ。これからも頼むから多めに渡すとしよう。」


「おおお!これなら思う存分味わえる!」


 ジルがマググロを一匹出してやると嬉しそうに受け取って言う。

早速自分の分の調理をするらしいので礼を言って店を後にした。

ジル達は日も暮れてきたので屋敷へと戻る事にする。


「お母様やお姉様にも食べてもらいたいわ。」


 寿司や刺身を随分と気に入った様子のルルネットが言う。

先程も試食分では足りなかったのか、食べ終わって物足りない表情をしていたくらいだ。


「今日の夕食として出してみるか?」


「いいわね!」


 ここ最近ルルネットはブリジットの屋敷で暮らしており、二人が普段帰る屋敷はブリジットの屋敷なので、領主の館に住むミュリットをルルネットが迎えにいった。

ジルは先に屋敷に着き、コックに夕食は必要無いと伝えておく。


「そんなに美味しい料理があるとは。私にも食べさせてもらえませんか?」


 どうやらジルの説明で寿司や刺身に興味を持ったらしい。

何皿か渡してやると厨房の者達で物珍しそうに皆で食べていた。

当然食べるスピードはどんどん上がっていったので、皆が満足してくれたのは言うまでも無い。


 そしてミュリットを連れたルルネットが戻ってきて、全員揃ったのでジルが寿司と刺身を夕食として出す。

以前作ってもらった分も出したので種類も豊富である。


「な、生のお魚ですか~?」


「た、食べてもお腹を壊したりしないですよね?」


「大丈夫よ二人共、ほら!」


 最初こそ生の食べ物に戸惑っていたがルルネットが美味し

そうに食べて見せ、シキやナキナも同じく美味しそうに食べたのを見て手を付けてくれた。

一度食べたらその美味しさに手が止まらなくなったのは貴族の二人も同じであった。

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