元魔王様と前世の配下 2

 翌日、今日はシキにトレンフルに来る前から言われていた頼み事を叶える日だ。

本来トレンフルに行く目的がこれだったので、ようやく本題と言った感じである。


「妾は待機していた方がいいかのう?」


 貝の森に出発しようと思っているとナキナが尋ねてくる。


「どうしてだ?」


「昨日ジル殿だけしか付いてきては駄目だとルルネット殿に言っておったじゃろ?」


 そう言えばルルネットが付いていきたいと言った時にその様な事を言っていた。

それにミュリットやブリジットにも同行どころか話しも出来無いらしいので、護衛のナキナが付いていくのは当たり前だと思っていたが、シキからすると駄目なのかもしれない。


「どうなんだ?」


「むむむ、難しいのです。」


 シキに尋ねると小難しい表情をして悩んでいる。

ナキナならば少しは関わっても良い内容なのかもしれない。


「ジル様とシキの言う事に絶対従うなら付いてきてもいいのです。」


「勿論構わぬぞ。」


「それなら同行を許可するのです。」


 どうやらナキナの同行は許されたらしい。

それにしてもシキがそこまで言うとは珍しい。

確実に貝の森で何か起こるのだろう。


「ジルさん、少し宜しいですか?」


 シキがナキナと話しているとブリジットが手招きをしてくる。


「我を買収するつもりなら無駄だぞ。シキがあれだけ秘密にしたがっているのだから、我もそれを尊重する。」


「勘違いしないで下さい。そんな事を頼むつもりはありません。」


 ブリジットは首を振ってジルの言葉を否定する。


「シキと契約していた頃にもこの様な隠し事はありませんでしたから気にならないと言えば嘘になります。それでも話せないと言うのであれば、それ以上関わるつもりはありません。」


 ブリジットもシキと契約していた期間があるので何をしようとしているかは分からないがトレンフルに害は無いと信じているのだろう。


「ふむ、ならば要件はなんだ?」


「何をするのか分かりませんが無事に帰ってきて下さいと伝えたかっただけです。」


「危険な事をするのかも分からないけどな。」


 シキがそんな事に巻き込むとは思えないが用心はしておこうと思った。


「ジル様、そろそろ出発するのです。」


「分かった。」


「シキ、気を付けるのですよ。」


 ブリジットに見送られてジル達は屋敷を後にして貝の森を目指す。


「それで何をするかいい加減教えてくれないか?」


 ブリジットの屋敷からは遠ざかったのでもう誰かに聞かれる心配も無い。

念の為に空間把握を使用してみたが、ブリジットに動きは無く不自然に近付いてくる様な者もいない。

本当に関わるつもりは無さそうだ。


「ナキナ、これからジル様と意思疎通で会話するので喋らなくなるのです。」


「うむ、分かったのじゃ。」


 同行は許されたが話しまでは聞かせられないらしい。

真契約の恩恵を利用してまで秘密にしたい様だ。

ナキナが除け者みたいになるが、言われた事に従うと言う事前の約束通りにしてくれている。


「内容はなんなんだ?」


 意思疎通でシキに尋ねる。


「前にトレンフルに住んでいた頃に奇妙な噂を聞いたのです。」


「噂?」


 話しはジルと再び契約する前のブリジットと契約していた頃まで遡る様だ。


「なんでも貝が沢山取れる場所が複数箇所あったらしいのです。」


「それで?」


 シキは真面目な表情で話しているのだが内容からは大した要件の様には感じられない。


「貝の森は魔物もいないので貝を獲りにいく人達は一般人ばかりなのです。だから誰もその異常な光景に気付けなかったのです。」


「異常な光景?」


「一部の貝はまるで何かに沿う様に弧を描いて円形になっていたのです。そしてその内側は貝がいないのです。」


「確かに異常な光景かもな。」


 それが貝の習性で無ければ異常な光景と写るだろう。

わざわざ円を描く様に生息しているとは思えない。

内側に貝がいない事を考えるとその境界に何かあるのは明らかだ。


「シキは魔物がいないから直接その時に確かめにいったのです。そして感じたのです。あれは結界の類いなのです。」


 シキは戦闘が出来ず魔法やスキルも殆ど持っていないが知識はあるし魔力だって使える。

魔王時代からジルの魔法も見てきたし、結界魔法に触れる機会はあった。

だからこそ気付けたのかもしれない。


「断絶結界か?」


 貝が侵入出来無いと聞いて真っ先に思い浮かんだのがそれだ。

断絶結界は見えない壁を作り出して内外を完全に分断する結界魔法である。

これがあれば結界の外周に貝がいても中には入れない。


「中には入れたから違うのです。あれは偽装結界、遮音結界、帰還結界の三つなのです。」


「随分と張っているな。それに結界の種類から確実に何かを隠しているか。」


 偽装結界と遮音結界はジルも転生してから使用した。

偽装結界は結界内の風景を変えて外から見ると中の様子が違うものに見える様に出来る結界だ。

そして遮音結界は結界内の音を一切外に漏らさない様にする結界である。


 どちらも中にあるものを隠したい時に使うと便利である。

そして帰還結界とは結界に触れた瞬間にその場を立ち去りたいと言う気持ちにさせてしまう結界の事だ。


 個人の意志の強さで結界の及ぼす効果は変わるが一般人が貝を獲りにくる程度であれば、結界内に入ってまで集めようとする者はいなくなるだろう。


「中の様子を確認するのにジル様の力を借りたかったのです。一人だと危険かもしれないのです。」


「当時ブリジットに相談しなかったのは何故だ?」


 ブリジットであれば帰還結界にも対応してみせただろうし、大抵の事は解決してくれそうに思える。


「それは結界の中にいるのが魔族の可能性があるからなのです。」


 シキの口から出てきたのは予想外の言葉であった。

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