元魔王様と成り行きテイム 7

 食事も食べ終わったので後は眠るだけだ。

普段と違う環境で眠るからか、ルルネットは少しソワソワとして落ち着かない様子であった。


「ねえジル、もう寝た?」


 中々寝付けないのかルルネットが尋ねてくる。

既にホッコはスヤスヤと眠っているので配慮して小声だ。


「なんだ?明日も探索なんだから早く休んだ方がいいぞ。」


「それは分かってるけど、改めてお礼を言っておきたいと思ったからさ。」


「お礼?」


 何かルルネットに礼を言われる様な事をしたかと思い返す。


「うん、ジルにとって足手纏いな私の事をダンジョンに連れてきてくれてありがとね。」


 ダンジョン探索はジルの暇潰し目的であったが、ルルネットが加わった事により探索速度が制限された。

本来なら相当な勢いでダンジョンを降っていき、姉のブリジットが残した最高到達階層の記録も塗り替えたかもしれない。


 それでもダンジョンに行きたいと言う自分の頼みを聞いて連れてきてくれた。

ルルネットはその事についてお礼を言いたかったのだ。


「自覚はあったか。」


「そこは嘘でも否定してよね!」



ジルからは見えないが少し頬を膨らませて抗議する。


「冗談だ。一度鍛えてやると言ったんだから責任は持つ。せいぜい我の弟子として、師に恥じない成長を遂げろよ?」


「うへー、プレッシャーがすごいな〜。」


 そう口では言うが実際は嬉しいと言う感情が大きかった。

ジルの様な強者にもっと認めてもらう為に、明日からのダンジョン探索も頑張ろうと気合いが入る。


「明日もしっかりダンジョンで訓練してやるから、そろそろ眠っておけ。」


「うん、おやすみー。」


 慣れない環境での睡眠ではあったがダンジョンで動き回って程良く疲れていた様で、二人共いつの間にか熟睡していた。


 見張りもタイプCが引き受けてくれたのでゆっくりと休む事が出来て、気持ち良く目覚める事が出来た。

すると近くで同じく寝起きのルルネットが自分の身体をペタペタと触って何かを確認している。


「何をしているんだ?」


「寝る前と変わった事が無いかの確認よ。どうやらえっちな事は何もされていないみたいね。」


 ルルネットが一安心と言った様子で呟く。

年頃の男性と共に寝る機会なんて無かったので、貴族令嬢として確認は怠れない。


「ふっ。」


「なっ!?何がおかしいのよ!」


 その様子を見て鼻で笑ったジルをルルネットが問い詰める様に尋ねる。


「10年早い。」


「なんですってえええ!」


 ジルの発言にルルネットは寝起きながらに怒る。

その怒りは食事の時、そして探索を開始してもまだご機嫌斜めであり、中々怒りを鎮めてくれない。

謝っても効果が薄いので最終手段として肩に乗っていたホッコを抱かせてやると直ぐに機嫌を直してくれた。


「あっ、階段が見えてきたわよ。」


 感知のスキルを使いつつ前衛として前に出ていたルルネットが発見する。

下に降りる階段が見つかったので、これで15階層に降る事が出来る。


「なんだかんだもう15階層まできたか。」


 途中から床を破壊しての移動をしていないが、順調にダンジョンを降れている。

魔物の強さもルルネットの訓練にぴったりなので、ここら辺の階層は魔法による省略をせずに進みたいところだ。


「最高到達階層更新も夢じゃ無くなってきたわね。」


「マスターがいるのですから更新どころか踏破も余裕でしょう。」


「クォン!」


 ホッコがタイプCの言葉を肯定している。

全肯定が一人から一人と一匹に増えた様だ。


「暇潰し目的で来たのだから踏破までするかは分からないけどな。」


「暇潰しでダンジョンが踏破されたらたまったものじゃ無いわ。」


 ダンジョンの大変さを知ったルルネットが呆れた様に言う。

こんな気楽に進んだり探索したりは普通なら出来無い。

本来はもっと命の危機を感じる場所なのだ。


 それなのに深い階層にきても今だにピクニックの様な雰囲気で緊張感が無い。

それでもジルやタイプCに油断は無いので危険な事態に陥る事も無いのである。


「あれ?いつもと違うわね。扉?」


 15階層に降りたが今までと階層の作りが異なっていた。

階段を降りて直ぐの場所に大きな扉が一つ鎮座している。

上の階層だと階段を降りて直ぐの場所から迷路の様な作りになっていたので、この階層だけ作りが違う様だ。


「成る程、15階層はボス部屋か。」


「ボス部屋って…ボス部屋!?強力な魔物が現れる特殊な階層の事!?」


 ルルネットがその言葉を聞いて驚いている。

ダンジョンについて勉強しているだけあってその存在について知っている様だ。

一定階層毎にあるダンジョンの関門の様な場所、それがボス部屋である。

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