元魔王様と成り行きテイム 6
魔物との戦闘を行いつつ14階層を進んでいたジル達であったが、下に降りる階段を見つける前にルルネットがギブアップ宣言をした。
「も~無理、一歩も動けないわ!」
ルルネットが床に座り込んで言う。
「マスター、ルルネット様は私が担ぎましょうか?」
「…休むと言う選択肢が無いのかしらこのメイドは?」
ルルネットがタイプCにジト目を向けて言う。
マスター至上主義なのは分かっているがもう少し貴族である自分にも気を遣ってほしいとルルネットは思う。
「今日はここまでとしておこう。ルルネットも初めてのダンジョンにしては頑張った方だしな。」
ジルがスキルを使い簡易テントを無限倉庫から取り出す。
「やった!」
ジルに褒められたのと今日はもう休むのとで二重で嬉しいルルネットは早速中に入る。
不味いポーションを飲んで魔力を回復させながら、感知のスキルによる索敵や戦闘とルルネットは頑張った。
正直もっと早く休憩したいと言われると思っていたので、予想外に階層を多く進む事が出来た。
まだ子供だと言う事を考えればよくやった方だとジルは思っていた。
「マスター、見張りは私にお任せ下さい。どうぞゆっくりと疲れを癒して下さいませ。」
タイプCが胸を張って言う。
床を破壊する為に魔力を使ったくらいなのでそこまで疲労は感じていないが、タイプCとしてはマスターに休んでほしいのだろう。
「食事の後に寝ると思うんだが一人で大丈夫か?」
「問題ありません。快適な睡眠をお約束致します。」
「悪いな、何か異常事態でもあれば起こしてくれ。」
タイプCは頭を下げて了承した。
魔法生命体であるタイプCは睡眠を必要としないので見張り役はお手のものだ。
ジルとホッコもテントの中に入る。
野外用の魔法道具のテントなので見た目よりも中は広い作りとなっており、窮屈な思いはしなくてもいい。
「はぁ~、もうお腹タプタプよ。」
ルルネットが自分のお腹をさすりながら言う。
明らかにポーションの飲み過ぎである。
「腹は減っているか?」
「少しくらいなら入ると思うわ。」
「魔力の回復は食事からも出来るし、少しでも食べておけ。」
そう言って無限倉庫から取り出した食べ物を置く。
「…何これ?」
ルルネットはジルの取り出した見慣れない食べ物を指差して尋ねる。
「寿司と刺身だ。トレンフルで購入したがあまり売れてないらしいから知らないだろうな。」
「あったりまえでしょ!何よこれ生の魚じゃない!生で食べろって言うの!?」
生で食べる文化は無いのでルルネットがそう言う反応をしてくるのも分かる。
だがこれは今後のトレンフルの食文化に影響を与える程の食べ物だと確信している。
食べさえすれば良さに気付く筈だ。
「狭い場所で騒ぐな喧しいぞ。ホッコ、お前の分もあるぞ。」
「クォン!」
ジルが刺身を盛った皿を差し出すとホッコが嬉しそうに鳴いてハグハグと勢い良く食べ始める。
余程美味しいのか皿の上からどんどん刺身が消えていく。
「ホッコも美味そうに食べてるだろ?」
「それは魔物だからじゃないの?でも生で食べたりしたらお腹を壊すわよ?」
ルルネットがホッコを心配そうに見て言う。
だが本人は刺身を食べるのに夢中で気付いていない。
「これはそう言う食べ物なんだよ。」
「あっ!」
ジルが寿司をタレである醤油に付けて口に運ぶ。
それをルルネットは信じられない者を見る目で見ている。
「やはり美味いな!」
ジルは満足そうに呟いて早速二つ目を口に運ぶ。
「ええ…、本当に美味しいの?」
「鮮度にも気を使って鑑定していたし問題無い。高級料理なんだが嫌なら普通の串焼きを出してやるぞ?」
まだ疑っているルルネットだが、別に無理に食べさせる必要も無い。
見慣れた食べ物も無限倉庫の中にはあるので、そちらを出してやろうかと提案する。
「…せっかく出してくれたんだもの、食べないで突き返すなんて失礼な事はしないわ。」
「タレに付けるともっと上手くなるぞ。」
ルルネットが寿司をフォークで刺してタレに付け、目の前までもってきて見つめている。
中々食べる勇気が出ないみたいである。
「えーい、女も度胸!」
ルルネットはそう言って寿司をパクリと食べた。
もぐもぐと味わっていると突然目を大きく見開いた。
「おいひい!?」
「そうだろうそうだろう。」
ジルは寿司の美味しさに気付いたルルネットを見て同意する様に頷いている。
寿司は異世界通販のスキルで見ると高ランク冒険者の報酬を丸々使うくらい高い物もあった。
そんな高級料理とも言える寿司が不味い訳が無い。
美味しさに気付いてからはパクパクと食べ進めていき、寿司を食べ終わると刺身にまで手を付けていた。
ポーションでお腹がタプタプだと言っていた割りにはよく食べる。
「ジル、帰ったらこの料理を作ってるお店教えてね。」
どうやら予想外の美味しさにハマったらしい。
そしてこれからダンジョンでの食事は全部これがいいとまで言われた。
だがそれなりに高い食べ物なので、たまに出すと言ったらケチと頬っぺたを膨らませていた。
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