元魔王様と成り行きテイム 5

「さて、従魔登録には名付けが必要だがどうするか。」


「マスターから名前を賜われるのでしたら何であっても最上の喜びとなるでしょう。」


 ジルを全肯定する様にタイプCが言う。

マスター第一のタイプCにとってはジルが行う行動全てが賞賛の対象となる。


「って何でジルは一発成功なのよ!」


 やっと現実に戻ってきたルルネットが叫んでいる。

自分がどれだけ頑張ってもテイム出来無かったので、一度目で成功したジルに納得いかない様子だ。


「そんな事を我に聞かれてもな。」


「おそらく出会った段階で主人候補はマスターに絞られていたのでしょう。実力差は歴然でありそれを理解出来るくらいに賢いですから。」


 状況を分析しながらタイプCが言う。

賢い魔物となると相手との力量差を測れる者が多くなる。

そうなると殺されない為には逃げるか服従かの二択となり、生存率が高そうな服従を選択する者が多いのだ。


「それにルルネット様が甲斐甲斐しく与えていた物も関係しているかもしれません。」


「与えた物って食べ物の事?」


 テイムの為にジルから貰った食べ物も色々と与えていた。


「加えてポーションもですね。全てマスターのスキルから取り出した物ですから、マスターから与えられたと言う認識だったのではないかと推測します。」


「そ、そんな~。」


 ルルネットはがっくりと肩を落とす。


「まあ、そんなに落ち込むな。我がテイム出来たのだから滞在中は共に過ごせるだろう?それに会いたくなったら行商ついでにセダンの街に来ればいい。」


 トレンフルからセダンまでは時間が掛かり、行商も頻繁にはしていないが年に数回はある。

その時にブリジットの様に護衛として付いてくればいい。

それくらいならミュリットも許してくれそうだ。


「そうよね、まだ暫く一緒にいられるんだもの、いつまでもくよくよしてらんないわ!」


 ルルネットが立ち上がって言う。

気持ちの切り替えが早いのは良い事だ。


「それで名前はどうするの?」


「パッと思い付かなくてな。ルルネット、何個か候補を出してみてくれ。」


「いいの!?」


 テイムは出来無かったが名前を考えさせてもらえるだけでも嬉しそうだ。

ルルネットはディバースフォクスに似合いそうな名前を考えて案を出してくれた。


 その後皆で話し合いを行い、最終的にジルが候補の中から選んでホッコと言う名前に決まった。

沢山の魔を使えるの魔物と言う意味を込めた名前だ。


「ホッコ、改めて宜しくな。」

「クォオン!」


 ジルが手を差し出すとホッコが前足をちょこんと乗せてきた。

二人の身体が淡く光って従魔契約完了となる。


 ホッコを新しく従魔とした後、ジル達は14階層の探索を再開する。

ホッコはジルの肩に乗ってスリスリと身体を寄せて甘えている。


「か、かわいいいい!」


 それを見たルルネットが目をハートマークにさせている。

ホッコを仲間にしてから一挙手一投足を見て、ずっと嬉しそうな反応をしている。


「ルルネット、見惚れるのはいいがダンジョンの中だと言う事を忘れるなよ?」


 今は問題無いが本来ダンジョンの中で騒ぐなど御法度だ。

他の者と潜る時の事を考えて今の内に注意しておく。


「わ、分かってるわよ。感知はしっかりしてるから大丈夫よ。」


「慌ててスキルを発動しました。言われるまでスキルを使っていませんでした。」


 タイプCがルルネットの嘘を見破って報告する。


「な!?このメイドは突然何を言うのよ!」


「スキルの使用を察知する機能が付いています。よってルルネット様の発言が嘘である事が私には分かるのです。」


「あ、えーっと…。」


 そんな機能がタイプCにあるとは思わず、ルルネットは言葉に詰まる。


「ホッコ、与えられた役割もこなさず他の事に夢中になっている者を見てどう思う?」


 ジルが肩に乗っているホッコに尋ねる。

するとホッコは一度ルルネットの方を向いてから、首をぷいっと逸らした。

ジルの言葉を理解して効果的な行動をしてくれた。


「なっ!?」


「そうだよな、お前は本当に賢い奴だ。」


「クォン!」


 ジルに褒められながら撫でられてホッコはご機嫌だ。


「ご、ごめんってば~!ちゃんとするからホッコも嫌いにならないで~!」


 ルルネットは涙声になりながらホッコを肩に乗せているジルにしがみついて謝る。

可愛いホッコをせっかくテイム出来たのに早速嫌われたくはないだろう。


「それならしっかりと働け。階段を見つけて階層を下るぞ。」


 ダンジョンに滞在出来る時間もそんなに多くは無いので、階段は早めに見つけたいところだ。


「ううう、貴族使いが荒い。」


「何か言ったか?」


「頑張っていくわよ!」


 ルルネットはこれ以上文句を言われる前に気合いを入れて通路を進んでいった。

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