元魔王様と成り行きテイム 4

「そろそろ諦めたらどうだ?」


「やはり高ランクの魔物ですからルルネット様には早かったのでしょう。」


 既に1時間以上粘っているが成果は無い。

これ以上何をしてもディバースフォクスが認めてくれる事は無さそうだ。


「うぐぐぐ。幼い自分が恨めしい。」


 もっと大人になった自分であれば実力で認めてもらえたかもしれないと考えると悔しい。


「ブリジットなら成功していたかもしれないな。」


「っ!?今から呼んでくる!」


 最悪ディバースフォクスをテイムするのは自分で無くても構わない。

姉が可能ならばそれでもルルネットはいいと思っていた。


「落ち着け、確証の無い事なのにわざわざ呼び出そうとするな。」


「それにブリジット様はお忙しい様子ですからね。」


 ジルがダンジョンを出ようとするルルネットを掴んで引き止める。

盗賊の件で来れていないのに、テイムの為だけに孤島にあるダンジョンのそれなりに深い階層まで来てくれる保証は無い。


「じゃあどうすればいいのよ!」


「潔く諦めろ。今のお前では主人にするには不足していると思われているんだからな。」


「ルルネット様の成長はこれからなのですから、また機会はやってきますよ。」


 あれだけ色々試して無理だったのだから今はテイムを諦めるしか無いだろう。

まだ幼いルルネットならこれから先にチャンスは幾らでもある筈だ。


「でも珍しい魔物なんでしょ?」


「そう簡単には会えないだろうな。我も見掛けた回数は少ない方だ。」


「出会おうとして出会えない魔物も高ランクに位置付けられる事が多いですからね。ディバースフォクスもその部類です。」


 二人の言葉にルルネットは更に肩を落とす。

この機会を逃せばこの先会えるかどうかは分からないのだ。


「じゃあジルが代わりにテイムしてよ。」


「我が?」


 思わぬルルネットの提案に疑問を浮かべる。


「だって今の私には無理だし、これから先いつ会えるかも分からないんでしょ?ジルがテイムしてくれればセダンに行けば会えるじゃない。」


 自分がテイム出来無いのであれば代わりにテイムしてくれとお嬢様からの指示が入った。

それ程気に入ったらしい。


「ふむ、テイムか。」


 ジルがディバースフォクスを見て呟く。

視線を向けられたディバースフォクスはビクッと身体を震わせている。


 ナキナにテイムされた影丸の時も、知能が高い魔物故に実力差を理解して直ぐに降参していた。

ディバースフォクスもジルやその後ろに控えるタイプCと自分の実力差を理解しているのかもしれない。


「マスターはご自身の従魔をお持ちでは無いので良い機会ではないですか?」


 悩んでいるとタイプCがそう言ってきた。

自分から意見を言ってくるとは珍しい。


「タイプCはテイムに賛成と言う事か。」


「あくまでもマスターの意見を尊重致しますが、悩んでおられるのならテイムを推奨します。ディバースフォクスは知能が高く煩わされる事も少ないでしょう。それに多種多様な魔法を覚えられるので、マスターの手助けにもなるのではないでしょうか?」


 タイプCの言葉にジルは確かにと納得する。

知能が高い魔物は高ランクに多い傾向にあるが、それでも数は少ないので珍しい。

そう言った魔物をテイム出来れば、従魔に振り回されたり面倒事を起こされたりと言った事は無さそうだ。


 そしてタイプCが一番ディバースフォクスを推す理由は魔法だろう。

尻尾の数だけ様々な魔法適性を持つと言う事は、ジルの持っていない適性を持つ可能性もある。


 魔王時代は光魔法と神聖魔法の適性を持っておらず、それ以外の世界に存在した魔法の適性は全て持っていた。

それが転生後にも影響しているのか、相変わらず光魔法と神聖魔法の適性は持っていなかった。


 そして弱体化の影響により適性自体が無くなったものも幾つかあるが、それはディバースフォクスをテイムする事で補助出来るかもせれない。

特に光魔法と神聖魔法は魔王時代には必要なかったが、今は持っていても損はしない。


「そうだな、悪くは無いか。」


 仲間内で従魔を持っていないのは自分だけだ。

いないので羨ましいとかは特に無いが、賢い従魔ならいても困らないのでテイムしても問題無さそうである。


「と言っても簡単にこの子が仲間になるかしらね?私があれだけ試しても…。」


「我とくるか?」


「クォン!」


「…。」


 ルルネットが語っている間にジルが手を差し出すとディバースフォクスはあっさりと応じて手を乗せてきた。

ジルの事を主人と認めたのだ。

ルルネットは語っていた姿勢で固まっている。


「随分と早かったな。」


「マスターの従魔になれるのですから当然の事です。断っていたら私が即潰していたでしょう。」


「クォ…。」


 タイプCの発言を聞いてディバースフォクスが縮こまっている。

だが自分の選択は正しかったと心の底から思っていた。

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