30章
元魔王様とダンジョンのボス部屋 1
ダンジョンに存在するボス部屋は階層丸々を使った一つのフロアとなっている。
次の階層に降りるにはその部屋を突破するしか無く、普通は避けては通れない難所だ。
「強力な魔法による床破壊ならボス部屋すらも突破は可能かもしれないが、せっかくならチャレンジしていくか。」
「ボス部屋も無視出来るかもしれないって、どれだけ非常識な力なのよ。」
ジルの発言にルルネットが呆れた様に言う。
魔法を使って強引に突破出来ると言える者はそういないだろう。
もしするとなれば相当な魔法の適性の高さと強力な魔法が求められる事になるからだ。
「マスター、ボス部屋に出現する魔物についての情報が扉に記されています。ゴブリンキングを含むゴブリン種の計5体編成が相手の様です。」
「ゴブリンキングか。」
人族に転生して最初の依頼で戦った相手だ。
普通の冒険者であれば強敵となるのだろうが、あの程度であればジルにとっては全く問題無い。
「ゴブリンキングか~。」
同じ台詞を呟くルルネットはとても嫌そうな表情をしている。
ゴブリン自体が魔物の中でも女性に嫌われている。
他種族の雌を繁殖に利用する習性を持っており、それは人族も例外では無い。
見た目が醜悪で臭いもきつく報酬も不味い。
うまみが全く無い魔物であり、男からも戦うだけ労力の無駄と不人気な魔物である。
「ゴブリンキング以外はジェネラルとアーチャー、他2体はランダムの様ですね。」
扉の情報をタイプCが伝えてくれる。
ランダム枠もゴブリン種の中から選ばれるので、ランクの高い低いによっては難易度が大きく変わりそうだ。
「ルルネット、ゴブリンが嫌なら下がっているか?」
嫌いな魔物であれば無理に戦わなくても構わない。
ボス部屋の殲滅くらいジル一人で事足りる。
「そんな理由で戦わない選択はしないわ。実戦になったらどんな相手でも選り好みしてる余裕なんて無いんだから。」
いつかはブリジットの様に街を守る為に戦う事になるかもしれない。
そんな時に苦手だから戦えないなんて選択は現場では通用しないだろう。
「まあ、そうだろうな。だが統率個体がいて普段よりも魔物達が強化される筈だから、遠距離攻撃を利用して油断無く立ち回れよ。」
「分かったわ。」
ルルネットに貸した魔法道具の指輪があれば、初級魔法を詠唱破棄した状態で放てる。
強い魔物相手に近接戦闘はまだ危険なので、今はなるべく安全に戦って経験を積んでほしい。
「一応統率個体もいるしルルネットだけでボス部屋は厳しいだろう。今回は連携して戦うべきだな。」
ゴブリンキングやゴブリンジェネラルは種を率いる統率個体と呼ばれる部類だ。
同種の魔物にバフを掛けるので通常のランクよりも高いと思って挑んだ方がいい。
「そうね、助っ人をお願いするわ。」
「マスター、お任せ下さい。」
タイプCが挙手しながら言う。
やる気充分と言った様子だ。
「タイプCにも任せるつもりではあるが、あくまでも主戦力はルルネットとホッコとしておこう。一人で全て葬るのは無しだ。」
「承知しました。」
「クォオ?」
ホッコは自分が戦うのかと聞いている様で、首を傾げている。
「ホッコの実力も見てみたいからな。安心しろ、我が後衛として全員の安全は約束してやる。」
「クォン!」
そう言ってホッコの頭を撫でると満足気に鳴いている。
出会って間も無いが既にホッコの信頼を得られている様だ。
「そう言えばホッコってどんな魔法を使えるのかしら?」
「氷結魔法と神聖魔法ですね。最初から派生魔法を二つ覚えているとはホッコは優秀ですね。」
ジルが目配せをするとタイプCが答えてくれた。
万能鑑定のスキルを持っている事は言っていないので、ジルが答えたら何故分かるのかと言う話しになる。
なのでここは鑑定機能を搭載しているタイプCが答えるのが自然だ。
「クォン!」
ホッコは褒められて上機嫌である。
ちなみにホッコは魔法以外にもスキルを一つ持っている。
それはジルと同じ詠唱破棄のスキルだ。
ディバースフォクスと言う魔物自体が魔法を沢山使う魔物だからか、このスキルは必ず持っているのだ。
スキルと本来の力が噛み合った優秀な魔物なのである。
「それならホッコは氷結魔法主体で戦う事になりそうね。私は遠距離攻撃で牽制しつつ、いけそうなら接近戦も参加するわ。」
「クォン。」
ホッコがルルネットの言葉にコクコクと頷いている。
賢い魔物なので作戦の内容もしっかり理解している様だ。
「では行くとするか。」
ジルの言葉に全員が頷く。
それを確認してからジルはボス部屋の扉を開いた。
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