元魔王様と解呪の秘薬 8

「効果は知っているみたいね。」


「有りと凡ゆる病と呪いを治す最高峰の薬か!何故そんな物を所持している?」


 正にエトが探し求める物である。

万能薬さえあれば妹の呪いも消し去って救う事が出来る。


「これはここにくるまでにダンジョンの中の宝箱から手に入れた物よ。」


「…それ程の物が宝箱から出たと?」


 エトは若干疑いの籠った目を向けてくる。

探し求めていた物に違い無いが、あまりにも都合が良過ぎる。


「そう言う事よ。証明する手立ては無いけれどね。」


「万能薬だと言う確固たる証拠はあるのか?鑑定のスキル待ちか?」


 当然エトは万能薬だと気付いた事について言及してくる。

鑑定系統のスキルでも持っていなければ、ダンジョン内で手に入れたお宝の効果を判断する事なんて出来無い。


「ダンジョンの文献は相当な数を読み漁ったわ。魔物から取れる素材や宝箱から出るお宝について沢山ね。その時に見た万能薬の写し絵に酷似しているの。」


「つまり正確な鑑定をした訳では無いと言う事か。」


 エトにとっては確固たる証拠になり得ない。

それでも藁にもすがる思いで来ているので、可能性が僅かでもあるのならば一応確保して手元に置いておきたい。


「それでも私は記憶を信じて万能薬だと思っているわ。そしてこれが万能薬だと断定した上でエトさんに譲渡しても良いと思っているの。」


 ルルネットはジルの言葉を疑っていないので、これが万能薬だと確信している。

後はどうにかエトに受け取ってもらい、妹の為に使ってもらえれば成功である。


「先程のはその話し合いと言う事か。」


「ええ、彼は護衛で私は貴族だけどお宝を独り占めにするつもりは無いの。了承してもらった上での事よ。」


「本当に譲ってくれると言う事でいいんだな?」


 万能薬の可能性がある薬を貰えると聞いてエトの中に希望が生まれる。

妹を救える可能性があるのなら手に入れないと言う選択肢はあり得ない。


「そのつもりよ。条件次第だけれども。」


 ルルネットが呟いた言葉によりエトの眉がピクリと僅かに動く。

それを見たルルネットは少し身体を震わせて冷や汗を流すが、それでも条件だけは譲ってくれたジルの為にも必ずのませるつもりだ。


「ルルネット嬢の条件を満たしていなければ譲れないと言う事か。」


「その通りよ。これは譲れないわ。」


 ルルネットの真剣な眼差しからジルとの約束を守ろうとしてくれている事がよく分かる。


「承知した、条件を言ってくれ。」


 エトは大きく頷いて条件を受け入れる事にした。

ルルネットの真剣な様子が伝わった様だ。


「エトさんの立場を考えるとこれを持ち帰れれば私達にそう簡単には返せない程の恩が出来ると予想するわ。」


「その万能薬が本物であればその通りになるだろう。私が生涯を掛けて返していくつもりだ。」


 嘘偽りの無い真っ直ぐな言葉をエトが言う。

その様子を見る限り、本当に実行するのだろうと予感させる。


「その言葉に二言は無いわね?」


「この言葉は探索者のエトでは無い、としての言葉だ。」


 エトの言い放ったエトワールと言う言葉を聞いて、ルルネットや黙って成り行きを見守っていた仲間の3人が驚愕の表情を浮かべている。

ジルだけがその言葉の意味を分かっていないので変わらず様子を見ている。


「口約束でも安心したわ。条件は一つ、その恩でジルに貸し一つよ。」


「我にか?」


 自分の話しが出てくるとは思っていなかった。

ジルからトレンフル家に貸しを作ったので、ルルネットもエトに貸しを作るのではないかと思っていた。

売った恩をジルの為に使ってくれるとは、相当万能薬を譲った事に感謝してくれている様だ。


「エトさんに貸しを作っておけば、後々必ず役に立ってくれるわ。」


「そうなのか?ならばそうしておくか。」


「ジルだけでいいのか?」


 エトはもっと壮大な事を言われると思っていたので、随分と謙虚な条件だと感じた。

ルルネット含めて貸しが10くらいあっても受けるつもりでいたのだ。


「トレンフル家は他に頼らなければいけない程弱い貴族じゃないわ。だから私達への恩義は不要よ。」


「ふっ、その通りだな。トレンフルの領主は明君として有名であり、長女や次女の活躍も私の耳に届いている。それに一番幼いルルネット嬢は私と交渉出来る程の器なのだからな。」


 エトは嬉しそうに笑って言う。


「ジルは平民か?」


「そうよ、トレンフル家の客人として招いているの。エトさんでも手は出したら駄目だからね!」


 ルルネットがそう言って予め釘を刺しておく。

エトに気に入られると言う事はジルの言う面倒事に当て嵌まるので、それは阻止しなければならない。


「それは残念だ、優秀な者ならば側近として迎えたかったのだがな。それに民に大きな貸しを作るとは貴重な体験をさせてもらった。」


 ルルネットが言わなければエトに雇われていたかもしれない。

貴族に召し抱えられるのは御免なので正直助かった。


「自分が有利な状況でのエトさんとの繋がりは誰でも持っておきたいくらいよ。もしジルが頼ったら約束を果たしてちょうだいね。」


「うむ、万能薬分の仕事は必ずすると誓おう。ルルネット、ジル、これは有り難く貰っていくぞ。」


 エトは小瓶を大事そうに受け取って感謝を述べた。

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