29章

元魔王様と成り行きテイム 1

 万能薬を受け取って仲間達が動ける様になると、エト達は直ぐに別れを告げてダンジョンから退散していった。

妹の呪いを少しでも早く治してやる為だろう。


「ふぅ~、緊張した~。」


 ルルネットは一段落付いた事により安堵と共に床に座り込む。


「随分と様子が変だったがエトは身分の高い貴族なのか?」


 ジルの言葉を聞いてルルネットが呆れた様な目を向けてくる。

そんな事も知らないのかと顔に書いてある様だ。


「ジルってお姉様の事も知らなかったらしいし、相当な世間知らずだよね。エト様なんて貴族じゃなくても知ってないとおかしいレベルなのに。」


「そう言われても知らないのだから仕方無いだろう?」


 人族歴数ヶ月程度では知らない事も多い。

一般的な常識が抜けているのは自覚しているがこれでも色々と知識を蓄えてはいるのだ。


「はぁ、あのねエト様は自分の事をエトって名乗ってたけど本名はエトワール・ネクト・ジャミール様って言うの。」


 ルルネットがそう言ってエトの本名を教えてくれる。


「ん?ジャミールと言えば。」


「そうこの国と同じよ。つまりエトワール様は王太子殿下なの。」


 エトは貴族どころか王族であったのだ。

だからこそルルネットがあんなに緊張しておかしくなっていたのである。


「成る程、それでルルネットはずっとおかしかったのか。それにしても相手が王子だからと言って怯え過ぎだ。」


「主にその原因はジルなんだけどね。失礼な事を言わないか気が気じゃ無かったわ。」


 タメ口で話し合っている時は生きた心地がしなかった。

エトにいつ不敬罪と裁かれてもおかしくはなかった。


「つまり今回は王子に恩を売ったと言う事か。」


 思っていたよりも大きな貸しを作っていた様である。

王族の権力はダナンの持っていた王家の紋章で確認済みなので、中々使い所がありそうである。


「妹って事は王女様でしょうからね。王家に貸しを作れるなんて滅多に無い事なんだから大事にしなさいよ?」


「使う機会があるかは分からないが大事にさせてもらう。」


 知っていながらその貸しをルルネットは譲ってくれた。

その好意に甘えていざと言う時には頼らせてもらう。


「ところでルルネットよ、背後から魔物が来ているぞ?」


「えっ?やばっ!スキル使うの忘れてた!?」


「人とやり取りしていたとは言え気が緩んでいるぞ。索敵は常に怠るな。」


 ルルネットは頷いて早速魔物との戦闘に移る。

今回は相性の良い相手だったのか、上手く立ち回れており優勢だ。


「さて、そろそろタイプCを出すとするか。」


 ルルネットの戦闘を見ながらジルは無限倉庫のスキルからタイプCを取り出す。

エト達のパーティーが引き返していった事で、これより下の階層を潜っているパーティーはいなくなった。


『タイプC起動しろ!』


 魔力を与えて言霊のスキルを使い動かす。

タイプCの目に光りが灯って動き出した。


「マスター ご指示を。」


 タイプCは首を垂れて指示を待つ。


「ルルネットとダンジョンを潜っているからそのサポートを頼む。」


「命令を受諾しました。お供致します。」


 タイプCが立ちあがってジルの隣りに立つ。

マスターであるジルのサポートを出来るのが嬉しそうだ。


「あれ?タイプC出したの?」


 戦闘を終わらせて戻ってきたルルネットがジルの横を見て言う。


「そろそろ丁度良いかと思ってな。」


「丁度良い、ふーん。」


 ルルネットがジト目を向けてくる。

何やら気に入らない事でもありそうな表情である。


「何だ?」


「べっつに~、殿下達が帰って急に出すんだと思っただけよ。」


「そろそろルルネットも厳しくなってくるだろうと思っての事だぞ?」


 実際魔物の強さは階層を降る度に強くなっていくので、ルルネットが一人で戦うのも限界がくる。

だがサポートでタイプCも手伝ってくれれば、まだまだルルネットも戦う事が出来るのだ。


「ジル、殿下達がいるの知ってたんでしょ?」


「偶然だろ。」


 ルルネットが問い詰める様に疑いの目を向けてくるがジルは素知らぬフリをして言う。


「この下の階層には誰もいないから出したんでしょ?」


「気分だぞ。」


 その発言通りなのだがそれを知った手段までには考えが至らない。

なので断定する事は出来無い。


「私に感知のスキルを使わせておいて信じてなかったのね!自分でも何か使って調べてたんでしょ!絶対そうだわ!」


「信用している信用している、範囲は限られているが有用なスキルには違い無い。」


 ヒートアップするルルネットを宥める様に言う。

実際に閉鎖的な空間において感知のスキルは便利である。

視覚では認識出来無い範囲も調べられるのは大きなアドバンテージである。


「怪しい。」


「ルルネット様、細かい事は気にせず探索を続けましょう。時間は有限であり、マスターに教えを乞える時間も刻々と過ぎていってますよ。」


 まだ疑っている様子のルルネットにタイプCが言う。

屋敷で関わるうちにルルネットの人柄も見てきたので、どうすれば注意を逸らせるか扱い方を分かっている。


「それはまずいわ!さっさとダンジョンを進むわよ!目指すは最高到達階層!」


 ルルネットの疑いの目からマスターを救えたタイプCは満足そうに頷いて後を追う。

ジルもやっと解放されたと一安心しつつ、二人の後を追い掛けた。

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