元魔王様と解呪の秘薬 7

「条件って何?トレンフル家で出来る事なら可能な限り引き受けるわ。」


「勝手にそんな約束をしていいのか?」


 領主はミュリットであってルルネットでは無い。

同じ貴族家の一員ではあるが、そんな大事な事を個人間で決めていいのかと疑問に思う。


「お母様もお姉様も同じ対応をするから問題無いわよ。」


「そうなのか?ならば条件を言おう。」


 ジルは解呪に関する薬を渡す条件をルルネットに言う。

一つ目は渡す薬がここにくるまでのダンジョン内の宝箱から運良くドロップした事にすると言うものだ。


 二つ目はジルがその薬に関わったのは間接的な戦闘のみであり、間違っても製作や所持してたと思われる事の無い様に責任を持つ事だ。

トレンフルに来てからの事と同様に秘密厳守を徹底してもらいたい。


 三つ目はトレンフル家に対してジルから貸し一つとしておく。

今欲しい物は特に無いので、いつか何かしらの形で返してもらえればいい。


「三つ目の条件が少し怖いわね。トレンフル家が破滅する様な事柄、並びに私達が一方的に莫大な損害を被る事を除いてくれるなら問題無いわ。」


 ジルの条件に少しだけルルネットが付け加える。

ルルネットがエトを助けたい気持ちは嘘偽りの無い事だが、それで家族が辛い思いをするのは避けたいので、一応条件に加えておく。


「そこまでの頼みはするつもりが無いから安心していいぞ。」


「分かったわ。その条件ルルネット・トレンフルの名に掛けて守ると誓うわ。」


 ルルネットが真剣な表情で頷きながら言う。


「いいだろう、裏切った時は覚悟しておけよ。」


「ジルとそれなりに一緒にいるんだから今更そんな事するつもりは無いわよ。」


 ジルからの報復なんて考えただけでも恐ろし過ぎる。

裏切った方が被害が大きくなると分かっているので、絶対に約束を反故にしないつもりだ。


「良い返答だ。」


 ジルは無限倉庫のスキルから取り出した一つの小さな丸薬が入った小瓶をルルネットに渡す。


「これは万能薬と言う魔法道具であり薬の一種だ。文字通りあらゆる病や呪いに効き、即座に癒す万能の薬だな。」


「す、すごっ!?」


 ルルネットは効果を聞いて手の中に握った小瓶の中身を凝視する。

見た目ではそんなに凄そうな物には見えないが、間違い無く世界最高峰の薬である。


「お前はダンジョンに潜る為に勉強していたと言っていたから、宝箱の中身も事前に調べ尽くしたと言い、万能薬について知っていた事にして渡すといい。」


「そっか、これを鑑定する手段が無いから怪しまれちゃうもんね。」


 ジルには万能鑑定があるので万能薬について調べられるがこれはルルネットには教えていない。

お互いが鑑定手段を持っていない事になるので、何故薬の効果を知っているのかと尋ねられた時の保険を掛けておく必要がある。


「じゃあ渡すわね?」


「ああ。」


「ジル、私の我儘みたいなものだけど希少な薬をくれてありがとね。」


 普段のルルネットの歳上を敬っているとは到底思えない偉そうな口調では無く、歳相応の笑顔と共に小声で感謝の言葉を呟いた。

お礼を言った後、万能薬を持ってエトの方に近付いていく。


「内緒話は済んだか?」


「待たせてしまって御免なさい。」


「構わん。どちらにしろ、仲間達の準備が整わなければ私達も動けないからな。」


 エトが後ろに視線を向けて言う。

ヒーラーの女性が徐々に動ける様になってきて手足を軽く動かして感覚を確かめている。

武闘家の男性は傷は癒えたが流した血は戻らないのでまだ横になって安静にしている。


「エトさん、少し話しがあるわ。」


「話し?仲間達が動ける様になるまでなら付き合ってもいいぞ。」


 妹の命が掛かっているので本当であれば直ぐにでも出発したい気持ちである。

だが万全では無い仲間達を連れ回して全滅になってしまっては意味が無いので、ある程度回復するまでの暇潰し程度なら構わない。


「探索を再開して呪いを治す手段を探すからよね?でもその必要も無くなるかもしれないわ。」


「…ルルネット嬢、それはどう言う事だ?」


「これが何か知っているかしら?」


 ルルネットが手の中に持っていた万能薬を見せる。


「薬か?薬学に通じている訳では無いから種類までは分からんな。」


 エトが万能薬の丸薬が入った小瓶を見ながら言う。

さすがに見た目だけで何の薬か見抜くのは鑑定系統のスキルを持っていなければ無理だろう。

エトのパーティーは誰も鑑定系統のスキルは持っていない様だ。


「これは万能薬と言う魔法道具よ。」


「万能薬…万能薬だと!?」


 薬の名前を聞いてエトが驚愕の表情を浮かべている。

希少で滅多に出回らない物だが、その薬の持つ効果から名前を知っている者は多い。

なのでエトも名前だけは知っていたのだろう。

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