元魔王様と解呪の秘薬 6
魔法道具による呪いや呪詛魔法による呪いは、光魔法やその派生である神聖魔法によって解呪が可能だ。
弱い呪いであれば光魔法でも解呪出来るものはあるのだが、強い呪いの場合は神聖魔法の中でも難易度の高い魔法を使用しなければ解呪が難しい。
「劣化魔法をわざわざ鍛える物好きは少ない。知り合いを当たってみたがディスペルの魔法を扱える者はいなかった。光魔法の使い手は山の様にいたのだがな。」
エトは悔しそうに俯いて言う。
ちなみにディスペルとは超級神聖魔法であり、一部を除いた全ての呪いを解呪する力を持つ魔法だ。
それを扱えるとなるとかなりの適性が求められるので、人族でも使えるのは一握りだろう。
「光魔法では手の付けられない呪いと言う事か。」
「うむ、軽度な呪いであれば光魔法でも事足りたが、何度試しても効果は無かった。」
そう呟いたエトの表情は暗い。
妹を助けたい一心でダンジョンにやってきたが、お目当ての物が出るかどうかは運任せだ。
自分達に出来るのは宝箱を開けて魔物を倒す事だけで、成果が出ず時間が過ぎれば焦りもするだろう。
ここでジルの服の裾をまたもやルルネットが無言で引っ張ってくる。
そしてエトに一礼したルルネットがジルを少し離れた場所へと連れていく。
エトは突然どうしたのかと疑問を浮かべた表情をしている。
「ジル、どうせ何とか出来るんでしょ?何とかしてあげてよ!」
エト達から離れた場所でルルネットが小声で耳打ちしてくる。
今の話しを聞いてルルネットは何とかしてあげたいと思ったのだろう。
「どうせとは何だどうせとは。それに我を万能の神か何かと勘違いしていないか?」
ジルとて何でもかんでも出来る訳では無い。
前世の魔王時代であれば実質神域に至った力で、正に万能の神の様に何でも出来たかもしれない。
しかし転生して力の大半を失った状態では、前世とは比較にならない程に出来る事が限られているのだ。
「それだけ出会ってからずっと規格外だったじゃない!」
「我にとっては普通の事だ。」
「はいはい、それでどうなの?何とか出来るの?」
ジルの様な存在が普通と言う枠組みに入る訳は無いと思いつつ、今は何とか出来るのかどうかが重要である。
ルルネットの表情も真剣そのものだ。
「…ふむ。」
「ふむじゃなくてどうなのかって聞いてるの!」
ジルのはっきりしない返答にモヤモヤするルルネット。
治す手段があるのならば、ルルネットとしては可能であれば出してほしい気持ちであった。
だがジルがはっきりとせず悩んでいる理由もある。
治す手段についてだが、あるか無いかで言えばあるのだが、それを出してしまっていいのかを悩んでいた。
理由はそれらが封印項目に分類されている薬やポーションだからだ。
在庫は少ないが希少な素材を使っている分、効き目は最高クラスの物ばかりである。
人族の市場にはまず出回らないレベルだ。
「手段だが無い事も無い。」
「つまりあるのね?」
「出したくはないけどな。」
「理由を聞いてもいい?」
問答無用で取り上げるつもりなんてルルネットには無い。
ジルに事情があればそれを優先するつもりだ。
「簡単な事だ、そうそう出回らない程には希少な物だからだな。そして在庫も少ない。」
「…うーん、ジルが出したくないって言うのなら私からは無理にとは言えないわね。」
ルルネットは非常に残念そうな表情をしながら言う。
ジルがあまり目立ちたく無い理由は聞いている。
そう言った物を出してもらって面倒事に巻き込むのは、ルルネットとしては申し訳無いと思っているのだ。
「ほお、無理矢理出せと言ってくると思ったんだがな。」
「失礼ね、他人の財産を奪う様な真似はしないわよ。」
そんな価値の高い物を取り引きするとなればどれ程の値になるか分からない。
文字通り財産と言えるだろう。
「それでもルルネットとしては助けたいのだろう?」
あまり出したくないとジルが言った時のルルネットの表情がよく物語っていた。
「それはそうよ、だってエトで…さんはトレンフルにとっても大事な方なんだから。」
「…条件次第では渡してやってもいい。」
「ほ、ほんと!?」
ジルは少し悩んだ上で口にする。
ルルネット達とは既に知らない間柄では無いし、エトも話した印象としては悪い奴では無さそうだ。
身分に関係無く普通に接してくれるだけで無く、妹や仲間を想うところも好印象だ。
「どうかしたのか?」
「あっ、すみませんもう少しお待ち下さい!」
「ん?うむ。」
ルルネットが思わず大きな声を出してしまったので離れているエトにまで聞こえてしまった様だ。
だがまだジルの言う条件を聞いていない。
確実に渡せるとは決まっておらず、ぬか喜びさせるのも申し訳無いので、まだ話す訳にはいかないのだ。
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