元魔王様と絶品魚料理 7

 トレンフルの街を奇異の視線に晒されながらジル達が歩いている。

道ですれ違う者や見掛ける者全員がジル達の事を見ている。


 現在ジルは生簀を乗せた巨大な荷車を引くメイドゴーレム達を引き連れて歩いていた。

一見普通のメイドにしか見えないので、あんなに重そうな生簀を平然と引いている事に皆驚いている。


 それだけで無く、メイドにそれをさせて手持ち無沙汰で歩くジルに何とも言えない視線を向けてきている。

しかしメイドを連れている事から身分の高い者の可能性があるので誰も何も言ってはこない。


「はぁ、この視線の方が疲れる。」


 ジルは周りから受ける視線に溜め息を吐く。

元々メイドゴーレム達に一つを任せるつもりだったが自分も一つ引くつもりでいた。


 しかしメイドゴーレム達はそれを良しとしなかった。

マスターであるジルにそんな雑用は許容出来ないと言い、その結果がこの現状である。


「帰ったぞ。」


 ジルが店の扉を開けながら言う。


「おお、早かったな。」


 店主は作業中の手を止めて言う。

寿司の刺身の下の部分となる大量の米の準備をしてくれていた様だ。


「大漁だったか?…って何だこの量は!?」


 店主が店の外に出て荷車に乗せられている生簀を見て驚きの声を上げている。

予想していた量よりもかなり多かったのだろう。


「どんな魚を使うかも知らないからな。取り敢えず色んな魚を大量に獲ってきた。」


「500人前と言わず倍以上は作れるぞ?」


 どうやら獲る事に夢中で想像以上の大漁らしい。


「ほお、それなら作れるだけ頼むとしよう。金は追加で払う。」


 あんなに美味しい料理を大量に入手出来るのであれば願っても無い。

是非大量に作ってもらって無限倉庫の中に入れておきたい。


「金に関してはさっきので多分充分だ。魚はジルが獲ってきてくれたから材料費は必要無いからな。米代と俺の手間代ってところか。」


「そうか?足りなくなりそうなら言ってくれ。」


 対価はしっかりと支払う主義なので追加で要求されても構わない。

この売り上げがもっと美味しい料理を作り続ける事に繋がってほしいものだ。


「分かった。それと米もあるだけ使うつもりだがこの魚の量となると足りないだろう。余った魚は刺身でもいいか?」


「構わないぞ。」


「それじゃあ早速取り掛かるとするか。一体どれだけ時間が掛かるんだか。」


 大量の魚を前に店主が呟くが、その表情は全く嫌そうでは無かった。

店主に寿司と刺身作りを頼んだジルは店を後にする。


 これから大量に作り続ける予定らしいが、時間が掛かると言われたので、出来てる分を貰って引き上げる事にした。

そして後日受け取りにいくと伝えて魔法道具の鞄を預けた。


 収納量を増やして収納した物の時間を止める高価な魔法道具である。

商人ならば誰もが欲する魔法道具に、店主は驚きながらも受け取っていた。


 性格上持ち逃げの心配は無さそうだが、一応ブリジットの名前を出してトレンフルにいる間厄介になってる事を説明すると、店主は再び驚いていた。

貴族と知り合いだとアピールしておけば、変な考えを起こそうとは思わないだろう。


「あっ!ジル、やっと帰ってきたわね!」


 ブリジットの屋敷に戻るとルルネットが直ぐに気付いて駆け寄ってくる。

近くにはシキ、ナキナ、ライム、影丸もいたので一緒に遊んでいたのかもしれない。


 ブリジットとメイドのサリーはその様子を微笑ましそうに見守っていた。

子供らしいルルネットと言うのも新鮮な気がする。


「あれ?誰?」


 ルルネットがジルの背後に視線を向けて尋ねる。

ジルの後ろにはメイドゴーレム達が控えている。


「ジルさん、どこでメイドなんて拾ってきたのですか?」


「ブリジットよ、メイドを拾うと言う変な言葉を作るな。」


 動物を拾ってきた子供みたいな事を言われた。


「この者達は普通のメイドでは無くゴーレムだ。」


「ゴーレムって土魔法で作れる土人形の事?見た事あるのと随分違うみたいだけど。」


 メイドゴーレム達を隅々まで見ながらルルネットが言う。

ブリジットとサリーも同意見であり、影丸も興味を示している。

シキ、ナキナ、ライムは既に見た事があるので他の者達に比べると反応は薄い。


「魔法道具だからな。」


「これは魔法道具なのですか!?」


 それを聞いたブリジットが驚きながら、再度メイドゴーレム達を見る。

魔法道具には見えない程に精巧な作りだ。

見た目だけだと普通の人族と変わらない。


「お初にお目に掛かります。マスターの忠実なる魔法道具にしてメイド、タイプBと申します。」


「同じくタイプCです。お見知り置きを。」


 メイドゴーレム達は丁寧に挨拶をして頭を下げる。

魔法道具であるゴーレム達がそんな反応をしてくるとは思わずまたもや驚いていた。


「ず、随分と礼儀正しいのですね。」


「すごーい!本当に魔法道具なの?」


 ブリジットは困惑しており、ルルネットは驚きながらも目の前まで近付いて観察している。


「「そうです。」」


 驚いているルルネットを見て、メイドゴーレム達が得意気に言う。

自分達が凄いと褒められているのは、製作者であるジルを褒められているのと同義なので嬉しいのだろう。

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