元魔王様と絶品魚料理 6

 魚獲り競争であれば被害も特に起きなそうだし、ジルとしても沢山の魚が獲れて有り難いので続行させておく事にした。


「本気を出してあげます!『換装!』」


「こちらの台詞です!連動外装起動!」


 二人が同時に装備を取り出す。

タイプBは複数の回転式浮遊刃を取り出し、それを漁網の端に素早く取り付けて、自分も大網を持って走り出した。

その後ろを回転式浮遊刃によって大きく広げられた漁網が空中を移動しながら追い掛ける。


 対するタイプCは連動外装の巨大な両手を取り出す。

それに自分が持つ大網よりも更に大きな網を持たせて走り出した。

力自慢の大男が持つ様な大網なのだが、連動外装の手は楽々と持って移動出来ている。


「人目を避けて魔法を選んでいると言うのに、お前らがそれを出したら意味無いだろう。」


 ジルは溜め息を吐きながらも結界魔法の一つ、偽装結界を発動させる。

この結界は外から見た結界内の風景を変える効果がある。


 これにより結界の範囲内に包み込まれたメイドゴーレム達は、女性が二人で網漁している様に見えているだろう。

女性だけと言うのは珍しいかもしれないが、メイド服の姿、空中を移動する漁網、巨大な魔法道具の手と言った魚獲りに合わない物は全て隠せたので良しとする。


「一網打尽です!」


 タイプBは自分の持つ大網で魚を掬いながらも、回転式浮遊刃に取り付けた網を海中で広げながら爆速で移動させている。

魚達が得意とする水中であっても、広範囲に広げられた網が爆速で移動して迫ってきては避ける事も難しい。


 結果、広げられた網に次々と魚が捕まっていき、逃がさない様に海中を移動させて陸に上げると大量の魚が網の中に入っていた。

タイプBは成果に満足しながら生簀が一杯となるまで繰り返す。


「大物は渡しません!」


 タイプCが大網で狙った魚を掬い上げて捕まえると、同時に連動外装の巨大な手に持っている更に大きな網も一緒に振るわれる。

大きな網が一部の海中の空間をごっそりと通過していき、範囲内にいる魚は全て網の中に捕らわれた。


 魔物の様な大きな魚も連動外装によって振るわれた大きな網には、なす術も無く捕らえられている。

巨大な魚で生簀の総量が一気に増えて、タイプCは満足そうにしながら新たな大物を求めて海へ戻る。


「さすがに本気を出されると早いな。」


 競争により二人が本気を出したので、爆速で石壁内の魚が減っていく。

ジルが時空間魔法により休む暇無く補足と補充を繰り返しているが、二人の本気の速度には追い付けない。


 それでも二人の生簀がもう直ぐ一杯となりそうなので、もう一踏ん張りと言った感じだ。

それくらいなら獲り切られる前に補充が間に合いそうである。


「「これで一杯です!」」


 二人が持っていた網の中から生簀に魚を移し替える。

それと同時に生簀は一杯となったので、この競争は引き分けとなった。


「タイプC、中々やりますね。」


「タイプB、貴方こそ想像以上でした。」


 二人はやり切ったと言う表情をしつつ、お互いを認め合う様な言葉のやり取りをしている。

口喧嘩ばかりの二人なので珍しい光景だ。

何はともあれ競争で喧嘩が有耶無耶になったので良かった。


「ですが私の浮かせている網の中には、まだまだ大量の魚がいる事をお忘れ無く。」


「それはこちらも同じです。連動外装の手にある大網の中が見えないとは言わせません。」


 喧嘩は収まったと思っていれば、またもやマウントの取り合いを行う二人。

二人は生簀に入り切らない魚をまだ持っており、自分の方が多いと主張している。

どこまでも負けず嫌いな二人であった。


「勝負は引き分けとしてそこまでにしておけ。お前達のおかげで大量の新鮮な魚が手に入った、礼を言うぞ。」


 目的の新鮮な魚がメイドゴーレム達のおかげで大量に手に入った。

これで店主に大量に寿司を作ってもらえる。

食べた事の無い魚も沢山いるので、とても楽しみである。


「「マスターに喜んでいただけたなら幸いです。」」


 ジルの言葉に二人の喧嘩は嘘みたいに止まる。

賛辞の言葉をジルから貰えてどちらも嬉しそうだ。

こう言う時だけは非常に息が合う。


「いつもそうして仲良くしてくれればいいんだがな。それと余った魚は別で貰うとしよう。」


 二人の変わり身の速さに呆れつつ、余った魚も受け取る。

せっかく海に近い街にきたので寿司用にする魚以外にも魚を仕入れておきたかったのだ。


 無限倉庫があれば幾らでも魚を入れておけるし、そうしておけば色んな魚料理に使えるかもしれない。

氷結魔法で魚を冷凍して無限倉庫に余す事なく収納した。

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