元魔王様と魔法の授業 2

「へ?」


 姉の態度が急変化した事によりルルネットが呆けた声を出している。

ブリジットもジルが受けたがらないとは思っている様だ。


「なんだ分かっているじゃないか。」


「当然です。セダンでお会いした時に人柄は把握していますから。」


 セダンの街で二人は色々と話す機会があった。

その時にジルの事について色々と知れた。

貴族の依頼であっても普通の人族と違って面倒だと思えば断る事も分かっている。


「ちょ、ちょっと待ってよブリジットお姉様!私に協力する雰囲気だったわよね?」


 急に裏切られたルルネットは困惑しながら尋ねる。

聡明な姉の助けがあればジルを説得してくれると思っていたのに酷い裏切りだと思った。


「ルルネット、落ち着きなさい。先程のは私も実現したいと思って語った事ではあります。」


 ジルをルルネットの講師に出来れば何段階も戦闘面のレベルが上がるのは約束されたも同然だ。

是非そうなってもらいたいと思ってはいる。


「だったら…。」


「ですがジルさんは面倒事を嫌う方なのです。それが例え貴族の頼みであってもです。」


「そう言う事だ。」


 二人の言葉にルルネットが残念そうな表情をする。

せっかくブリジットと同等以上の強者を見つけたのに模擬戦をしてもらえない。

強くなる事に貪欲なルルネットとしては非常に残念な事であった。


「それでも私としてはジルさんに引き受けて頂きたいのです。そこで交渉といきましょう。」


「交渉?」


 ブリジットもこの話しは諦めると思っていたのに食い下がってきた。


「ジルさんはトレンフルに滞在中、ギルドで定期的に依頼を受ける事になっていますね?」


 ギルドのシステム的に身分証の代わりとなる冒険者カードは依頼を定期的に受けないと剥奪される事になっている。

なのでトレンフルに滞在する間ジルはギルドで依頼を受けなければならない。


「そうだな。そろそろ受けなければならないし今日はギルドに足を運ぶつもりだ。」


 ミラにも言われているのでそこはしっかり依頼を受けるつもりでいた。


「そこで提案です。私から出す依頼を受けて頂く事でお互いにとって有益な取り引きとさせて頂きたいのです。」


「その依頼がルルネットを鍛えると言う事か?」


 指名依頼と言う形でブリジットがジルに依頼を出せば、それを受けても定期的な依頼をした事になる。

剥奪を気にして一々ギルドにいく必要が無くなるのだ。


 ちなみにそのシステムを悪用して、中身の無い依頼を他人に出させて定期的な依頼を達成したりすると、ギルドに目を付けられる事になるが正規の依頼ならば何も問題は無い。


「はい、ジルさんにとっての定期的な依頼もこなせる良い提案ではないですか?」


「ふむ、一考の価値はあるか。」


 ジルのその言葉を聞いてルルネットは再び期待の満ちた表情に変わる。

ブリジットはその表情を見て、まだ早いとか表情に出過ぎとか色々言いたい気持ちではあったが、可愛い妹の為にジルの首を縦に振らせる様に頑張る。


「三つ条件がある。それ次第だな。」


「伺います。」


 ジルが指を三本立てて言うとブリジットは了承して頷く。

大抵の事であれば聞くぞと言った雰囲気だ。


「一つ目は報酬についてだ。さすがに普段受けているランク帯の報酬よりは貰えるんだろう?」


「貴族家からの依頼ですから期待して頂いても構いません。普段の依頼よりも格段に高い報酬額をお約束しますよ。」


 わざわざ面倒な依頼を引き受けるのであれば報酬は高くしてもらいたいと思っていた。

それはブリジットも理解している様で、ジルが満足出来るだけの報酬を約束してくれたので文句は無い。


「二つ目は期間についてだ。せっかく遠出してきたのに全て依頼で潰すのも勿体無い。」


「確か滞在期間は約一ヶ月でしたね。それでしたらジルさんが気の向いた時で如何ですか?一定数講師をして頂けるのであれば、ある程度自由にしてもらっても構いません。」


 ブリジットの提案であればトレンフルでの自由時間も確保出来る。

自由度の高い依頼は都合が良いのでこの内容であれば文句は無い。


「三つ目は内容についてだ。正直に言って毎回模擬戦は面倒だ。それにせっかく豪華な屋敷で暮らしているのに訓練付けもごめんだな。」


「それはルルネット次第ですね。どうですか?」


 ブリジットがルルネットに尋ねる。

これで頷いてもらえなければ残念ながら断る事になるだろう。

こんな貴族の様な暮らしを出来る機会は滅多に無いので、しっかりと満喫したい。


「訓練を付けてくれるなら毎日模擬戦じゃなくてもいいわ!それに訓練はジルの空いている時間で見てくれれば充分よ!」


「と言っていますが?」


 ルルネットとしてもジルに見てもらえるのであれば幾らでも譲歩すると言った様子だ。

条件としてはかなりジルが得する内容である。


「平民である我の指示に従えるんだな?」


 一応最終確認として聞いておく。

貴族の我儘には付き合うつもりは無い。


「身分なんて実力の前には関係無いわ!私は何よりも実力に重きを置いてるんだもの!強くなる為なら誰にだって頭を下げれるわ!」


「仕方が無い、そこまで言うなら付き合ってやる。」


「やった!」


 ジルが了承した事でルルネットが喜んでいる。

歳相応の嬉しそうな表情だ。

ジルとしてもここまで好条件であれば断る理由は無い。


「それでは早速ギルドに指名依頼を出さなければいけませんね。」


 ブリジットも喜ぶルルネットを見て嬉しそうに笑いながら、ジルの言った条件通りにギルドへの依頼書を作成した。

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