25章
元魔王様と魔法の授業 1
トレンフルの領主であるミュリットやブリジットの妹であるルルネットと顔合わせをした翌日、ジルとブリジットは屋敷でのんびりと過ごしていた。
シキ達は仕事をする為にミュリットの下へ行っており、これから暫くはそう言った感じで動く事になるらしい。
なので基本的にはジルとシキ達は別行動となる。
久しぶりに一人でいる事が増えるかと思ったが、ブリジットも騎士団関係の仕事が盗賊の件を片付けた事によって落ち着いてきたので、暫く自主訓練兼休暇を取るらしい。
なので朝食後のティータイムを二人でのんびり過ごしているのだ。
「ねえジル、また模擬戦に付き合ってよ〜。」
いや、正確には二人でティータイムをのんびり過ごしていたと言う過去形になる。
つい先程ブリジットの屋敷を朝から訪ねてきた人物が妨害する様に付き纏ってくるのでのんびりする事が出来無い。
その人物とはルルネットである。
どう言う訳かブリジットでは無くジルに対して先程からずっと模擬戦をしようと誘ってくるのである。
それに昨日に比べて口調も大人しくなっている気がする。
「何故そんな面倒な事をしなければならない。それに我が紅茶を飲んでいるのが見えないのか?」
せっかくの朝のゆったりとした時間を邪魔しないでもらいたいものだ。
昨日と違って今はこの雰囲気を味わうのに忙しいので暇はしていない。
「飲み終わったらでいいわよ?」
「面倒だと言っている。」
「そんな事言わないで付き合ってよ。」
断っても中々引き下がる様子が無い。
子供が親に遊び相手を求めるかの様にしつこく誘ってくるのだ。
「ふふふ、気に入られてしまいましたね。」
その様子を見ていたブリジットがニコニコと笑いながら言う。
「気に入られただと?」
「ルルネットは貴族の中では平民の方に分け隔て無く接する方なのですが、強い方には特に敬意を持って接する実力主義者なのです。」
昨日出会い頭に平民呼ばわりされたので貴族らしい貴族かと思ったがどうやら違うらしい。
それよりも強者を敬う性格の方が強いとブリジットが言う。
「あんなに強いなんて思わなかったもの。それにブリジットお姉様との模擬戦はいつでも出来るんだからこの機会は逃せないわ!」
ジルはまだトレンフルにきたばかりだが、それでも滞在期間は決まっている。
ルルネットとしては強者であるジルがブリジットの屋敷に泊まっているうちに沢山戦いたいのだ。
ブリジット以外で自分よりも明らかに強者と言うのはあまりいなかった。
せっかくの機会なのでジルから色々と学びたいと思っていた。
「確かにジルさんとの戦闘経験は学ぶべき事が多いでしょうね。」
「でしょう!だからまた模擬戦してよ!」
ブリジットの言葉に我が意を得たとばかりにルルネットが乗っかる。
「我にメリットが無いな。それに昨日ので全力ならば修行して出直してこい。」
ジルはルルネットを手でしっしっと追い払う様にして紅茶を飲む。
その仕草をされたルルネットは頬を膨らませて不満気な表情をしている。
ジルが言った様にルルネットは全力で戦った。
それでもジルは手加減した状態で戦って圧倒してきた。
また模擬戦をしたとしても一方的な戦闘が繰り返されるだけだろう。
「模擬戦が駄目ならば、ジルさんがルルネットの戦いの講師になると言うのは如何でしょうか?」
「は?」
ブリジットの突然の発言にジルが困惑した声を上げる。
逆にルルネットはその言葉を聞いて目をキラキラとさせて喜んでいる。
「ルルネットはジルさんとの模擬戦、強者との戦いを望んでいますが、それが叶わなくても戦闘に関する事で教えを請えれば将来の役に立つでしょう。」
ルルネットはブリジットの言葉にうんうんと大きく頷いている。
「それにルルネットが強くなる事は私達にとってもプラスでしかありません。トレンフルの戦力増強、高等部の学校の入学対策、名声による繋がりや人員確保と影響は大きいです。」
貴族として上に立つ立場だからこそ強さと言うのは武器になる。
ルルネットの将来がどうなるかは分からないが、ブリジットの様に騎士になるとすれば強いに越した事は無いし、強くなって損する事も無いだろう。
「そうよね!私も満足出来てお姉様達も得する最高の提案だわ!」
ブリジットの出した案にルルネットは大賛成と言った様子だ。
そして期待に満ちた視線をこちらに向けてきている。
「熱く語っているところを悪いが我が受けると思うのか?」
ジルが面倒事を嫌う性格なのはブリジットも知っている筈だ。
そんな事を頼まれても受けたいとは全く思わない。
「思いませんね。ジルさんならば即断るでしょう。」
何でもない事の様に呟いてブリジットは紅茶に口を付けた。
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