元魔王様と港町トレンフル 6

 扉を開けて入ってきた子供はブリジットを幼くした様な見た目をしていてとても可愛いらしい。

後ろには先程の執事がいるので、ブリジットが呼ばせたのはこの子供だったのだろう。


「ルルネットなのです!」


「シキ!」


 シキはミュリットの下から飛んでいきルルネットと呼ばれた子供と嬉しそうに抱き合っている。

ブリジットと契約していた頃からの知り合いだろう。


「ルルネットちゃん~、お客様が来ているんだからもう少し静かにしないと駄目ですよ~。」


 ミュリットがそう言って叱っているがほんわかとした声なのであまり迫力が無い。


「お客様?」


 ルルネットの視線がシキからジル達に向く。


「ルルネット、こちらは私がお世話になったジルさんとナキナさん、それと従魔のライムです。皆さん、この子は私の妹のルルネットと言います。」


ブリジットと似ているので血縁関係だとは思ったが妹らしい。


「ジル?ジル…、ジル…あっ!」


 何度かジルの名前を呟いたルルネットが思い出したとばかりに指を差してきて声を上げる。


「ブリジットお姉様からシキを奪った泥棒平民男ね!」


「酷い言われようだな。」


 初対面のルルネットからいきなり中々の悪口が飛んでくる。

どうやら初めて会ったのに既に印象は最悪らしい。


「る、ルルネット!いきなりなんて失礼な事を!」


「ルルネットちゃん~、そんな事を言うと怒りますよ~。」


 身内の失礼な言動に母と姉が怒っている。


「ルルネット、シキのご主人様に向かってそんな事を言うのは駄目なのです。」


 ルルネットに抱えられているシキも注意している。

本来はそんな事を言われればシキも怒るのだが、知らない仲じゃないのとルルネットがまだ子供なので注意に留めている様だ。


「だ、だって突然シキがいなくなったのはこの平民のせいなんでしょ!」


 確かにジルがシキを召喚したのがきっかけでブリジットとの契約が切れたのは間違っていない。

しかしシキが説明を殆どしないで契約を切ってきたのも問題あるだろう。


「ルルネット、元々ジルさんはシキと契約していたらしいですよ。なのであるべき形に戻っただけです。」


「シキちゃんと突然離れ離れになって寂しかったのは私も同じよ~。でも暫くはまた一緒にいられるんだから機嫌を直してね~。」


 二人が説明しながらルルネットの事を宥めている。

ルルネットの気持ちも理解は出来るので頭ごなしに叱ったりは出来無いのだ。


「…分かった。シキ、また私と沢山遊んでくれる?」


 二人の言葉に納得したルルネットがシキに尋ねる。


「勿論なのです!今からは少し仕事があるので、後で沢山遊ぶのです!」


「うん!」


 シキの言葉にルルネットは笑顔になる。

それを見たシキとミュリットは納得してくれてよかったと言う思いで仕事に向かっていった。

シキの護衛であるナキナとライムも何か手伝える事があるかもしれないので、その後ろを付いていった。


「そこの平民!」


 シキとミュリットがいなくなった途端にルルネットがビシッとジルを指差してきた。


「ん?我の事か?ルルネット。」


「気安く私の名前を呼ばないでちょうだい!」


 ルルネットの言葉を聞いたブリジットが再び注意しようと口を開こうとするがジルが手で制す。

するとブリジットは困惑した表情でこちらを見てくる。


「シキと契約したって言ってたわね?」


「そうだな。」


「私と勝負しなさい!」


 突然ルルネットから勝負を挑まれた。


「シキに相応しい主人か私が見極めてあげるわ!」


「既にブリジットに見極められているが?」


 その言葉にブリジットが頷く。

セダンの街で模擬戦をして実力は確かめられている。

元契約者にはしっかり認めてもらっているのだ。


「直接この目で見ないと納得出来無いわ!」


「姉妹揃って厄介な事だ。」


「も、申し訳ありません。」


 ジルがどこかで聞いた様な言葉だなと隣りを見て言うとブリジットが少し居心地悪そうに謝ってきた。


「まあいいだろう。受けてやろう。」


「ふんっ、随分と余裕な態度ね。それなら裏手の訓練場に来なさい!」


 ルルネットがそれだけ告げると扉を開け放って出ていく。


「すみません、ルルネットが失礼な事ばかり。」


「子供の言う事だ、気にするな。」


 ルルネットがいなくなってからブリジットが謝罪してくるが特に気にしてはいない。

子供はあれくらい元気な方が良いと魔王時代から思っているので怒りも特に湧いていない。


「それにしてもジルさんは断るとばかり思っていました。」


 面倒事を嫌うジルなので勝負は受けないとブリジットは思っていた。


「普段ならそうかもな。だが今は暇を持て余している。」


 ジルはシキ達がいなくなり一人残されて何をしようかと考えていたのだ。

ルルネットの勝負は暇つぶしに良さそうだと考えて受けたのである。


「ルルネットは年齢のわりに強いですよ?」


「ほお、それは楽しみだな。」


 ブリジットの言葉に期待しつつ、二人はルルネットの待つ訓練場に向かった。

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