元魔王様と港町トレンフル 5

 シキがブリジットと契約していた頃は領主の屋敷にて主に仕事をしていたらしい。

契約していたのはブリジットなのだが、共に領主の仕事を手伝う形で領地経営の補助をしていたのだ。


 その際にシキは領主と共に様々な領の発展案を出し合い、ブリジットは領主の代わりとして現場に赴き指揮を取ったりしていたと言う。


「さすがは領主の屋敷、立派だな。」


「久しぶりなのです!」


 ブリジットの屋敷よりも更に広く豪華な屋敷を目の前にして言う。

シキにとっては数ヶ月ぶりに訪れる場所なので嬉しそうである。


「どうぞ皆さん。」


 ブリジットが屋敷に招き入れる。

門番や使用人はブリジットが連れてきている事から頭を下げるだけで特に呼び止められない。

顔パス状態である。


「お帰りなさいませお嬢様。」


 屋敷に入ると一人の執事が出迎えてくれた。


「丁度よかったです、お母様は今はお仕事中ですか?」


「いえ、ティータイムのお時間で御座います。」


「分かりました。それとあの子も呼んできてもらえますか?」


「畏まりました。」


 ブリジットの言葉に一礼して執事はどこかへいなくなる。

領主である母の場所が分かったので部屋へ向かう。


「お母様、私のお客様をお連れしたのですが少し宜しいでしょうか?」


「大丈夫ですよ~。」


 扉をノックして尋ねると向こうからふわふわとした声が返ってくる。

許可も出たので扉を開けて中に入ると豪華な広い部屋に執事やメイドが複数待機していた。


 その部屋の中で一人ソファーに座っている人がいる。

ブリジットが対面に座りジル達を招いてソファーを勧めてくれる。


「皆さん、こちらが私のお母様にしてトレンフルの領主です。」


「こんにちは~、ミュリットです~。」


 ブリジットが紹介すると領主のミュリットがニコニコしながら手を振って言う。


「お母様?姉かと思ったぞ。」


「うむ、人族にしては随分と若々しいのう。」


 紹介を聞いてジルとナキナが少し驚く。

ミュリットの見た目はかなり若く見える。

口調と同じく柔らかな雰囲気だがブリジットとも見た目が似ているので姉と言われても納得出来る。


「あらあら~、嬉しい事を言ってくれますね~。」


 二人の言葉を聞いて見るからにミュリットの機嫌が良くなる。

若いと言われて嬉しくない女性はいないだろう。


「お母様、こちらの方々は…。」


「皆さんの事は知っていますよ~。昨日騎士の人が報告に来てくれましたから~。」


 既にジル達については他の者から情報を仕入れている様だ。


「そうでしたか。ではそれとは別の報告ですが、今回のトレンフル滞在中は、お世話になったお礼に私の屋敷で客人として過ごして頂く予定です。」


「それは良い案ですね~。お世話になったお礼に沢山おもてなししないといけませんよ~?」


 ミュリットが笑顔でブリジットの案に頷いている。

貴族の令嬢の家に平民の男が厄介になるのは大丈夫なのかと一応気になってはいたのだが、信用してくれている様で親的にも問題無さそうだ。


「分かっていますお母様。」


「皆さん~、ブリジットちゃんを助けてくれてありがとうございます~。」


 ミュリット自らがジル達に頭を下げてお礼を言う。

親として大事な娘を救われた事にとても感謝してくれている。


「偶然だから気にしないでくれ。」


「そ、そうじゃ。ミュリット殿、頭を上げてくれ!」


 ジルと違ってナキナは慌てた様に言う。

人族の領主であり貴族の偉い立場にいる人が自分達に頭を下げてくると言う状況に慣れない。


「感謝しているのは本当ですから~、何か困り事があったら言って下さいね~。」


 領主の協力を得られるとは有り難い事だ。


「ミュリット久しぶりなのです!」


「シキちゃん~、また会えて嬉しいですよ~。」


 話しが一段落した事でシキがミュリットに飛んでいきながら言う。

ミュリットがニコニコとしながら優しく受け止めてくれた。


「今回トレンフルに来たのは途中でやり残したままの仕事を片付ける為なのです。」


「前にブリジットちゃんから聞いています~。わざわざありがとうございますね~。」


 ミュリットが小さなシキの頭を指で優しく撫でながら言う。

シキも撫でられて嬉しそうな表情である。

一緒に暮らしていただけあって小さなシキの扱いにも慣れている様だ。


「早速取り掛かるのです!」


「あらあら~、やる気が凄いですね~。」


 ミュリットは紅茶の残りを飲み終えると立ち上がる。

シキの要望に応えて仕事に戻るみたいだ。


「それではジルさん~、シキちゃんを少し借りていきますね~。」


「ああ、滞在中は自由にしてくれ。」


 ミュリットがシキを連れて退室しようと扉に向かうと、その扉が勢いよく開け放たれる。


「シキが帰ってきてるって本当!」


 扉を開けて入ってきたのは小さな女の子だった。

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