元魔王様と港町トレンフル 4

 トレンフルに到着した翌日、ジルは優雅なティータイムを楽しんでいた。

広く豪勢な部屋でふかふかのソファーに身体を預けて飲む紅茶はとても美味しく感じられる。


 ジルの近くで仲間達も同じくティータイムを楽しんでおり、魔物のライムまでもがジル達の世話役として待機しているメイドに甲斐甲斐しく世話をされていた。


「貴族の生活と言うのも悪くないものだ。」


 そう呟いて紅茶を再び口に運ぶ。

現在ジル達がいるのはブリジットが普段から住んでいる屋敷である。

昨日ギルドでの用事が終わった後に、トレンフル滞在中は宿では無く屋敷に客人として招かせてほしいと言われたのだ。


 ブリジットは世話になったジル達にお礼がしたいのと、トレンフルの仕事をシキに手伝ってもらう事になるので、なるべく不自由無く過ごしてもらおうと思って提案してくれたのだ。


 一応シュミットにも声を掛けたらしいのだが商会から離れてると毎日の商売がしにくいからと丁重に断られたらしい。

なのでジル達だけでブリジットの屋敷の世話になっている。


 昨日は歓迎の意味も兼ねて豪華な夕食を出されて持て成された。

更に屋敷には鬼人族の集落で見た木造とは違うがそれなりに大きな風呂まであり、滞在中は貴族の屋敷で居心地良く過ごせそうだ。


「ジル殿は馴染むのが早いのう。妾は少し落ち着かん。」


 屋敷で生活して一日と経っていないのに既に順応しているジルを見てナキナが言う。

ブリジットが自分の家の様に自由に過ごしていいと言っており、使用人達もお客様として主人であるブリジットと同じ様に接してくれるのでとても快適である。


 しかし慣れない者からすれば突然貴族の屋敷に招かれて粗相が無いかと緊張してしまうだろう。

ジルは元魔王と言う事もありこう言った待遇の扱いも経験した事はあり、シキも元々ブリジットと契約していたのだから経験済みだろう。


 魔物であるライムや影丸は食事を沢山貰えて嬉しいくらいの気持ちしかないかもしれない。

一応ナキナも鬼人族の姫なのだが集落の中でもこんな接待を受けた事は無い。

なので落ち着かない様子でいるのはナキナ一人くらいである。


「これから暫く過ごすんだから早く慣れたほうがいいぞ。」


「その通りですね。」


 ジルの言葉に肯定しながらブリジットが部屋に入ってきた。

普段は騎士として鎧を装備しているのだが、今は私服姿でありワンピースを着用している。


 貴族らしい気品のある装いだ。

容姿の優れているブリジットは何を着ても似合っている。

鎧姿は凛々しく、私服姿は美しいと別々の魅力がある。


「どうでしょうか私の屋敷は?」


 そう言ってブリジットが対面のソファーに座る。


「高級宿にも引けを取らないもてなしだな。まるで貴族にでもなった気分だ。」


「ご満足頂けている様で何よりです。何か不自由がありましたら遠慮無く言って下さいね。」


 ジルの言葉にブリジットは満足そうに言う。

快適にもてなせている様で安心しているのと自分の屋敷を褒められて嬉しいのだろう。


「自由過ぎて落ち着かんのじゃが…。」


「ナキナ、慣れなのです。それに貴族の生活なんて滅多に体験出来無いのです。楽しんでおかないと損なのです。」


 そう言うシキはメイドさんに小さく砕いてもらったクッキーを与えられたり、紅茶をスプーンで掬って飲ませてもらったりと甲斐甲斐しくお世話されてご満悦の様子だ。

元々屋敷に住んでいたからか一番適応している。


「ふふふ、シキも滞在中は存分にもてなされていって下さい。」


「勿論なのです。でも先にやる事を終わらせるのです。」


「やる事と言うと本来の目的か?」


 ジル達がシュミットの護衛としてトレンフルにやってきたのは間違い無いが本来の目的は別にある。

シキがブリジットと契約していた頃に中途半端にしていた仕事の後始末も兼ねているのだ。


「そうなのです。先に仕事を片付けてのんびり過ごすのです!」


 早く終わらせて満喫したいと顔に書いてある。

せっかく遠出してきたのだからセダンの街では出来無い様な事をするチャンスなのだ。


「私としてはもう少しゆっくりしてもらってからでも構わないのですが、シキがそう言うのであれば早速お願いしましょうか。」


 やる気になっているのに無理に休ませるのも気が引ける。

トレンフルに滞在する間はやりたい様にやらせたいとブリジットは考えていた。


「なら早速向かうのです。」


「向かうってどこにだ?」


「私の母であるこの街の領主の屋敷です。」


 シキの仕事の為にトレンフルの領主の屋敷にジル達は向かう事になった。

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