元魔王様と風の姫騎士との再会 6

 男の子の操る馬車は街道を外れて脇道に逸れていく。

どうやらこの方角に盗賊の拠点がある様だ。

獣人の感知能力もあるが一応ジルも感知結界を使用しておく。


「少し速度を落とします。」


 男の子がそう言って馬車の速度を緩めた。

前方を確認するが特に何かある訳でも無い。


「どうかしたのか?」


「まだ拠点からは遠いのですが、少し先の方から人の臭いが沢山します。でも知らない臭いです。」


 説明された直後にジルの感知結界でもそれを捉えた。

ジルの張っていた結界よりも広範囲を嗅ぎ分ける嗅覚を持っているとはさすがは獣人族である。


「盗賊で無いなら接触してみるか。盗賊達の拠点が近いのを知らない可能性もあるしな。」


「分かりました。」


 ジルの言葉に従って男の子が馬車を進める。

少し進むと遠目に人の集団が見えてくる。

そしてこちらから見えると言う事は向こうからも見えている事になる。

ジル達に気付き2頭の馬が急いで向かってくる。


「そこで止まれ!」


 少し離れた場所で止まり、馬に乗っていた騎士がそう言う。

男の子は素直に馬車を止め、後ろから付いてきていた影丸も止まった。

騎士は後ろの馬車を引く影丸を見て一瞬驚いたが、素直に使役されているのを見て従魔だと分かり安心していた。


「こんなところで何をしている?」


「盗賊狩りだ。こっちに本命がいるらしいんでな。」


 隠す必要も無いので正直に答える。


「盗賊狩りだと?何故こちらの方角だと分かる?」


「この子に教えてもらったのだ。」


 ジルが男の子の頭にポンと手を置いて言う。

その言葉に男の子が頷く。


「獣人の奴隷か。」


「先程盗賊から救出したんだ。そしたら拠点の場所を知っているらしくてな。」


「何?盗賊を倒したのか?」


 騎士は少し驚いた様な反応を見せる。


「少数だけどな。後ろに捕まえたのがいるぞ。」


 ジルは後ろの影丸の引いている馬車を指差しながら言う。

生かして捕まえた盗賊は全てあの中に詰め込んできた。


「見せてもらってもいいだろうか?」


「別に構わないぞ。」


 騎士の一人が近付いていき、影丸に若干ビビりながらも扉を開けて中を見る。


「た、確かに盗賊の様だ!それもこの付近と言う事は我々の追っている盗賊と同じかもしれない!」


「成る程、同業者だったか。」


「ああ、だが我々は盗賊と戦って負傷してしまってな。今はあそこで治療と休息をしているんだ。」


 遠目からになるが騎士が沢山いるのは分かる。

10人くらいはいるのではないだろうか。


「よければ寄っていってくれないか?情報交換や余っていたらポーションを譲ってほしい。」


「そう言われても我の一存では決められんな。」


 盗賊関連の事は任せたとシュミットに言われたが、騎士達との合流やポーションの交渉事は想定外だ。

ジルは馬車の扉を開けて中にいる雇い主のシュミットを呼ぶ事にした。


「なんやなんやって、トレンフルの騎士様やないか?どないしたんや?」


「トレンフルの?」


 この騎士達はこれから向かうトレンフルの街に所属する騎士らしい。

そう言われると以前セダンの街を訪れてきた騎士達が身に付けていた鎧に似てる気がする。


「少しお願いしたい事があるのですが。」


 騎士が事情をシュミットに説明する。

こう言った予想外の事態は取り敢えず雇い主であるシュミットに判断を任せておけばいい。


「そう言う事なら大丈夫やで。ジルさん、ええよな?」


「ああ、我は構わないぞ。」


 シュミットが雇い主で決定権を持っているのにわざわざジルに確認してくる。

護衛の意見も尊重してくれる良い雇い主である。


「それではこちらに。」


 2頭の馬に先導されて騎士達の下に向かう。

休息や治療を行っていた騎士達は向かってくる二つの馬車を見て少し警戒している。


 中々手酷くやられている者もいる様でポーションが必要なのも納得だ。

先程の騎士が皆にジル達の事を説明し警戒は解けたので一先ず馬車から降りる。


「ん?」


 ジルは騎士達の中に見知った顔を見つけた。

あちらもジルを見て驚いた顔を浮かべている。


「ブリジットじゃないか。」


 騎士達の中にいた見知った顔は、セダンの街を訪れた際に模擬戦をしたシキの元契約者、そして今回向かうトレンフルの街を納める貴族の一員であるブリジットだった。


「ジルさん?何故こんなところに?」


 この場所はジル達が拠点としているセダンの街から随分と離れた場所にある。

どちらかと言うとトレンフルに近い。


「盗賊に襲われて返り討ちにしたんでな、拠点も潰そうと思って探していたんだ。」


「そうだったのですか。それは良い事を聞けました。」


 ブリジットは笑みを浮かべて言った。

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