元魔王様と風の姫騎士との再会 5

「いかんいかん、つい力が入ってしまったのじゃ。まあ、一人くらいならばいいじゃろう。」


 まだ盗賊は沢山いるので捕まえて売るとしても困らない。

その盗賊達は馬車に襲い掛かっていたのだが、ナキナが振り向くと馬車の周りで困惑している。


「何かに阻まれるぞ!」


「くそっ、どうなってやがる!?」


 馬車の御者台に座るジルに攻撃しようと頑張っているが何かに阻まれて攻撃が届かない。

これはジルの張った結界による効果だ。


「次はお主らの番じゃ。」


 仕切っていた男を始末したナキナが残りの盗賊達を見て言う。


「なっ!?リーダーがやられただと!?」


「一旦引くぞ!」


「だ、駄目だ!?こっちにも見えない壁がある!」


 盗賊達はジルを攻撃出来無いばかりかその間にリーダーがやられてしまった事に動揺する。

状況の不利を察して逃げようとするが、これまた結界で逃げ道を封鎖されていた。


 ジルは馬車を覆う結界と盗賊を含めて自分達を全て覆う結界の二つを張っていたのだ。

ナキナや盗賊達は結界と結界の間にいるので、逃げ道は結界を破壊しない限り無い。


「ちっ、奴隷共こいつを殺せ!」


 既にナキナの生け捕りなんて考えている余裕は無い。

盗賊側は結界で閉じ込めている者が誰かは分からない。

なので唯一接触出来るナキナを倒す事で解除を試みるつもりだ。


「う、動けない!?」


「身体が、なんで!?」


 盗賊の命令に従おうとした奴隷達であったが、身体を動かそうとしても動けない。

ジルは奴隷の首輪を付けている者達に中級土魔法のアースバインドを使用していた。

これにより身体が土で縛られて固定されてしまっていた。


「何をしてる早くしろ!」


「よそ見とは余裕じゃのう。」


 ナキナが命令をしている盗賊に近付き峰打ちをして意識を刈り取る。

その後は影丸も出して盗賊達を次々と無力化していった。


 数分もすれば立っている盗賊はいなくなり、奴隷達に命令出来る者もいなくなった。

これにて盗賊退治完了である。


 盗賊は全員倒した後に拘束して身動きが取れない様にしておく。

危険は無くなったので馬車の中に待機していたシュミットに報告する。


「さすがやな。依頼を頼んで正解やったで。」


 盗賊を軽々と返り討ちにしたジル達を見て満足そうに言う。

護衛として申し分無い仕事である。


「奴隷達は従わされてただけだから盗賊と分けてもいいか?」


「全部ジルさんの判断で構わんで。盗賊の件も一任するわ。」


「分かった。」


 ジルは無限倉庫から新たに馬車を取り出す。

ワイバーンの卵の様な依頼を受けた時に必要になるかと思い用意した物だ。


 この中に拘束した盗賊達を詰め込む。

シュミットの馬車には乗せたくないし歩かせれば時間が掛かるのでこれが最善だろう。


「ナキナ、そっちは任せるぞ。」


「うむ、後に付いていくのじゃ。」


 盗賊の乗った馬車は御者台をナキナに任せて影丸に引いてもらう事にした。

そして奴隷は二人いたのだが、獣人の男の子と人族の女性であった。


 同姓同士の方がいいだろうとナキナの隣りに女性を乗せて、シュミットの馬車の御者台に乗るジルの隣りには男の子を乗せた。

馬車の運転も男の子が出来るらしいので任せる事にする。


「さて、一つ聞きたい事がある。」


「は、はい。なんでしょうか?」


 男の子はおどおどした様子で恐る恐る聞き返してくる。


「そう警戒しなくても危害を加えるつもりは無い。先程の盗賊達の拠点を知っていたら教えてもらおうと思ってな。」


 あれで全部では無いのではないかとジルは思っていた。

あの程度であればCランク冒険者が苦戦するとも思えないし、そう言った相手がいるとすれば他だろう。


 そして盗賊の拠点を見つけられれば保管してある筈の盗品類は倒した者に所有権が移る。

せっかく盗賊退治をするならば報酬としてそれくらいのうまみは欲しい。


「し、知っています!倒しにいかれるんですか?」


「そうする予定だ。」


 シュミットも盗賊絡みは任せると言ってくれている。

ここでやめてトレンフルに向かっても、拠点を突き止めて更なる戦いになってもどちらでも構わないのだろう。


「こ、こんな事を頼める立場では無いのは分かっています。それでもお願いします、僕の知り合いを助けて下さい。」


 男の子は頭を下げて頼み込んでくる。


「奴隷の知り合いか?」


「はい、一緒に盗賊に捕まった皆です。」


 奴隷商人に商品として運ばれていた他の奴隷は同じ環境を共に過ごしてきた者達である。

知らない仲ではないし、男の子の中では仲間の様な感情も芽生えている。

出来れば皆を盗賊から解放してほしいのだ。


「いいだろう。その代わり案内は任せるぞ?」


「はい!」


 まだ子供ではあるが獣人の特性で五感が人族よりも優れているのは同じだ。

案内役や盗賊達の動向を知るのにこれ以上の適任はいないだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る