元魔王様と風の姫騎士との再会 4

 事前にミラに聞いていた内容も関係しているかもしれないので、それを踏まえて事情を説明すると護衛のジルの意見に従うとシュミットが言ってくれたので盗賊に警戒しながら進む事になった。


「ほな頼むで。」


 シュミットはそう言って馬車の中に戻る。

襲われる可能性があるので、シキ、ライム、シュミットや御者を含めたメイド達には馬車の中で待機していてもらう事にした。


 代わりにジルとナキナが御者台に座って馬車を動かす。

ナキナが馬の扱いを知っていたのでそちらは任せて感知に集中する。

ちなみに影丸はナキナの影の中に入って待機している。


「近付いてきているがあちらに動きは無いな。」


 距離が近付いているのはジル達が進んでいるからだ。

敵意を持っている者達に動きは無い。


「待ち伏せかのう。」


「おそらくそうだろう。あちらにも感知能力を持つ者がいるんじゃないか?」


 待ち伏せしている場所もジル達の通り道なので、こちらの動きを把握しているかの様な行動だ。

何かそう言った力を持つ者がいる可能性は高い。


「獣人族の可能性はあるのう。」


 ミラが冒険者から聞いた話しだと盗賊の従える奴隷の中には獣人もいたらしい。

獣人は鋭い五感を持つ種族であり、ギルドで初めて依頼をした際に同行した獣人も索敵に大いに役立ってくれていた。


 まだ距離は離れているが、視覚、聴覚、嗅覚等が優れている索敵能力を使われていればジル達一行の動きが捕捉されていてもおかしくはない。


「影丸を出していないのは正解だったな。」


「Aランクの魔物を引き連れていては警戒されてしまうじゃろうしな。」


 盗賊はなるべく討伐したい。

シュミットも盗賊討伐は有り難いと言っていた。

今回に限らず行商をよくする身なので盗賊が減れば、それだけ自分や知り合いの商人が襲われる可能性が減るので、安全確保の為に積極的に潰してほしいのだ。


「そろそろだな。」


 盗賊に気付いていないふりをしながら近付いていき結界を解除する。

少し進むと道の脇の草むらや木の影からわらわらと武器を構えた者達が出てくる。

その中には奴隷の首輪を付けた者もいる。


「そこの馬車止まれ!」


 大柄の男が声を張り上げて叫ぶ。

ナキナは言われた通りにその場に馬車を止める。


「なんじゃお主らは?何か用かのう?」 


 突然どうしたのかととぼけた様子でナキナが尋ねる。

ジルはそのまま様子を伺う。


「馬車と女を置いていけ、そうすれば命だけは助けてやる。」


 男は目線をジルに向けて言う。

ナキナは人族では無く鬼人族だが容姿はかなり美しい。

異種族でも気にしない様子でありナキナを見て舌舐めずりをしている。

それを見てナキナは見るからに嫌悪感を抱いている。


「ふむ、盗賊みたいだな。」


 今知ったと言わんばかりにジルが呟く。

ナキナは御者台を飛び降りて二つの小太刀を抜く。

それは以前まで持っていた小太刀とは違うものだ。

ダナンに新しくミスリルを使って作ってもらった小太刀であり、名を破魔の小太刀と言う。


 前の小太刀は鉄製であり、魔物に斬り掛かった時に折れてしまった。

しかし今回の小太刀は高純度ミスリルによって作られた一級品だ。

更にエルダードワーフ作と言う事で性能も段違いである。


 既に小太刀を受け取った日から何度も使っている。

使い心地、斬れ味共に申し分無く、ナキナは大喜びで小太刀を振るっていた。


「あ?鬼の嬢ちゃんが戦うのか?剣よりも腰を振ってる方がお似合いだぜ?」


 男はニヤニヤとした下卑た笑みを浮かべて言う。

周りの男達も同じくいやらしい視線を向けてきている。

奴隷達は無理矢理従わされている様で敵意は感じられない。


「遺言はそれくらいでいいかのう?」


 ナキナは男の言葉を聞いて呆れた様に言う。

先程から喋る度に不快な思いをするので、これ以上その下品な口を開いてほしくないと言う気持ちだ。


「そうだな。さっさと終わらせて気持ちの良い思いさせてやるとするか。男は皆殺しにして、女は捕らえろ!」


 男の命令によって馬車を取り囲んでいた盗賊や奴隷達が一斉に襲い掛かってくる。

ナキナがチラッとジルに視線を向けると思う存分やれとばかりに大仰に頷いている。


「先ずは好き勝手言ってくれたお主からじゃ。」


「へっ、待ちきれないってか!」


 男がナキナの振るう小太刀に合わせる様に剣を振り、小太刀と剣がぶつかり合う。

しかし拮抗する事は無く、ナキナの小太刀が剣を楽々と斬り裂きながら男の上半身も袈裟懸けに斬る。


「へっ?」


 男は何が起こったか理解する間も無く、間の抜けた声を上げながら身体を斬られて息絶えた。

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