元魔王様とナキナの従魔 10

 ナキナは自分の愛刀である小太刀が二つ共折れてしまい、魂の向けた様な表情となってしまった。

影丸が心配して近付きペロペロと顔を舐めているが反応は無い。

余程ショックなのが伝わってくる。


「あらら、止める前にやっちゃったわね。」


「どう言う事だ?」


「マジックモニュメントってこれでもAランクの魔物なのよね。とっても硬くて生半可な武器だと折れちゃうのよ。」


 ナキナを憐れみながらラブリートが言う。

止めようとしていたのも小太刀が折れる事を心配しての事だった。

ナキナの小太刀は中々の武器ではあるが材質は鉄なのでそれも原因だろう。


「武器で壊すならミスリルクラスはほしいところだわ。」


「魔法なら通じやすいのか?」


「どうかしら?以前上級魔法で壊れないところを見た事があるから、武器とかの方が周りの被害も無くていいんじゃないかし、ら!」


 ラブリートがそう言って魔装した拳をマジックモニュメントに叩き付ける。

バゴォーンと言う音を響かせてマジックモニュメントは砕け散った。

そして地面に落ちた大きな魔石を拾う。


「これで依頼も終了ね。村に戻って報告しましょ。」


 ラブリートが森の外を目指して歩き出す。


「ミスリルの武器くらいじゃないと壊れないとか言ってなかったか?」


「ウォン。」


 ジルの言葉に影丸が頷く。


「それに闘気も使わず普通の魔装だったぞ。」


「ウォン。」


「馬鹿力だな。」


 目の前をルンルンとご機嫌で歩くラブリートを見て改めてSランク冒険者の凄さを思い知らされた。

ジルはショックから立ち直らないナキナを影丸の背中に乗せてラブリートの後を追う。


「はぁ~。」


 暫く歩いているとナキナが大きな溜め息を吐いた。

少しは現実に気持ちが戻ってきたのかもしれない。


「せっかく依頼を終わらせたのに辛気臭い顔ね。」


 そんなナキナを見てラブリートが呟く。


「愛刀が折れてしまったんだ、仕方が無いだろう。」


「うっ…。」


 落ち込むのも仕方無いとジルが慰めるとその言葉で先ほどの光景を思い出したのか、ナキナが胸を抑えて呻く。


「私の忠告を聞かないで行動したからよ?」


「あんなに硬いとは思わなかったのじゃ。」


 魔装して斬り付ければ大半の魔物には通じる威力となる。

それが通じない程の硬さとは予想外であった。


「そう落ち込むな。新しい武器ならダナンに作ってもらうといい。」


 ジルの言葉にナキナが顔をガバッと上げる。


「人を選ぶ奴だが我が頼んでやるから機嫌を直せ。」


「うむ、直すのじゃ!」


 新しい武器が貰えると分かって機嫌を直した。

現金な性格であるがずっと落ち込まれるよりはいい。

森から出ると冒険者達が魔物を警戒する様に陣取っていた。

村は結界で守られてはいるが、これ以上村に魔物を向かわせない様にしてくれていたのだ。


 そして影丸だが今回の件の事を考えて、連れ歩くと不安にさせるだろうと言う判断でナキナの影の中に隠れてもらっている。

操影のスキルのおかげでそんな事も出来る様だ。


「無事だったか!魔物はどうなった?」


「全て倒したわよ。原因も排除したから安心してちょうだい。」


 ラブリートの言葉に冒険者達は大いに喜んだ。

原因が解決したと言う事は自分達は生き残れたと言う事である。

少なからずギルドからも報酬が出るだろうし頑張った甲斐があると言うものだ。


 そのまま冒険者達を加えて村に戻ると結界の中からシキとライムが出迎えてくれる。

村人達はどうなったか分からず心配そうにしている者もいる。


「お帰りなさいなのです。」


「ああ、結界で皆を守ってくれて助かったぞ。」


「お安い御用なのです。」


 結界はジルが張っているのだがそう言う事にしておいたのでわざとらしいやり取りを行う。


「おおお、皆様ご無事でしたか!」


「村長さん、魔物は全て倒したからもう大丈夫よ。」


「Sランク冒険者の闘姫が言うんなら間違い無いぜ。」


 ジル達がくるまでに指揮していた冒険者が発言の信憑性を高めてくれる。


「なんと!本当にありがとうございます!」


 それを聞いて村長は一安心、村人達も喜んでいる。

地獄の様な脅威もジル達のおかげで消え去ったので、皆が口々にお礼を言ってくる。


「それじゃあ私達は帰りましょうか。」


「そうだな。」


「今からですか?日が沈み始めていますし泊まられた方がいいのではないでしょうか?」


 空は既に赤みがかっている。

村長や村人達は村を魔物から救ってくれたお礼がしたいのだろう。


「解決したから速やかにギルドに報告しないといけないのよ。それなりに規模の大きな依頼だったから、増援の用意をしているかもしれないわ。」


 こう言った緊急性のある依頼や大きな依頼は速やかにギルドに情報を持ち帰る必要がある。

そうしなければアレンと向かった魔の森での特殊個体の時の様に要らぬ心配を掛けてしまう事になる。


「そうでしたか、それならば仕方ありませんね。宴にて皆様をもてなしたかったのですが。」


「それは他の冒険者にしてあげてちょうだい。」


 そう言ってラブリートが冒険者達を見回す。

突然そう言われた本人達はジル達程活躍していない自分達に話しが振られるとは思っておらず呆けた表情をしている。


「え?俺達か?」


「そうよ。貴方達が耐えていたから私達が間に合ったんだもの。冒険者が逃げ出していれば村は魔物に飲み込まれていたわ。」


 ジル達が到着してから活躍の機会はあまり無かったが、それまで凌いでいたのは間違い無く冒険者達だ。

その頑張りは評価されるべき働きである。


「確かにそうですな。皆様も本当にありがとうございました。」


 村長や村人達に感謝されて冒険者達も満更でもなさそうであった。

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