元魔王様とナキナの従魔 9
村を膨大な魔物の群れから救い、倒した魔物はかなりの数になるので、その素材を売った金をワイバーンの報酬に合わせれば相当な金額になるのは間違い無い。
セダンの街のギルドだけで支払えるのか疑問だが何とかしてくれるだろう。
「そんな依頼をしておったのか。」
「ジルちゃんも卵を一つ持っておいて竜騎士にでもなる?」
仲間内で従魔を持たないのはジルだけだ。
ジルに見合う従魔となるとワイバーンクラスはほしいところだろう。
「長い時間を使って育てるんだろう?必要だと感じれば成体をテイムした方が早いな。」
一から育てるのは時間と金が掛かり過ぎるので却下する。
それならブロム山脈にいる育ち切ったワイバーンをテイムした方が手っ取り早い。
「ワイバーンの成体をテイムしようなんて普通の人なら考えないのだけれどジルちゃんなら出来そうよね。」
「ワイバーンをテイムすれば空を飛んで移動も捗るしのう。あれは中々に気分が良かったのじゃ。」
ナキナはダナンの従魔であるスカイに乗った時の事を思い出している。
しかしワイバーンがいなくてもジルには魔法がある。
見た目はあれだがワイバーンよりも遥かに早く空の移動が出来るので必要性を感じない。
「魔物がきたわよ。」
前方にウルフ種の群れを確認する。
影丸よりもランクが低い魔物だが、高ランクには違い無く数も多い。
「それならば妾が…。」
「ウォン。」
ナキナが小太刀を構えようとすると影丸が一鳴きして前に出る。
「む?どうしたんじゃ影丸?」
「ウォンウォン。」
「任せろと言う事かのう?」
「ウォン!」
影丸がナキナの言葉に大きく頷いて鳴く。
ここは自分に任せておけと言っているのだ。
「実力を見る意味でもいいんじゃないか?」
「さっきは直ぐに降参してしまったものね。」
二人も異論は無い。
先程は恐れをなして直ぐに降参してしまったので影丸の実力は未知数だ。
魔物相手に実力を測れるので丁度良い。
「そうじゃな、では頼むぞ。」
「ウォォォン!」
影丸は掛かってこいとばかりに遠吠えをしている。
それに応える様に一斉に魔物の群れが向かってくる。
「ウォン!」
スキルを使ったのか影丸の影が揺らぐ。
蠢く影は形を変えて地面から浮かび上がり実体となる。
影から伸びる様に幾つもの黒い槍となった影は、迎え撃つ様に魔物達に向けて伸びていき全ての魔物を串刺しにした。
圧倒的な力を見せ付け戦闘が一瞬で終わってしまった。
「おおお!よくやったのじゃ!」
「ウォン!」
ナキナに褒められながら撫でられて影丸もご満悦だ。
「中々にエグい技を使うんだな。」
「影を自在に操れるスキルって便利よね。」
影丸を万能鑑定で見た時に操影と言うスキルを持っていた。
汎用性は高そうだと思われるしさすがはAランクの魔物である。
「今倒した群れはこれを守っていたのか?」
「なんなのじゃ?」
ジルとナキナは初めて見る大きな石碑の様な置き物を前に疑問を浮かべる。
「これはマジックモニュメントね。」
「マジックモニュメント?」
聞いた事の無い名前だ。
隣りにいるナキナも初見の様だ。
「かなり珍しい魔物よ。私も見たのは久しぶりだわ。」
普通の石碑にしか見えないがどうやら魔物の一種らしい。
「この魔物はテイム出来ず動けない少し変わった魔物なの。」
「ほお、それは随分と変わっているな。」
魔物の中には自らの重量から動くのが遅い魔物はいるが動けない魔物と言うのは珍しい。
そしてテイムが出来無いと言うのに関しては本当に魔物かと思えるくらいだ。
「それだけじゃ無いわ。加えて厄介な力も持っているのよ。」
「厄介な力?」
「この魔物は必ず魔法を一つ所持しているの。そして辺り構わず自動的に魔法を使う面倒な魔物なのよ。」
そう説明されてジルは万能鑑定を使ってみる。
確かにラブリートの説明通りに召喚魔法(ウルフ種)を持っていた。
「確かにこいつは召喚魔法を持っているな。それもウルフ種限定の召喚魔法だ。」
今回の件は確実にこの魔物が原因であろう。
道理でランク帯は違えど同じ種類の魔物ばかりな訳である。
「召喚魔法で呼び出されたから主人の様に守っていたのかもしれないわね。」
マジックモニュメントに近付くに連れて魔物のランクは上がり数も増えていった。
本能的に守る対象としていたのかもしれない。
「ならばこれを壊して解決じゃな。」
「あっ、ちょっと…。」
ナキナが小太刀を二つ構えて前に出る。
ラブリートが何かを言い掛けるがナキナの動きは止まらない。
魔装した小太刀を二つ石碑目掛けて振り下ろす。
直後バキンっと言う嫌な音が辺りに響く。
そして近くの地面にサクッと二つの刀身が突き刺さる音が聞こえた。
「わ、妾の小太刀があああああ!?」
ナキナは無惨に折れた二つの小太刀を前に地面に膝から崩れ落ちた。
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