元魔王様とナキナの従魔 8

 ライムの事を考えると断られると思っていたナキナだったが、思いの外あっさりと許可されて拍子抜けであった。


「よいのか?」


「それくらいの仲間の頼みなら当然応じてやる。どうせ結果は変わらないしな。」


 ナキナはもう仲間の一人だ。

言う事に従えとは言ったがそれくらいの我儘を聞いてやるくらいは問題無い。


 それにナキナはシキの護衛である。

シャドウウルフをテイムすれば結果的にシキの護衛戦力が上がる事には変わらないので別にライムに力を集中させる必要も無いのだ。


「感謝するのじゃ!」


「だがシャドウウルフがテイムに応じなければ問答無用で斬り捨てるからな?」


 それだけは一応忠告しておく。

シャドウウルフがジルやラブリートを見て降参したのならば、ナキナのテイムに応じない可能性はある。

その場合はナキナには申し訳無いがライムに吸収させて役立ってもらう事にする。


「そう言う事じゃから大人しくテイムされた方がよいぞ?妾もお主と同格の強さは持っているつもりじゃ。」


 テイムする主人としてそれなりに相応しいとアピールする。

シャドウウルフは中々に賢い様なので断ったらどうなるかも分かっているだろう。


 それに自分の事を先程庇ってくれたナキナに好意を寄せていそうな目をしている。

助けてくれたのが誰なのか理解しているのだろう。


「ウォン。」


 ナキナの言葉を受けてシャドウウルフが仰向けの状態から起き上がり、綺麗にお座りしてナキナを見る。


「ふむ、大丈夫そうだな。」


「それでテイムとはどうするのじゃ?」


 ナキナは経験が無いのでやり方を知らない。


「手に魔力を込めて対象に触れながら言葉を掛けてあげればいいわよ。それと名付けね。」


「テイム専用の魔法ってのは存在しない。魔物側が主人と認めて名付けを受け入れれば、魔力の繋がりが出来てテイムした事になる。だから仲間になれでも友達になってほしいでも、気持ちを伝える言葉はなんでもいいんだ。」


 テイムとは魔法やスキルでは無い。

なので誰でも行う事は可能である。

と言っても誰でも出来るだけで成功するかは別の話しだ。


 魔物は種類が同じでも個体毎に性格も違えば実力にも差がある。

テイムの条件は基本的に実力重視だが、個体によって異なる事もあるのだ。


 ちなみにライムは異世界通販のスキルで購入したがシキにテイムされているし魔力による繋がりもあるので普通のテイムと同じ状態となっている。


 そしてテイム後の繋がりだが、これは真契約や仮契約の劣化版の様な状態だ。

恩恵はせいぜい互いの生死の状態が分かるくらいである。


「分かったのじゃ。シャドウウルフよ、妾と共に来てくれるか?」


「ウォン!」


 ナキナが手を差し出すとシャドウウルフが一鳴きして前足をナキナの手に乗せる。


「名前は、そうじゃのう…。影丸と言うのはどうじゃろうか?」


「ウォン!」


 シャドウウルフが名前を受け入れた事により二人の身体が淡く光る。

光りは直ぐに収まり、これでテイム完了となった。


「成功した様ね。」


「名前も受け入れたな。」


 万能鑑定で視たから間違い無い。

しっかり影丸がナキナの従魔となっている。


「これから宜しく頼むのじゃ。」


「ウォン!」


 主人の言葉に影丸は元気良く鳴いて返事をした。

影丸を仲間にしたジル達は再び森を進んでいく。


「こんな高ランクの魔物が出現していたなんて、私達が間に合わなかったら大災害になってたわね。」


 ラブリートが隣りを歩く影丸を見て言う。

化け物達との戦闘を回避して命拾いしたのと、主人であるナキナに撫でられてご満悦と言った表情だ。

本来ならAランクの恐ろしい魔物なのだがテイムされて飼い犬の様になっている。


「弱いウルフ系の魔物だけでも相当な数だったからな。」


 シャドウウルフの様な高ランクの魔物がいなくてもあの魔物の数は充分に脅威であった。

ジル達が来なければあの村以外にも近隣の村や街にかなりの被害が出ていただろう。


「これは報酬も期待出来るわね。」


 まさかこれ程の規模とは思わなかったので報告すれば報酬もかなり貰えそうである。

確実にAランク以上の依頼規模だろう。


「Sランク冒険者なら相当持ってるんじゃないのか?」


「乙女は色々とお金が掛かるものなのよ。」


 バチンッと音がしそうな豪快なウインクをしながらラブリートが言う。

当然ジルも学習しているので余計な事は言わない。


「我としても大量の魔物の素材が手に入るのは助かる。」


「あら?素材採取が趣味なのかしら?」


「そんなところだ。」


 実際はライム用に魔物の死体が欲しいだけだ。

スキルを得て残った素材は全て売る事になるので手元には殆ど残らないだろう。


「それなら私の倒した分も欲しい魔物がいたら貰ってもいいわよ。」


「いいのか?」


 ジルとナキナも相当数の魔物を討伐しているが、それはラブリートも同じだ。

売ればそれだけでも一財産となるだろう。


「ジルちゃんが運搬してくれないと運ぶのも面倒だもの。それに私は素材に興味は無いわ。」


 冒険者は魔物の素材を持ち帰って売る以外にも武器や防具に変えて自分を強化するものだ。

しかしラブリートの武器は鍛え抜かれた己れの身体だ。

防具も特に付けておらず、可愛らしさ重視の服装なので確かに必要無さそうである。


「我としては有り難い申し出だな。」


「ギルドからの報酬に加えてワイバーンの依頼もあったし、今日でちょっとした小金持ちね。」


 ワイバーンの卵を納品する依頼では過去最高の納品量らしいし、ワイバーンもそのまま倒して持って帰ってきた。

肉以外はギルドに売るつもりなのでそれだけでもかなりの売却額となるだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る