元魔王様とナキナの従魔 5

 実際にジルの戦っているところを見れば誰もがその実力を直ぐに理解出来るだろう。

ラブリートの言う様にジルは魔法による対多数の戦闘はお手のものだ。


 今回のウルフ達は正にそれである。

と言ってもジルがいなくてもラブリートだけで事足りそうではある。


 対多数の戦闘は苦手だと言っているが、先程多くの魔物を相手に一撃で終わらせている。

ラブリートが本気になればジルと同等の成果を上げても不思議は無い。


「そう言う事だから落ち着かないと思うけど料理があればもっと提供してもらえないかしら?」


 ラブリートがこの村の村長に向けて言う。

村人達も会話をずっと聞いていたのでラブリートが普通の冒険者で無い事は分かっているだろう。


「暫くは魔物に襲われる心配は無いのですな?」


「約束するわ。」


「分かりました。手の空いている村の者達で作らせていただきます。」


 そう言って村長は戦う事の出来無い老人や女子供と一緒に炊き出しをしてくれた。

冒険者達も少なからず怪我をしている者がいたのでこの機会に治療や休息に向かった。


「ど、どうぞ。」


「悪いな。うん、美味い!」


 村人の女性に手渡されたスープを飲む。

野菜ベースで素朴な味わいだが美味しい。

急な頼みであり小さな村なので調味料も万全に揃っている訳では無いが、それでも直ぐに飲み干してお代わりを頼むくらいには美味しかった。


「そんなに美味しそうに食べてもらえると嬉しいけど、状況が状況だから落ち着かないですね。」


 女性は嬉しそうにしながらも結界の外の魔物を見て少し怯えている。

結界内は幾分か和らいだ雰囲気となっているが、結界外では今も村を襲おうとウルフ達が絶え間無く攻撃を仕掛けてきているのだ。


「ならば少し安心させてやるとしよう。」


「え?」


 ジルの言葉に女性や周りの者達が疑問を浮かべている。

まだ実力を確認出来ていなかったのでその声が聞こえた冒険者も少し集まってくる。

見れば少しは安心出来るだろう。


「中級火魔法、フレアバタフライ!」


 ジルがスープを片手に座ったまま手を掲げる。

そこからメラメラと燃える蝶が大量に生み出されて空に向かっていく。


「なんだあの量!?」


「こんなに正確に操れるの!?」


「これがDランクの冒険者…。」


 冒険者達が口々にジルの魔法を見て驚きの声を上げている。

ジルの火魔法によって生み出された蝶の量は軽く100を超える。

火魔法を使える者はそれがどれだけ規格外か分かる。


「シキ、天井の結界を開いてくれ。」


「了解なのです。とりゃーなのです!」


 村を覆う結界はシキが張った事になっているのでわざとらしいやり取りを交えて天井部分の結界だけを開く。

かなり高い位置なのでウルフ達もそこまでは登れないだろう。


 開いた部分から燃え盛る蝶が次々と外に出ていき、全て出し終えると結界を閉じる。

そして結界をなぞる様に降りていった蝶達がウルフ達目掛けて進んでいき、身体に触れるとその全身が燃え上がった。


「す、凄い!」


 村人達はその光景に驚き喜んでおり、対照的に冒険者達はその凄まじい威力に声も出ない。

たちまち結界周りにいたウルフ達が燃え上がり、結界は火に囲まれる事になるが、火も熱も一切結界が阻んでくれるので結界内は快適である。


「これで少しは数も減るだろう。」


 ジルは野菜スープを飲み干し、新たな料理を受け取りながら言った。

その後もたっぷり時間を使って食事を摂った事で、腹は膨れて魔力もそれならに回復した。


「さて、腹も膨れたしそろそろやるか。」


 ジルの言葉にようやくかと周りの冒険者達が腰を上げる。

誰も文句を言わないのはラブリートが待つと言ったからだ。

その恐ろしさは失言をした冒険者がいたので間近で見る事になり、誰も体験したいとは思わない。


「美味かったぞ。これで足りるか?」


 ジルは無限倉庫から食事代として金貨数枚を渡す。


「き、金貨!?こ、こんなに貰えませんよ!」


 受け取った女性はその金額に驚いている。

お世辞にも豪華とは言えない有り合わせで作った料理ばかりであり、こんな大金を貰える程の物では無かった。


「いきなり無理を言った礼だ。それに問題が片付けばギルドから報酬を貰えるから気にするな。」


 まだ何か言いたそうにしていたがジルとしては適正額を支払ったつもりなので感謝を伝えて話しを終える。

これから討伐に関する話し合いをするのだ。


「どう言う作戦でいくんだ?」


 元々指揮をしていたBランクの男が尋ねてくる。


「ジルちゃん、どうするの?」


「って闘姫が決めるんじゃないのかよ。」


 作戦内容を自分で決めずにジルに意見を求めたラブリートに向けて言う。

本来ならランクの最も高いラブリートが指示を出すところだろう。


「私と実力が遜色無いんだからジルちゃんが決めてもいいでしょう?」


 ラブリートは基本的に単独で冒険者をやってきた。

誰かと一緒に依頼を受ける機会は少なかったので指示出し等の経験が少ない。

それならパーティーで活動しているジルにやってもらった方がいいと考えていたのだ。

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