知識の精霊と金策兎 3

 一瞬でラピッドラビットとの距離を詰めたナキナは小太刀を振るって仕留めようとする。

さすがは戦闘慣れしているナキナだ、無駄な動きが一切無い流れる様な一太刀である。

吸い込まれるかの様に小太刀が警戒心の無い背中を襲う。


「キュッ!」


 しかしラピッドラビットの身体に当たったと思った直後、何故か小太刀は空を斬っていた。

そして小太刀を振るった場所にラピッドラビットはいない。


「む?」


 当たると確信した攻撃だったので何の手応えも無い事に思わず小太刀を見てしまう。

しかし当たっていないので当然血は一滴も付いていない。


 そして少し遠くの方でナキナに攻撃されたラピッドラビットが元気にぴょんぴょんと跳ねている。

まるで何事も無かったかの様な反応だ。


「何かされた様には感じなかったのじゃが…。もう一度じゃ!」


 ナキナは再びラピッドラビットとの距離を詰めて小太刀を振るう。

しかし同じく小太刀は空を斬るだけで直撃しない。


 低ランクと侮って小太刀を一つしか抜いていなかったが、今度は当たらない事を考慮して小太刀の二つ目も抜き、挟撃する様に振るってみるが両方とも当たらない。


 遠くの方で相変わらず何事も無かったかの様にぴょんぴょんと跳ねているラピッドラビットを見て、ナキナはプルプルと肩を振るわせる。


「…どうやら弱者と見て侮っていた様じゃな。本気で相手をしてやるのじゃ!」


 ナキナは身体強化のスキルを使用して、更に全身を魔装する。

身体能力を現状の最大限にまで高める自己強化だ。

これにより先程までとは比べ物にならない速度を手に入れたナキナがラピッドラビット目掛けて爆速で突撃する。


 そして攻撃力や攻撃速度が高められた状態で二つの小太刀を容赦無く振るう。

風切り音が辺りに響き、あまりの速度に小太刀が分裂している様にも見える。


「ぐぬぬぬぬぬ!」


 これだけの速度で攻撃しているのに最初と変わらず小太刀はずっと空を斬っているだけだ。

しかし身体能力を高めた事でラピッドラビットが何をしているかは把握出来た。


 単純な事ではあるが小太刀が当たる瞬間に素早く避けている、ただそれだけであった。

それでもナキナはかなりの速度で攻撃しているので、それを難無く何度も避けているのは、ラピッドラビットの速度がナキナの速度を大きく上回っている事を意味している。


 攻撃を受けている訳でも無いのに小太刀を振るう度に心にダメージを負っていく。

どれだけ攻撃していたか、気合いを入れた最後の一振りも軽々と避けられ空を斬るとナキナはその場に膝を付いた。


「くっ、妾はこれ程無力じゃったのか…。」


 ナキナはがっくりと肩を落として落ち込んでいる。

一応低ランクの魔物であるラピッドラビットを全力を出しても倒せなかった事に落ち込んでいる様子だ。


 そしてその周りを煽る様にラピッドラビットがぴょんぴょんと飛んで回っている。

それを見てナキナは更に落ち込む。


「やっと諦めたのです?」


 激しい攻撃故に巻き込まれる可能性があり近付けなかったシキがパタパタと飛んで向かってくる。


「シキ殿、妾は無力じゃ。期待には応えられそうに無い。」


 ラピッドラビットをシキは狩りたい様だが全力の自分でも仕留められなかったので力にはなれなそうだと感じている。


「話しは最後まで聞かないと駄目なのです。正面からやり合っても捕らえられる様な相手じゃ無いのです。」


 それこそ別行動中であるジルや一緒に行動しているSランク冒険者であるラブリートクラスで無ければ身体能力だけで捕まえるのは難しいだろう。


「ではどうするのじゃ?」


「さっき言ったのです。特定のスキルや魔法が使える人じゃないときつい相手なのです。」


 ラピッドラビットを狩るには少しだけ対策を用意する必要があるのだ。


「特殊なスキルや魔法?」


「ズバリ足止めなのです。ラピッドラビットの素早い動きに干渉出来る様なスキルや魔法が無いと倒すのは難しいのです。」


 逆に言えばそれらがあれば倒すのは比較的簡単となる。


「では妾は倒せぬぞ?」


 ナキナは魔法適性が無く、スキルは身体強化と鬼火だけだ。

身体強化は自分にしか使えず、鬼火は火で囲んだり出来ても相当な高さを用意しないと軽々と飛び越えられそうであり、どちらも適しているとは思えない。


「何でも自分だけで解決しようとしては駄目なのです。一人でどうにも出来無いのなら仲間に頼ればいいのです!」


 そう言ってシキがその仲間にバッと手を向ける。

そこにはプルプルと揺れるライムがいる。


「ライム殿が足止めをしてくれると言う事かのう?」


「その通りなのです。ライムも優秀なシキの護衛なのです!」


 ライムはその言葉を肯定する様にプルプルと揺れている。


「ナキナ、もう一度ラピッドラビットに攻撃してほしいのです。それと全力は出さなくていいのです。」


「う、うむ。」


 また軽々と避けられるのではないかと思いながらもナキナは立ち上がる。

そして小太刀を構えて何度目かも分からない突撃を始める。


「ライム、今なのです!石化のスキルを使うのです!」


 タイミングを見計らいシキが指示するとライムが石化のスキルをラピッドラビットに対して使用した。

するとラピッドラビットの小さな片足が徐々に灰色に変化していく。


「キュッ!?」


 突然足が重く動かなくなり焦っている様子だ。

石化する進行速度は遅いが、素早く移動する為の足が石の様になってしまえば普段の様な速度は出せない。


 先程まで余裕で対応していたナキナが近付いており、必死に動こうと頑張っているが思う様に動けていない。

そして迫る小太刀を避ける事も出来ず、なす術無くラピッドラビットはナキナに狩られた。

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