知識の精霊と金策兎 2

「お待たせなのです。」


「あれ?ナキナさんも行くんだね。今日は宜しくお願いします。」


 安全地帯だからかリュカは戦う事を一切感じさせない可愛らしいシャツにスカートと言う服装であった。


「うむ、リュカ殿の身も妾が全力で守ろう。」


 武器を所持しているのはナキナだけなので万が一何か起これば自分が対応する事になる。

リュカには宿屋でお世話になっているので護衛くらいお安い御用である。


「頼もしいね。」


「シキの護衛だから当然なのです。」


「そうだね、じゃあ早速行こうか。」


 シキ達は宿屋を出発して門を出る。


「今日は徒歩で向かうの?」


 馬を連れず門を出たのでリュカが尋ねてくる。

徒歩でも全然行ける距離ではあるが往復を考えるとそれなりに時間は掛かる。


「馬よりもナキナの方が速いのです。宜しくなのです。」


「任されたのじゃ。」


 事前にシキに移動について頼まれていたのだ。

馬よりも早く移動するとなるとあれしかない。


「リュカ殿、失礼するぞ。」


「えっ?わあっ!?」


 突然ナキナが自分の事をお姫様抱っこする様に持ち上げたのでリュカは驚いている。

人一人抱えているのにナキナは全く重そうな様子を見せない。

普段から鍛えているだけはある。


「えっ?な、何!?」


 まだ状況を理解出来ていないリュカが困惑している。


「口を閉じてないと舌を噛んじゃうのですよ?」


「では出発なのじゃ!」


「えっ?うわああああ!?」


 状況を理解する前に足を魔装したナキナが走り出した。

かなりの速度で景色が流れていき馬よりもずっと速い。

リュカは初めて体験する速度にずっと悲鳴を上げつつも、女の子としてスカートだけは中が見えない様にしっかりと抑え付けていた。


魔装して走って移動した事により5分と経たずにミハラ草原に到着した。

広々とした草原がどこまでも広がっており、人もそれなりにいる。


「到着じゃ。」


「あっという間だったのです。」


「し、死ぬかと思った…。寿命が縮んだ…。」


 ミハラ草原に到着して気持ち良さそうに身体を伸ばしているシキやナキナとは対照的にリュカの顔は暗い。

爆速での移動中に終始叫んでおり体力が削られた様だ。

慣れない移動方法と言うのもあり怖かったのかもしれない。


「今からそんなに疲れてたら採取が大変なのですよ?」


 シキが着いた途端に草原に腰を下ろしているリュカに向かって言う。


「シキちゃんは怖くなかったの?」


「速い移動くらい慣れたのです。」


 シキはこれでも魔王時代からジルや魔王軍の者達と一緒に過ごしてきた。

規格外の代名詞はジルの前世でもある魔王であったが、配下の者達もそれなりにおかしかったので、速い移動くらいで驚いていては心が保たないのである。


「冒険者って凄いんだね。」


「少し休憩するのです?」


「うん、そうしようかな。」


 リュカは移動で疲れてしまったので到着はしたが少し休む事にする。


「だったらその間にナキナに教えるのです。」


「金策の魔物の件かのう?」


 ナキナが付いてくると分かり、シキは魔物討伐をしてほしそうであった。


「そうなのです。さっき説明した通りここは初心者向けで比較的弱い魔物ばかりなのです。」


 そう言ってミハラ草原に出現する魔物について教えてくれる。

シキはセダンで暮らす間に近場の地名や魔物等の知識は豊富に蓄えてある。

ミハラ草原に関しても抜かりは無い。


「確かに脅威と呼べる魔物はおらんのう。そして高く売れそうな魔物もおらんぞ?」


 聞いた魔物達では金策が難しいのではと感じてしまう。

それくらいナキナからすると弱い魔物しかいなかった。


「今説明した魔物以外にももう一種類いるのです。それがあいつなのです!」


 シキがビシッと指差した方角に視線を向けると草むらでぴょんぴょんと飛び跳ねる兎が目に入る。


「ホーンラビットじゃろう?」


 魔物の中では低ランクで肉も安価で手に入るのに美味しいので比較的需要のある魔物である。

動物の兎とは角があるかないかくらいの見た目の違いしか無く危険度も低い。


「似てるけど角の形が少し違うのです。あれはラピッドラビットと言う魔物なのです。」


「初めて聞く名前じゃのう。」


 ホーンラビットは知っているがラピッドラビットと言う名前は初めて聞いた。

そして一見同じに見えたがホーンラビットは円錐状の角を持っているのに対して、目の前の兎は渦巻型の角を持っていて微妙に見た目が違う様だ。


「あの魔物はとにかく素早い事で有名なのです。そしてお肉がとっても美味しい事でも有名なのです。」


 そう説明したシキの口元から涎が垂れる。

ラピッドラビットの美味しいお肉を想像しているのだろう。


「つまり肉が高く売れると言う事じゃな?」


 魔物の肉は食用として広く根付いている。

食べられない物もあるが美味しい物も多く、普通の動物に勝る物もあるので需要は尽き無い。


「そう言う事なのです。特定のスキルや魔法が使える人じゃないと取るのが大変だから高値で取り引きされるのです。」


「ならば妾に任せておくのじゃ!」


 シキの説明を聞いたナキナは早速とばかりに視界に捉えているラピッドラビット目掛けて飛び出していった。


「あっ、行っちゃったのです。」


 まだ説明したい事があったのだが既にナキナはラピッドラビットしか目に入っていない様だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る