21章
知識の精霊と金策兎 1
ジルがギルドで依頼を受ける際にシキが別行動する事になった時まで時間を遡る。
ナキナとライムにシキの護衛を任せてジルは依頼をしに出掛けた。
「それでシキ殿は何の用事があるんじゃ?」
シキはジルと契約しているので常日頃から一緒に行動する事が多い。
別行動を取るのは珍しい。
「この後リュカとお出掛けの予定なのです。」
リュカは宿屋の看板娘である。
異世界通販のスキルにて手に入れた異世界の料理の知識の再現に協力してくれるのでシキとは仲が良い。
「何処に行くのじゃ?」
「ミハラ草原なのです。宿屋に飾る花や料理に使うハーブを取るらしいのです。」
ミハラ草原とはセダンの街から馬を走らせて10分くらいの場所にある草原地帯の事である。
採取目的で訪れる予定らしい。
「了解じゃ、外出ならば護衛らしく身の安全は保証するのじゃ。」
ナキナが任せろとばかりに胸を叩く。
護衛としてジルにシキの身の安全を任されているので誰が相手でも守り抜くつもりだ。
「嬉しい申し出なのです。でも初心者御用達の場所で弱い魔物ばかりだからナキナには物足りないかもなのです。」
街から近い事もありそんなに危険な場所では無い。
生息する魔物もかなり弱い部類のものばかりだ。
「成る程のう、宿屋の娘が行く様な場所じゃし当然じゃな。」
普段戦闘を生業としている冒険者では無い普通の宿屋の娘が訪れても問題無い場所なのだ。
危険であるならば女将だって送り出したりしないだろう。
「あっ、でも丁度良いのです。ナキナが来てくれるなら出来る事が増えるのです。」
「なんじゃ?」
弱い魔物しかいないと聞いたが他に役に立てる事があるならばシキの護衛ついでに何でも手伝うつもりだ。
護衛としての賃金もジルから定期的に貰える話しになっているのでシキの要望は可能な限り叶えたい。
「当初はリュカに付いていって薬草を集めて金策をする予定だったのです。でもナキナがいるなら更に金策が捗るのです。」
「金銭目的じゃったか。そんなに困っておるのか?」
セダンにきてから行動を共にしていたが特にお金に困っている様には見えなかった。
それどころか様々な収入源があり、人族として見ればお金持ちだと感じたくらいである。
「それなりに蓄えがあってもお金は幾らでも欲しいのです。この世界に存在しない未知の品々を求めると圧倒的に足りないのです。」
これまでに稼いできたお金も相当な量が無限倉庫のスキル内に収納されてはいる。
しかしそれでも日々を自由気ままに過ごしていくには全然足りないとジルとシキは思っていた。
「例の異世界通販のスキルの事じゃな?」
「そうなのです。」
「納得なのじゃ。」
あの金食い虫のスキルの為かとナキナは納得した。
仲間になり共に行動する事になったのでジルの魔法やスキルをいつまでも隠しておくのは難しい。
なのでナキナにはある程度話しておく事にしたのだ。
スキルで所持している魔法やスキルを隠蔽しているが相当な数を所持している事や、おそらくこの世界でオンリーワンのスキルである異世界通販と言うスキルを所持している事を話した。
それでもジルの前世についてだけは話していない。
元魔王であった事については元から知っている者以外にそう簡単に話し広めるつもりは無い。
既に元魔王は死に、転生して人族のジルとなったので、前世の事で騒がれるのも面倒だと思ったのである。
「そのスキルも驚いたがまさかジル殿があれ程の出鱈目さとはのう。底が見えん訳じゃ。」
魔法やスキルについて教えられた時にナキナは驚愕したが同時に納得もしていた。
強さを裏付ける理由としても充分であった。
「ナキナも魔法が使えないのにあんなに強いなんて凄いのです!」
「そ、そうかのう?」
シキに褒められて照れた様に頭を掻く。
ナキナの戦う姿は鬼人族の集落やバイセルの街で実際に見たが素人目でも凄いと分かる強さであった。
二つの小太刀を持ち双剣のスタイルで敵を次々と斬り倒す姿は強くもあり美しくもあった。
そんなナキナについての情報をシキは前にジルから聞いていたりする。
名前 ナキナ・デリモーン
種族 鬼人族(女)
年齢 17歳
魔法 無し
スキル 身体強化 鬼火
状態 正常
前に万能鑑定でジルが視た時の情報である。
種族の特徴なのか鬼人族に多いのだが魔法適性が全く無く魔法を使う事が出来無い者が多い。
代わりに身体能力を向上させるスキルを殆どの者が所持しており、ナキナも身体強化を使える。
使い勝手の良いスキルで、普段よりも身体能力が全体的に向上する効果がある。
戦闘を生業とする者ならば持っておいて損は無い。
そしてもう一つのスキルは鬼火と言う火系統のスキルである。
魔力を消費する事で火を生み出し操る事が出来る。
火魔法よりも魔力消費が大きいが、汎用性はこちらの方が上だろう。
「今日は期待しているのです。」
強いナキナが側にいてくれたらシキも安心出来る。
不足の事態が起こっても何とかしてくれるだろう。
「でも強い魔物はいないんじゃろう?」
「弱くて速い魔物を狩ってもらう事にするのです。」
違う金策と言うのは魔物討伐の様である。
弱い魔物を狩っても大した金策にはならないと思ったがシキにも何か考えがあるのだろう。
「ふむ、よく分からぬが分かったのじゃ。」
「詳しくは現地で教えるのです。そろそろ時間なのです。」
ナキナが自分の肩にシキとライムを乗せて階下に降りると既に準備を済ませたリュカが待っていた。
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